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第2話 黒紫の獣と二人の冒険者

 アクセラバードにやられた傷は思ったより深く、段々と体力を奪っていく。

「ハアッ……ハッ……ぐ……」

 くそっ……!うまく身体が動かなくなってきた。       

 ちょっと前からうつ伏せで匍匐前進状態だったが、ついに前に進めなくなった。

「こんな……ところで……!」

 目が霞んできて、景色がぼやける。まだ……まだだ!

「まだ死ねない……まだ終われない!俺には……まだやりたいことが山ほどあるんだ……!!」


 果たして魂の叫びが届いたのか、目の前に不思議な気配の獣が現れた。黒紫の竜のようだが身体は毛に覆われ、頭部には特徴的な一対の曲がった角が生えている。その獣は黄金の双眸で俺を見下ろしていた。

「ま……さか……ベヒモス様……?頼む、俺を……インディア村に……」

 そう、いつか神殿のレリーフで見た……。

 俺の意識はそこでプツリと途切れた。



 その日の夕方。

 二人の冒険者はようやくインディアと思われる村の前まで辿り着いた。

「はぁ、まさか隣の村までしか馬車が出てないなんて。お陰でいい運動にはなったけど」

「あはは、まぁね」


 村の入口まで歩いていくと、若干村の中が騒がしい様子だ。

「何かあったのかな」

「捜索隊みたいなのが組まれてるようね。ちょっと

事情を聞いてみるわ」


 銀髪の女性は、村の中ほどに集まっていた男性の一人に声をかけた。

「忙しいとこごめんなさいね。何があったの?」

「ん?見ない顔だな、冒険者か?」

「ええ、そうよ」

「そうか!……なら手を貸してくれないか?行方不明者の捜索だ。司祭さんとこの孫が帰ってきてないんだと。今朝早くに村を出て神殿に向かったらしいんだが」

「!神殿……?」

「ああ、ここから北に徒歩で30分ぐらいのところだ」

「なるほど」

 銀髪の女性は金髪の男性に目配せをした。

「いいわよ。報酬は今晩の宿代でどうかしら?」

「それぐらいならお安い御用だ」

「あら、もう少しふっかけとくべきだったかしら」

 そんな会話を交わしていると、村の入口がにわかに騒がしくなった。

 銀髪の女性が聞き耳を立てていると、どうやら魔物が一直線にこの村へ向かってきているらしい。

「全く、次から次へと忙しい村ね」

 そう言いながらも銀髪の女性は金髪の男性と共に村の入口へと向かった。


 村の入口の外側では、すでに魔術を使える者達が魔法陣を描き終えていた。

「放て!」

 号令とともに、一斉に魔法が放たれた。

 だが、魔物には全く当たっていない。

「なんて素早いやつだ……!」

「次はボウガンいくぞ!」

「わかった!」

 数名が次々と矢を放つが、やはり全て躱された。

「くそっ!いったいどうなってる!?」


 そうこうしているうちに、魔物の姿がはっきり見える距離まで近づいてきた。巨大な黒紫色の獅子のようで、2本の角が生えている頭部は竜に見える。

「ん?何か咥えてないか?」


 その時、後ろから司祭の声が響いた。

「お前たち!何をしておる!その御方は……!」


 もう村まであと少しの距離まで迫った魔物は、ひらりと人垣を飛び越え、村の中に着地した。


〝ここがインディアで間違いないか?〟

 その声はまるで頭に直接響いているように聞こえ、村の人々は驚いた。


 司祭が人々をかき分け、前に出てきた。

「はい、ここがインディアの村でございます、ベヒモス様」

〝そうか。この者に頼まれ届けに来た〟

 ベヒモスと呼ばれた獣は、口に咥えていたものをそっと地面に下ろした。

「!ライトか!この傷はいったい……!」

〝我が出会った時はすでにその状態であった。疾く治療するがよい。……ライトとやら、約束は果たしたぞ〟

 そう言うとベヒモスと呼ばれた獣は消えていった。


 村の人々は呆気にとられ、呆然と立ち尽くしていた。

「ライト!しっかりしろ、ライト!……誰か回復薬(ポーション)を持ってきてくれ、ありったけだ!」

 司祭の声に、人々は我に返って動き出した。


「ライト、頼む目を覚ましてくれ!」

 司祭はライトを優しく揺さぶった。その時、ライトがうっすらと目を開けた。

「じいちゃん……か……?ごめん……、きれいな……玉……機神(キジン)に……奪われ……」

 それだけ言うと、ライトは再び意識を失った。

「きじん……今『機神(キジン)』と言うたか!?……きれいな玉じゃと!?まさか……」

「司祭様?今は彼を休ませた方がいいのでは?」

「そうじゃな。ええと、お主は?」

 司祭はいつの間にか近くに来ていた銀髪の女性と金髪の男性にたずねた。

「冒険者のリナベルよ。こっちは相棒のコーディ」

「はじめまして司祭様。……よかったら僕が彼を運びましょうか?」

「おお、そうしてくれると助かる。……いつの間にか大きくなってしまってな」

 司祭のその言葉に、銀髪の女性リナベルは、司祭がかつてこの少年を背負って面倒を見ていたことが容易に想像できてしまった。

 金髪の男性コーディはうなずくと、ライトをそっと抱え上げた。

「では、儂の家に案内しよう。ついてきてくれ」


 二人の冒険者は司祭についていき、家へと通された。

「とりあえず、そこに寝かせてもらえるか?」

 司祭はソファーを指し、コーディはライトをそっと下ろした。

「爺さん!回復薬(ポーション)持ってきたぞ!」

 ちょうどその時、村の男が入口から入ってきて、テーブルの上に回復薬(ポーション)が入った袋を置いた。

「助かる!お代は後で持っていくと薬屋に伝えてくれ」

「了解だ!」

 村の男はすぐに引き返していった。


「いつもこうなの?」

 リナベルは司祭に尋ねた。

「昔は時々あったが……、今回はさすがに酷いな。早く起きてくれればよいが」

 司祭は回復薬(ポーション)の液をライトの傷口にかけながら答えた。

「そうね。……私も彼に聞きたいことができたし。あ、司祭様にも尋ねていいかしら?私達、アーイディオンポースの女王様から『竜の宝玉』を持ってきてほしいと依頼を受けたんだけど、それは北の神殿にあるのかしら?」

「女王様が……?」

 リナベルは懐に仕舞っていた依頼書を司祭に見せた。

「そうか。そうだな、『竜の宝玉』は北の神殿に祀られておるとの記録が残っておるが、本当かどうかはわからん。なにせ儂も見たことがないからの。……じゃが、こやつの話だと……」

 司祭はライトに視線をやった。

「そうですね。……今は彼の回復を待ちましょう」

 コーディも司祭と同じようにライトに視線を移した。

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