第16話 最悪な再会
不時着した場所から30分ぐらい歩いただろうか。
「あれがトランキルね。まだ戦ってるみたいね……!行くわよ!」
「了解」
リナベルとコーディが駆けだしていった。
「あんたはそこの岩かげに隠れてろ。もちろんやばいやつがきたら逃げろよ!」
「わ、わかりました!」
飛空機械の操縦士が岩陰に隠れたのを確認し、俺も二人を追いかけた。
「ベヒモス、手伝ってもらえるか?」
〝いいだろう〟
俺の隣に黒紫の竜が現れた。俺を追いこし町へ突っ込んでいく。
俺は慎重に町へと足を踏み入れた。
すでに亡くなっている人も少なからずいたが、なかにはケガで済んでる人もいて、「回復」の魔法陣符で治療しながら進んでいく。
その時、物陰から小さな何かが俺に襲いかかってきたが、鞘に入れたままの剣で攻撃を防いだ。
「狼型の機神か」
デザートウルフより少し小さめで金属のボディ、間違いなく機神の一種だ。
俺は空間から「雷」の魔法陣符を取り出し、そのまま使用した。
雷に打たれた狼型の機神は動きを止め、バタリと倒れた。
「倒した……?」
しばらく待ってみたが、再び動く気配はない。
「よっしゃ、こいつらなら俺でも何とかできそうだな」
収納魔法を覚えたことで、魔法陣符の所持枚数に制限がなくなったのが嬉しい。カードホルダーがお役御免になっちゃったな。あと、探さなくてよくなったのもナイスだ。おかげでストレスなく使用できるようになった。
「こりゃリナベルに足を向けて寝られないな」
俺はその後も町の中を回り、住民の治療と避難の手伝い、そして小型の機神の駆除をしていった。
けれど、まだそこかしこで戦闘音が響いている。
「けっこうな数じゃねーか。……この町に何かあるのか?」
俺は音のする方へ近づいていった。
しばらく行くと、広場が見えてきた。馬に乗った騎士がこちらに背を向けている。
機神と交戦中か?
助けようと動いたその瞬間 。
ザンッ!!!
文字どおり、一刀両断だった。
馬に乗った騎士だったものが、赤いものを吹き出しながら両側に分かれていく。
それだけでも充分恐怖だったが、その先に見えたものに背筋が凍りついた。
その機神は、何かを隣にいた機神に手渡していた。
「アクセラバード……」
俺は無意識に呟いていた。
それが聞こえた訳でもないだろうが、向こうも俺に気付いたらしい。
「そなたは……覚えているぞ、ライトよ。こんな所で何をしている?」
「それはこっちのセリフだ!」
俺は剣を鞘から抜いた。怖いけどやるしかない。
「まぁ待て。まずはお互い無事に生還できたことを喜ぼうではないか。我もあの後中々大変な目にあったが、そなたの傷も気がかりだった」
お前がやったんだろうが!めちゃくちゃ痛かったしトラウマになったんだぞ!
「すでに死んでいるのではないかと思ったが、そなたは生きていた」
アクセラバードは俺の方に数歩進み出た。
「あの時、そなたに礼をすると言ったな。忘れてはおらん、今こそ果たそう。そなたを天の座へ迎え入れよう」
アクセラバードはその大きな手を俺にさし出した。
「我と共に来るがよい」
機神の仲間になれってことか!? 分からねえ!
「礼って言うんなら、持っていった宝玉を返しやがれ!」
「それはできぬ相談だ。あれはすでに我が主へ捧げられた。いくらそなたの頼みでも返すことはできぬ」
「なら……その主のとこに案内したくなるように、ぶっとばしてやる!!」
俺は剣を正眼にかまえた。
「ハハハハハッ……!! 実に愉快だ!それこそ我等の行動原理!意に沿わぬ者は力ずくで従える!」
アクセラバードも獲物を構えた。
「力こそ全て!やってみるがよい!!」
俺は剣で斬りかかるとみせて、「雷」の魔法陣符を使用した。
海の魔物と同じく、こいつらには「雷」の魔法陣符がよく効くみたいだ。
アクセラバードに会うまでに遭遇したやつらは、他の魔法陣符の効きは今一つだったが、「雷」は良く効いた。
そして魔力を流し、形態変化させる。
幾筋もの雷がアクセラバードに襲いかかった。
「ほう!やるではないか」
だが、そのいずれもアクセラバードを捉えることはできなかった。
それどころか、あっという間に俺に肉薄してきた。あいつの斧をまともに受けると吹き飛ばされるのは経験済みだ。できるかぎり躱してダメな時は受け流す。
「いいぞ、この短期間で鍛錬を積んだな」
なぜか奴は上機嫌だ。連続で斧を叩きこんでくる。
こっちも反撃したいところだが、隙が見つからない。船の上でのリナベルのみっちり絞られコースは、魔力の使い方だけじゃなくて物理攻撃の方もやったから、最初に奴と戦った時よりは、幾分マシだと感じてはいるが。
「どうした、反撃しないのか!?」
焦ってはダメだ、奴の思うツボだ。
俺は叩きこまれる斧を避け、受け流しながらタイミングをはかる。
その時、一瞬テンポがずれた。ここだ!
俺は奴の足元をすれ違いざまに斬りつけた。
すぐに攻撃がくるハズだ、俺は奴と距離をとった。
だが、攻撃はなかなかこなかった。見ると奴は肩を震わせている。
「ハハハ……!やるではないか、ライトよ!この我に刃を届かせた者は久方ぶりだ。興が乗ってきたぞ、こちらも少し本気でいこうか」
笑ってたのか!しかもやっぱり余裕だったのか!
その時だった。
突如現れた黒い物体にアクセラバードが吹き飛ばされたのだ。
一体何が?と思ったら、その黒い物体は俺の側にやってきた。
「ベヒモス……!」
〝すまない、遅くなった。思いのほかザコが多くてな〟
俺は思わずベヒモスに飛びついた。
「助かったよ、やばいところだったんだ」
吹き飛ばされた先の建物の瓦礫の中から、アクセラバードが立ち上がり、こちらを睨んでいた。
「精霊竜か。すでに魅入られていたか……」
アクセラバードの呟きはよく聞こえなかったが、雰囲気が一変した。
「いいだろう。その呪縛、我が断ち切ってやる」
言うなり斬撃を飛ばしてきた。
「危ねえ……!」
俺は咄嗟に避けたが、奴はベヒモスに向かっていった。
奴の斧が唸りを上げるが、ベヒモスはうまく躱していく。
その合間にベヒモスは黒い火球を見舞っているが、アクセラバードは全くダメージを受けていない。それどころか除々にベヒモスを圧倒しはじめた。
助けたいが、恐らく俺の攻撃は通らない。やつに刃を届かせて初めて分かった。
装甲が厚すぎる。斬れる感覚が全くなかったのだ。
「どうすりゃいい……?」
俺は周りを見回した。少し気が引けるが、いい
案を思いついた。
「器物損壊とかで訴えられそうだけど、やるしかない」
ベヒモスと奴の距離が離れた。今だ!
俺は「岩」の魔法陣符を使用、やつの背後の建物にぶつけ破壊した。
大量の瓦礫がアクセラバードに襲いかかる。
「!?」
予期せぬ事態に奴の足が止まった。
瓦礫に埋もれるアクセラバードにベヒモスが追い討ちをかける。
特大の黒い雷が降り注いだ。
「どうだ……!?」
土埃と焦げる臭いが漂う中、アクセラバードの姿を探す。
〝ライト!後ろだ!〟
ベヒモスの声に後ろを振り返るが、時すでに遅し。
「少し黙っていてもらおう」
アクセラバードの回し蹴りがヒットし、俺は近くの建物の壁に叩きつけられた。
「がはっ……!!」
背中を強打し、咄嗟に防いだ両腕はひどい有り様になった。
動かそうとしたが無理だった。回復薬や魔法陣符が使えない……!
徐々に痛みに襲われ、意識を手放しそうになる中、俺は必死に奴を睨んだ。
「良い眼だ。我を前にして中々できる眼ではない」
奴は俺を一瞥し、戦闘不能と見做したようだ。
すぐにベヒモスに向かっていった。
〝おのれ……!〟
ベヒモスは爪を繰り出すが、アクセラバードは全て弾き返した。
「何故だろうな……、ライトと戦うのは楽しいが、そなたと戦うのはつまらぬ。そなたの方がライトよりかなり強いのだがな……。やはり伸びしろの差か」
アクセラバードは何か呟きながら斧を構えた。
斧に尋常じゃない力が集まっているような気がする。
ベヒモスもそれに気付き、回避しようとした時、それは放たれた。
「我が道征きを邪魔するものに等しき破壊を与えん!エクスデストラクション!」
光がその場の全てを飲み込んだ。
一瞬の静寂の後、そこには何もない荒野が広がっていた。
「ベヒモス……!」
姿が見当たらない。やられたのか……!?
〝心配するな、少しの間姿を現せないが無事だ〟
「良かった……」
俺はほっと胸を撫で下ろしかけたが、ピンチは続いている。
「次はそなたの番だ、ライトよ」
アクセラバードが振り返り、俺の方へ歩いて来る。
やばい、このままじゃ……!
「……と思ったが」
アクセラバードは指笛のような音を出した。
すると、どこからか大きな鳥型の機神が現れた。
「連れて行け」
その鉤爪が俺を掴もうとした瞬間。
ドンッ!と音とともに鳥型の魔神が地に落ちた。
「ライト君、大丈夫!? 回復」
俺の両腕の傷があっという間に治った。
「リナベル、ありがとう!コーディも!」
コーディが鳥型の機神を撃ち落としてくれたのだ。
その様子をアクセラバードは興味深そうに見ていた。
「そなた、その武器は……」
アクセラバードはコーディの銃を食い入るように見つめた。
「ふふ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ご想像におまかせするよ」
コーディは挑発するように微笑んだ。
「おもしろい!見極めてやろう!」
アクセラバードはコーディに突っ込んでいった。
「すごい音がしたから何事かと思ったけど」
リナベルは辺りを見回した。町の一部がまるごと無くなっているのに驚いているようだ。
「ほんとによく死ななかったわね」
「ああ。……あいつ、俺にはかなり手加減してるみたいだから」
そうだ、さっきの回し蹴りを喰らった時だって、ちょっと本気なら俺を絶命させることだってできたハズだ。
「どういうこと?」
「う〜ん、よくわからねえけど、俺に礼をしたいらしいぜ?さっきも一緒に来いって言われたし」
「礼?」
「ほら、神殿にあった宝玉だよ。俺がいたから持って行けたってやつ」
「ああ!……あー、お気の毒に。アクセラバードはしつこいので有名だったから。気の済むまで絡まれるわよ」
リナベルは可哀想なものを見るような目で俺を見た。
「やめてくれ!俺は機神の仲間になんてなりたくないのに!」
「え? 一緒に来いってそういう意味?……それは聞き捨てならないわね。ライト君の血は私のものよ」
「え!?」
「あ、ゴメン、今のなし!私もライト君が機神の仲間になるのは嫌だからね!」
「ええー……」
もう聞いちゃったし。俺はジト目でリナベルを見た。
「と、とりあえず住民の避難は完了してるから、頃合を見て私たちも離脱しましょう。今の私たちの手には負えないわ」
リナベルはもう一度破壊の跡を見た。
「さんせーだ。だけどどうやって……」
その時、俺たちの方へコーディが吹き飛ばされてきた。
リナベルがキャッチする。
「助かったよ。……やっぱり強いな」
コーディはこちらへ向かってくるアクセラバードを見据えた。
「ハハハ、いいぞ!そなたも中々使えるな。あとはそこな吸血鬼か。そなたの顔は見覚えがないな」
「そうでしょうね。ギアスレギアにはお世話になったけど」
「地の座の主か。なるほど、そなたも楽しめそうだな。……いいだろう、まとめて相手をしてやろう!」
そこからアクセラバードはまたギアを上げた様だった。
コーディの銃撃の合間にリナベルに接近、数回打ち合った後、リナベルが吹き飛ばされ建物の壁に激突したが、リナベルは無傷だった。
いや、おかしいだろ!さっきの飛んできたコーディをキャッチしたのといい、リナベルの力はどうなってんだ!? それとも魔法の技術なのか!?
アクセラバードはそれを確認もせずに、今度はコーディに向かっていった。
コーディは背に負っていた大剣をいつの間にか抜いていて、アクセラバードを迎え撃った。
俺やリナベルと違ってコーディは吹き飛ばされずに奴の斧を受け止めている。
「ほう!」
アクセラバードは少し驚いたようだ。
「やはり、そなた……」
コーディは皆まで言わせず、大剣を薙ぎ払った。
そこから連続で追撃を放ち、アクセラバードに息をつく暇を与えない。
コーディも大概おかしい。あんな重そうな大剣をまるで片手剣のように振り回している。ほんとSランクの奴らってどうなってんだ?
だがアクセラバードはちっとも追い詰められた雰囲気じゃない。むしろ楽しんでるんじゃないか?
やはりというか、コーディを押し返しはじめた。あのおかしなSランク二人の更に上を行くっていうのか?嘘だろ!?
そして遂にコーディを吹き飛ばし、建物に激突させた。
追撃するかと思いきや、奴は頭の側面に手を当てていた。
「……ちっ、久し振りに楽しんでいたのだがな。仕方あるまい」
奴は何事か呟いた。
コーディが瓦礫の中から出てきた時、斧を振りかぶった。
「突然で悪いが、所用にて失礼する。そなた達はまだ強くなれるだろう、これを生き延び、もっと我を楽しませてみせよ」
言うなり斧を地面に叩きつけた。
そこから円形に衝撃波が発生し、アクセラバードの姿が消えた。
「なっ……!」
「ライト君、危ない……!」
リナベルが俺を建物の陰に押し込んだ。
だが、衝撃波は容赦なく建物を削り取っていく。
「うそ……!」
「!!」
リナベルは咄嗟に俺を庇ってくれた。
そして、衝撃波が通り過ぎた後、トランキルの町は静寂に包まれた。




