第11話 謁見
それからしばらくして、リナベルとコーディが帰ってきた。
「うふふ〜見て見て、なかなかいい収入になったわよ。はい、これライト君の分ね」
リナベルはテーブルにドンとお金の入った袋を置いた。ジャラリといい音がする。
「ほんとか!? これ俺がもらってもいいのか!?」
「ええ、ベヒモスが倒してたでしょ?」
「そっか!サンキュー!」
俺がテーブルに手を伸ばして、袋を持ち上げた時、部屋の入口のドアがノックされた。
「失礼いたします。私アーイディオンポースの王宮より参りました、近衛のアーウィンと申します。悠久の翼の方々はいらっしゃいますか?」
「開いてるわ、入ってちょうだい」
入り口のドアが開き、明るい茶髪で背の高い軽装備の男性が入ってきた。
「お伝えした時間より早くなりましたが、女王様がぜひにと申されまして、お迎えにあがりました」
アーウィンと名乗った男性は優雅に礼をした。
「そうなのね。……わかったわ、じゃ二人とも、行きましょうか」
俺とコーディはうなずいて、部屋を出ていくアーウィンとリナベルに続き、外に停めてあった豪華な馬車に乗りこんだ。
馬車は城下町から貴族街に入り、王城の城門前で停車した。
俺たちは馬車を降り、アーウィンに続いて入城した。武器を預け、広大なエントランスを抜けて回廊を通り、謁見の間の前室へと通される。
「……もう間もなく前の方の謁見が終わるでしょう。しばしお待ちください」
俺たちはうなずいて、静かにその場にあった椅子に腰掛けた。
5分後ぐらいだろうか、前の人が終わったらしく、俺たちは大きな門の前に通された。
「ライト君、女王様の前に進んだら、礼をしてね。女王様が“面を上げよ”と言うまで顔を見ちゃだめだからね」
リナベルが俺にそっと耳打ちした。
「ん、わかった」
俺も小声で返事をした。
そのタイミングで門が開き、俺はリナベルとコーディのあとについていった。
女王様の前まで進むと、リナベルとコーディが片ひざをついて礼をした。
俺も慌てて同じように礼をした。
「冒険者Sランクパーティ“悠久の翼”のリナベル・スカーレット、コーディ・ラグナレク、並びに参考人のライト・アルトノートです」
近衛兵が俺たちの名をよく通る声で告げた。
「面を上げよ」
女王様が口を開き、俺たちは女王様と対面した。
「リナベル、コーディ、ご苦労であった。報告を聞こう」
プラチナブロンドの美しいストレートの髪に、煌びやかな王冠を戴く女王様が、そのアメジストの瞳でリナベルとコーディを見つめた。
リナベルは一呼吸置いて、口を開いた。
「はい。……結果から言うと、『竜の宝玉』は入手出来ませんでした。ご期待に添えず、申し訳ありません」
女王様は少し肩を落とした様だった。
「そうか……。その理由をそこのライトとやらが語ってくれるのだな。ライトよ、発言を許そう。理由を聞かせよ」
「は、はい、わかりました」
もうちょっと長話するかと思ってたから、ちょっとあせっちまった。
俺はなんとか返事すると、神殿で起こったことを女王様に話した。
「機神と遭遇し、その機神に奪われたとは……」
女王様は眉間をつまんで、揉みほぐしていた。
「そなたも災難だったな。……最近各地で機神の目撃情報が上がってきているのだが、そのような大物まで出てきているとはな」
女王様の言葉に、周りの大臣みたいな人たちがどよめいた。
「静まれ。我々も対策を色々と考えている。そのうちの1つが、各国の冒険者ギルドと連携して、対機神の組織を新設することになった。名をガーディアンフォースと言う。リナベル、コーディはこの組織に参加してもらい『竜の宝玉』を奪還してほしい。『竜の宝玉』こそ……我々が精霊竜と言葉を交わすのに必要なアイテムなのだ」
女王様みたいな一般の人もってことか。
「女王様、発言をお許しください」
「よかろう」
リナベル、何を言うつもりなんだろう。
「ここに控えるライトは、精霊竜と言葉を交わすことができます」
「なんと!まことか!?」
何てこと言うんだ、リナベルめ!面倒ごとに巻き込むつもりだな!
周りにいる大臣みたいな人たちに加えて、警備の兵士たちもざわついている。
「私とコーディは彼が精霊竜と会話しているのを見ています」
リナベルの隣でコーディがうなずいている。コーディ、お前もか!っていうか、二人も精霊竜と話したよな!?
そこで少し目を見開いた女王様は、何かに思い当たった様だった。
「まさか……呼べるのか? 精霊竜を……」
「おそらく」
そのリナベルの言葉に、女王様は俺をじっと見つめた後、口を開いた。
「ライトとやら、今ここで精霊竜を呼べるか?」
今?ここで!?
いや、呼べるか呼べないかなら、呼べると思うけど……。“必要な時はその牙に願え、疾く駆け付けよう”って言われたしな。でも、まだ呼んだことないし……どう答えればいいんだ?
「……大丈夫よ、ティアマトあたりを呼んでみたらどう?」
リナベルが俺にそっと耳打ちした。
「ダメだった時は私が何とかしてあげるから」
「ほんとだな?ちゃんと聞いたからな」
俺もこっそり言い返した。
そして、覚悟を決めて女王様の問いに答えた。
「……分かりました、呼んでみます。……ティアマト、来てくれ」
俺が透き通った水色の牙に手を当てて願うと、エメラルドグリーンの6枚の翼を持つ竜が現れた。
驚いた警備の兵士が、それぞれの獲物を竜に向けている。
〝どうした、ライトよ。この者たちを蹴散らせばよいのか?〟
「いや、それは大丈夫だ。女王様があなたの姿を見たいらしくて」
〝そうか。ならばもう良いのだな?〟
「うん、ありがとう」
俺が礼を言うと、ティアマトは空気に溶けるように消えていった。
それとともに、また謁見の間がざわつきはじめた。
「あれが精霊竜……」
「何という威容だ……」
色々な声が聞こえていたが、不意に疲労感に襲われ俺は少しふらついた。
それに気付いたコーディがそっと肩を貸してくれた。
「大丈夫?」
「ああ、すまねえ。……精霊竜を呼ぶのは案外こたえるみたいだ」
この感じだと戦闘中に呼べるのはギリギリ1回ってとこか。……あれ? ベヒモスはそんなに疲れはないよな、何でだ?
「ライトよ、そなたが真に精霊竜と語れると認めよう。なればそなたもリナベル、コーディと共にガーディアンフォースに参加してほしい。1週間後に北方のノルドツァンナで結団式が行われることになっている。明朝、飛空機械を飛ばすゆえ、本日は城の滞在を許可しよう。ゆっくりと休んで明日に備えるがよい」
その女王様の言葉をもって、俺たちの謁見は終了となった。




