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第1話 邂逅

 その日、インディアの司祭は夜空に凶兆を見た。

紅き星が天を割るように落ちてくる様は『機神』の襲来を知らせるようであった。

「再び戦が起こるか……」

司祭は夜空を仰ぎ見て、ひとり呟いた。


機神(キジン)』。

 100年程前それは唐突に現れ、瞬く間に世界を蹂躙した。人型や魔獣型、この世界に息づく命の形を模倣しながらも、身体を構成するパーツは金属であり、高威力の火器と精神感応兵器を使い、全ての生命を滅ぼさんと牙を剥いたのだ。

 当然この世界に生きる者達は抵抗した。

 人間と獣人とエルフは世界を司る精霊竜の力を借りて戦い、ドワーフは永遠を生きる者(ノスフェラトゥ)と力を合わせ、決戦兵器ギガントゴーレムを完成させ、ついに機神の主『デウス』を沈黙させた。

 その日より機神達は鳴りを潜め、荒廃した大地を残し、人々は平和を手にしたかに見えた……。


「じいちゃん、何か用か?」

 俺は司祭のじいちゃんに呼ばれて自宅の祭壇のある部屋に来ていた。

「おお、来たかライト。お前にちと頼みたいことがある。神殿の様子を見てきて欲しいんじゃ」

「えー。じいちゃん元気なんだから自分で見に行けばいいだろー?」

「バカモン!儂は日々のお勤めで忙しいんじゃ!まったくアーイディオンポースの学校に通えたのは誰のおかげじゃ!?お前みたいな手のかかる孫を持つと……」

「あーわかった、わかったよ!見に行けばいいんだろ!」

 説教が始まりそうだったので、俺は即祭壇のある部屋を後にした。


 俺はライト・アルトノート。黒髪、翠瞳の美丈夫……ごめん嘘つきました、あまり背の高くない普通の16歳の男で、ここ辺境の村インディアに住んでる。冒険者をやってた両親は魔物にやられて他界、兄弟もなくじいちゃんと二人暮らしだ。じいちゃんは精霊竜に仕える司祭をやってる。あれ?何歳だっけ、たぶん60は過ぎてるはず、ハゲてるからもうちょい上かも。

 ちなみにインディア村も他の村と変わらず、荒野の中のオアシスっぽいところにポツンとある感じだ。


 そんで神殿はここインディア村から徒歩で30分ぐらいの距離にある。何とかかんとかって長い名前らしいけど、通称『竜の神殿』、村にいる人は神殿って呼んでる。結構昔、竜信仰が流行ってた頃は精霊竜を見ることが出来るってんで、巡礼に来る人も多かったらしいんだけど、精霊竜が姿を現さなくなった最近はめっきり減ってるって話。ちなみにここインディアは神殿の管理(祭祀も含めて)と巡礼者の宿場として出来た村らしい。


「さてと、行くとしますか。けどじいちゃんは何を見てこいと?あー、聞きに行くとまた説教だから、適当にパトロールでいいよな」


 そういう訳で俺は村を後にした。

 まさかこれが長い旅路になるなんて知る由もなく……。



 時は少し遡る。

 二人の冒険者がアーイディオンポース王国の女王に謁見していた。

「ここより北西に馬車で一週間程の場所にインディアという村がある。その村の北に精霊竜が祀られている神殿があるのだが、そこから『竜の宝玉』を持ち帰ってもらいたい。そうだな……報酬は金貨50枚を出そう。どうだ、受けてくれるか?」

 女王は二人を見た。

「おそれながら。その『竜の宝玉』とは、どのような物ですか?」

 女王から見て右に控えている、金髪で深い青色の瞳をした青年が口を開いた。

「澄んだ水色の球形をしているという。私も実物を見たことはないのだがね」

 女王は少し肩を竦めた。

「そうですか。……分かりました、エウスレーカ様からの依頼とあれば受けない訳にはまいりません。必ずや『竜の宝玉』を持ち帰りましょう」

 女王から見て左に控えている、銀髪で深紅の瞳をした女性の言葉に、アーイディオンポース王国の女王エウスレーカ・フレナ・アーイディオンポースは満足気に頷いたのだった。



 インディア村を出て30分程で、俺は神殿に辿り着いた。これまでの道のりの乾いた大地が嘘のように、神殿の周りだけ緑に覆われている。

「さて、ちゃっちゃと見て回りますか」

 神殿は石造りで、ピラミッド状に積み重ねられている。ところどころ蔦も絡みついてて雰囲気満点だ。

 まずは外を一周。

「うーん。特に変わったとこはないよな」


 それから中に入ってみた。

 入るとすぐにだだっ広い部屋がある。中央に供物なんかを捧げる台があって、その後ろの壁には精霊竜のレリーフがぼんやりとした青い光に照らされて浮かび上がっている。初めてここに来た時、青い光のことをじいちゃんに質問したら、分からんとしか言われなかったことを思い出した。

 大昔の建物って分からないことだらけってことだけは分かったな。


「いつもの祭壇だよな。……ん?」

 祭壇の右奥の扉のように見える壁に、ぽっかりと穴が開いていた。

「壊れたのか?……いや、壊されてるな。どうやってこんな分厚い壁をぶち抜いたんだ?」

 見ると、更に奥に通路のようなものが続いていた。

「神殿にこんなとこがあったとは。……さて、犯人を追うべきか、戻って報告するべきか」

 少し悩んだが、面を拝んでから報告することにした。


「こんなに広かったのな、この神殿」

 通路を進んでいって体感で30分ぐらい、迷路のように入り組んでて、だんだん下に降りていってるようだ。もう何度目かの分かれ道を右に進む。

「犯人はまだ先か?それとも……」


 どうやら最下層まで降り着いたようだ。分岐していた道はおそらく目の前の部屋につながっているのだろう、ここで行き止まりになっていた。

 部屋の入口に扉はない。俺はそっと中の様子を窺った。

 一番に目を引かれたのは、中央の台座に置かれた澄んだ水色の玉だった。見るとリラックスするような、落ち着く感じがする。その周りをバリアのような透明なものが覆っている。左側には空の台座があった。

 その右側を見た時、『それ』はいた。

 動揺した俺は少し足を動かしてしまい『それ』に位置を知られてしまった。

「なにやつ……!」

『それ』は斬撃を飛ばしてきた。すんでのところで俺はそれを躱す。

 体勢を立て直したところで『それ』を正面から見据えた。

 明らかに俺よりもでかく、人型だが頭部は竜に似ているようで禍々しい。手には柄が長すぎる斧のようなものを持っている。何より『それ』の特徴は金属の身体を持っていることだった。

「まさか『機神(キジン)』……!?」

「……その名で呼ばれたのは久しぶりだ。我が個体名はアクセラバード。そなたの名を聞こう」

「俺はライトだ!」

「そうか。ではライトよ、ここで死んでもらおう」

 アクセラバードが再び斬撃を放ち、俺に襲いかかってきた。

「いや待て!それはあんまりだろ!」

 もちろん避けるが、避けた先に回り込まれている。あの図体でおかしいだろ!

「ぐっ……!!」

 アクセラバードの一撃を咄嗟に鞘に入れたままの剣で防ぐが、いかんせん体重が違いすぎて吹き飛ばされ、壁に激突し背中を強打した。壁が少し崩れて粉塵が舞う。

「ごほごほっ……!」

 やばい、こいつはどう考えても勝てない。すぐに動かなければ殺られる……!

 粉塵を盾に、俺は「(デコイ)」の魔法陣符(マジックカード)を設置し、戦闘からの離脱を試みた。

「普通の魔物程度ならこれで逃げおおせただろうがな」

 アクセラバードはデコイではなく俺を狙ってきた。

「くそっ……!」

 先程のこともあり、俺はアクセラバードの斧を受け流す。

「ほう、中々やるではないか」

 アクセラバードは攻撃の手を止めた。

「そしてその剣。かなりの業物だな、我が斧の一撃を受けて折れぬとは。これは久々に楽しめそうだ」

 再びアクセラバードが攻撃を仕掛けてきた。

 俺は「(ウォーター)」の魔法陣符(マジックカード)と「(フレイム)」の魔法陣符(マジックカード)を続けて使用した。

 アクセラバードは回避せず、爆発の中を突っ込んできた。

「嘘だろ!?」

 一瞬で距離を詰められ接近戦に持ち込まれる。こうなると魔法陣符(マジックカード)は使えず防戦一方になってしまう。

「どこまで捌けるかな?」

 アクセラバードは次々と斧を繰り出してくる。一度でもまともに受けたら吹き飛ばされること必至のやつだ。

 奴はどこまでも余裕だ。対して俺は常に一撃をもらわないよう全力だ。

 この差は大きい、いや、大きすぎる。加えて先程の背中のダメージがじわじわと効いてきた。

 徐々に追い詰められ、ついに下段からの斬り上げをまともに受けてしまい、空中に飛ばされた。

「さらばだ」

 アクセラバードは無数の斬撃を飛ばしてきた。もちろん避けきれるはずもなく、身体中を切り刻まれ、床に叩きつけられた。

 痛すぎて声も出ない。

 ゆっくりとアクセラバードが近づいて来るのがわかった。とどめを刺す気だ。


 こんなところで俺の人生終わるのか?じいちゃんのお使いに来たばっかりに?

 そんな……そんなのって……。


 ここまで考えて、とどめの一撃がなかなか来ないことに気付いた。うっすらと目を開けると、俺の周りの床が仄かに光っていた。アクセラバードはこれを見ている?

「もしや……」

 アクセラバードの呟きが聞こえたと思ったら、痛みと共に浮遊感が訪れた。

 俺の両腕を片手で掴んで持ち上げてやがる……!

 そのまま左側の空の台座に乗せられた。傷口から流れ出る血が台座に吸われていく。

 しばらくすると、床全体が仄かに光りだした。と思ったら光が中央の台座に集まり、バリアのような透明なものが消えていった。

「そうだったのか。……ハハハ、感謝するぞライトよ。そなたのおかげで我が目的は果たされた」

 アクセラバードは中央の台座に置かれていた澄んだ水色の玉を手に取った。

「ふむ。中々の力を内包していそうだ。これならば……。ライトよ、そなたに礼をせねばなるまいか。……先程の戦いもヒトにしてはやるようだったしな……。連れ帰り育ててみるのも良いかもしれぬ……、!!」

 そこでアクセラバードの言葉は途切れ、突如として姿もかき消えた。

 助かった……のか?

 俺は「回復(ヒール)」の魔法陣符(マジックカード)を使用し傷を癒した。だが、さすがに深すぎる傷は治せていない。

「こんな大怪我する予定はなかったんだよ、くそう……。出口まで体力持つか……?でも行くしかない……!」

 俺は足を引き摺りながら出口を目指した。

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