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逃走の歩幅

皆さんは能力について考えた事がありますか。

勿論、このサイトを利用する人の多くはこの能力が使えたらなぁ……や、この能力でこう無双させたいなぁ……など考えた事があると思います。


ですが、弱い能力について考えた事はありますか?

そりゃ、モブとして考えることはあると思います。

例えば、『ボタンを縄に変える事ができる能力』とかね?

(これ知ってる人いる……よね?)


でも、能力って解釈次第で全然強くなれるな。と

このお話は、そんな一見弱い『歩行』の能力を持って生まれた

「結城・アルセイン」君が能力の力を駆使して異世界を冒険していく物語です。


あ、テンプレ期待した人は回れ右することをお勧めします。

それでは、物語の世界へ行ってらっしゃい

「なんでこんな事に……」


 空を駆けながら、脳裏によぎる「死」と自分への無力感を必死に払拭する。

 

 そして、背後から迫る盗賊の気配に怯えながら空を蹴り逃走を続ける。


 なぜ僕が盗賊に追われているのか。

 事の発端は僕が社交会から帰って来る所まで遡る。

 父と母は伯爵や領主との談話があるとかで、僕1人だけ護衛とメイドに付き添われ帰宅することになった。


 僕が馬車に乗って家に帰っている途中、ガタン!と大きな音がして馬車の動きが止まった。


 馬車の外では激しく金属音が鳴り響く。

 既に護衛と馬車を襲ってきた盗賊が戦闘を始めていて、ただならぬ状況なのは直ぐに理解できた。


 同乗していたメイドや護衛に馬車の中で留まることを促され、息を殺して戦いの終着を待つ。

 

 戦闘の音が消え、僕は怯えながらそっと馬車から顔を出した。

 しかし、目に映ったのは倒れ伏せていたり、首の無くなったりしている護衛やメイドの姿。

 その近くで笑いながら剣についた血を拭っている盗賊達の姿だけだった。


 そんな希望の無い惨状を認識して、僕はなるべく静かに、そして迅速に能力を使って空へと駆け上がっていった。


 だが直ぐに気付かれてしまい、盗賊達は風の魔法を使って空を駆ける僕を延々と追跡してきた。


 それから、いくら能力を使って逃げようが盗賊達はどこまでも執念深く追ってきた。


 僕の能力は 『歩行』


 小さな頃から世界のどこでも歩くことが出来た。

 空も、水の上も、壁も、崖も。


 しかし……それだけしか出来ないのだ。

 火のように敵を焼く事も出来ず、氷の様に壁を作ることも不可能。戦闘において何の役目も果たさないこの能力が、僕は大嫌いだった。


 その上、能力が弱いことを言い訳に剣の稽古や魔法の練習も怠けてきた。

 自業自得だということは理解しているが、自分の無力さに苛立ちを覚えるばかりだった。


 自分の弱さをどんなに心の中で嘆いたとしても、盗賊達が引き返す事は勿論無かった。


 水上を歩行すれば風の魔法を使って追いかけてきて、壁や崖を使って逃げたとしても逃げた先には盗賊達が待ち構えていた。


 間一髪でそんな状況を乗り越え続けた。

しかし、結局は能力を使うための魔力が底をついて仕方なく地面に降りて逃げるしかなくなった。


 それからは地上での鬼ごっこが始まり、30分以上走り続けた。時間は既に夜を迎え、町中へ入っても人の姿は一つとしてなかった。


 毎日のように能力を使って家の外を歩き回っていたから、体力はおのずと付いてきてたみたいだ。

 でも、少し疲れが来て、咄嗟の判断で追跡を逃れやすい路地に逃げ込むことにした。


 だが、そこには見慣れない高い壁がそびえていた。


 いつもならこんな場所に壁なんて無かった。

 つまり…盗賊グループのうちの一人が土魔法などで進路を塞いだのだろう。


 後方には盗賊の迫る足音が鳴り、もう僕の逃げる道は全て消されていた。


 そして、能力が使えない今。目の前に立ちはだかる壁に絶望を感じない訳にはいかなかった。


「はぁ……はぁ……とうとう追い詰めたぜぇ……結城家の一人息子……結城・アルセイン」


 息を切らしている盗賊のリーダーの声が背後から聞こえる。


「それじゃあ、それじゃあ吐いてもらうぜ…お前の家にある金目の物の場所全部!」


 発言の内容からして、泥棒行為を何度か試みたが肝心な金庫や武具の部屋は見つからなかったのだろう。


 身体の向きを変えて相対すると、かなりの数の盗賊が鈍器を肩に担いだリーダーの背後に立ち僕を見据えてきている。


「お前等なんかに……僕の家の物は盗ませない……」


 リーダーを睨みつけ、精一杯の強がりでその言葉を紡ぐ。


「そうか……それじゃあ身体に聞くしかねぇなぁ!」


 その言葉が聞こえた直後、腹部に大きな衝撃が走る。


 あまりの痛みに、腹を押さえてうずくまる。


 視線だけ上げると、リーダーの手にもたれたバッドが僕の腹部にめり込んでいた。


「言いたくなったらいつでも言えよ」


 痛みに悶絶する暇も無く右肩へと2撃目が叩き込まれた。

 その時、父にさんざ聞かされた言葉が脳裏に蘇る。


『貴族の家系に生まれたから、命を狙われる状況になる事があるかもしれない』

『そんな時は私達の心配をしないで吐いて良い。大事なのはアルセインの命だから』と。


 その後、僕が口を割るまでリーダーは身体中を殴打してきた。

 でも、僕は口を噤んだままだった。

 別に、迷惑になるからとかは関係なく、ただ……ここで吐いたら負けるような気がしただけだ。


 身体中の骨が折られたって、僕は絶対に口を開かなかった。

 チンケなプライドを背に、動かなくなった腕をを抑えながら痛みを笑ってやり過ごす。


「もういいや、全然吐かねぇからこいつ殺すぞ」


 リーダーはそう言うと鈍器を手放し、刃先の鈍く光る短剣に持ち替えていた。

 冗談には聞こえなかった。


「僕を殺したら……人質が居なくなるんじゃない……?」


 口から血を流しながら、煽るように言い放つ。

 散々強がっていたのに、どうしても死を恐れてしまう。


「だったら……次はお前の母親を襲えばいいだけだろ?」


 当然の様に告げて、冷たい目線で僕を見てくる。


「そして生憎様……俺は人を殺すのが結構好きなんだよ」


 緊張の糸が切れたのか、気力の尽き果てた僕は、その発言と視線に絶望しながら死を覚悟する。


「安心しろ、ちゃんと苦しませて殺してやるから」

「『痛覚倍化』!」


今、目の前で短剣が能力によって強化された。

これだから能力格差は嫌いなんだよな。


 そして……鋭い刃を光らせた短剣が、僕の首元目掛けて振り下ろされる。


 恐怖により、咄嗟に目を瞑る。


 ……だが、その刃が僕の首に届く事は無かった。

本文について、多分もっと短くできるんだろうけど……この絶望感が伝わって欲しかったから長くなっちゃった()

次回からちゃんと名前と本題に入っていくね。

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