聖女じゃないのに正常じゃない日常2-聖女じゃない私と消えた麦畑の謎
私はレイラ。
聖女じゃないけど、なんか最近「聖女扱い」されることが増えている。
魔法が少しだけ使えるだけの田舎の平民なのに、なんでだろうね?
私はレイラ。聖女じゃないのに、なぜか最近「聖女様」なんて呼ばれることが増えてきた。困った人を見捨てられない性格と、ちょっとだけ魔法が使えるせいだと思うけど、実際のところ私はただの田舎育ちの17歳だ。
そんな私に、またしても厄介な話が舞い込んできた。それは、村の大事な麦畑が突然「消えた」という奇妙な出来事だった。
「レイラ、また厄介な相談で悪いが……」
領主様は申し訳なさそうな顔で、私を領主館に招き入れた。テーブルには地図が広げられ、赤い印がつけられている。
「今年の麦畑が、丸ごと消えてしまった」
「消えた?どういうことですか?」
「そのままだ。何もかも綺麗さっぱり無くなってしまったんだ。穂も、茎も、根っこさえもな」
領主様の話では、事件が起きたのは昨晩のこと。村人たちが目撃したのは、夜空に浮かぶ青白い光と、不気味な轟音。そして、翌朝には畑が空っぽになっていた。
「自然現象かもしれませんよ?」
「そうであれば良いが、村人たちは怯えている。誰かに何かをしてほしいと言うが、頼れるのは君しかいない」
私は肩をすくめた。聖女扱いされるのは慣れてきたけど、本当に聖女じゃないんだからね。
「分かりました。でも、結果は期待しないでくださいよ?」
翌朝、私は村の麦畑へ向かった。領主様の案内で畑に立つと、目の前には想像を超える光景が広がっていた。まるで巨大な手で刈り取られたかのように、麦が跡形もなく消えている。代わりに地面には奇妙な深い溝がいくつも走っていた。
「これは……」
地面を調べると、何かが引きずられたような跡が続いている。周囲に足跡や車輪の跡はないが、この溝は畑の中央から一直線に森へと続いていた。
「夜空に光があったって話は?」
「確かに、村人たちは見たと言っている。青白い光が畑に降りて、その後、轟音と共に消えたと」
「これだけのことをやるなら、大勢の人手か、何か大きな力が必要ですね……」
私は溝の跡を辿ってみることにした。
畑から続く溝の跡は、村の外れにある森へと繋がっていた。森の入り口は鬱蒼としていて、昼間なのに薄暗い。私は少し身震いしながら中へ足を踏み入れた。
森を進むと、途中で溝の跡が消えていた。その代わり、奇妙なものが見つかった。木の根元に置かれた小さな金属の欠片だ。それは何かの機械の一部のように見えた。
「これ、なんだろう?」
さらに進むと、森の奥に不自然に広がる空き地を見つけた。そこには無数の焦げ跡があり、何かが激しく燃えた痕跡が残されていた。
空き地を調べても確かな手掛かりが見つからず、私は一旦村に戻ることにした。道中、領主様に出会い、森で見つけたものを話すと、彼は「それで思い出した」と古い文献を取り出した。
それは村に伝わる奇妙な伝説だった。
「昔、この地には『空を舞う炎の獣』が現れ、村の作物を奪っていったという記録がある」
「空を舞う炎の獣?」
「信じがたい話だが、記録にははっきりとそう書かれている。村人たちは『神罰』だと恐れ、豊作を祈る儀式を始めたそうだ」
領主様の話を聞きながら、私は昨夜目撃されたという「青白い光」と、森で見つけた焦げ跡がどうにも気になっていた。
その夜、私は領主様に頼んで畑の見張りをすることにした。森での痕跡や、青白い光の噂を直接確かめるためだ。
星空の下、畑は静まり返っている。風が草を揺らす音だけが耳に届く。すると、深夜になって突如、空が青白く光り始めた。
「これが……!」
光はまるで生き物のようにうねりながら畑に降りてきた。そして、畑の上空に浮かぶ巨大な影が現れる。鳥でも獣でもない、不気味な形状をした存在だ。
私は魔法を発動し、その存在に向かって叫んだ。
「そこにいるのは誰!?ここで何をしているの!?」
光と影が止まり、低い唸り声のような音が響いた。そして、影の中からぼんやりとした人影が現れる。それは人間ではなく、金属のような身体を持つ「何か」だった。
「私たちは、ただ糧を求めていただけだ」
その存在は、はるか遠い土地からやってきたと言う。自分たちの故郷では食物が育たず、代わりに地球の作物を盗んでいたのだと。
「盗むことが許されると思っているの?」
「そうしなければ、我々の種族は滅びる。だが、抵抗する者がいるならば去ろう」
彼らは去り際に、消えた麦畑の一部を返すと言った。
翌朝、畑には確かに一部の麦が戻されていた。村人たちは不思議そうにそれを見つめながらも、「奇跡が起きた」と喜んでいた。
私は領主様に事の次第を話したが、彼は苦笑いして言った。
「誰も信じはしないだろう。だが、村が救われたのは君のおかげだ」
その後、私は村人たちに「聖女様」と持ち上げられるようになった。けれど、私はただ彼らを守るために動いただけ。
「また何か起こったら、よろしくな!」
村人の声に応えながら、私は次に何が起こるのかを少しだけ楽しみにしていた。