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梅美月

作者: 桜 スノウ

『おばあちゃん!早く行こうよー』


 外はもう夜の帷が降りて真っ暗な中。

 私は玄関でおばあちゃんの裾をつかみ引っ張っている。


『はいはい、ちょっと待ってねシュウちゃんがまだ来てないでしょ?』


 その言葉に私は頬をふくらませて言った。


『いやだー!おばあちゃんと2人でがいい!』


 おばあちゃんは嬉しそうに笑いながら優しく頭を撫でてくれた。


『亜矢は梅好き?』


 確かに私はあの当時、梅を見に行くというよりはおばあちゃんとの2人の時間が好きだった。

 だから……


『あやはね。おばあちゃんと見る梅好きだよ!おばあちゃんはいや?』


『うふふ、私も亜矢ちゃんと見る梅好きよ。でもね、おばあちゃんが梅好きな理由は他にもあるの。それはね……』


 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 頬が濡れて目が覚めた。


「懐かしい夢……」


 私は優しいおばあちゃんが大好きだった。

 おばあちゃんは4年前に亡くなった。

 それでもこの時期になると

 私は毎年、夜に梅の花を見にいく。

 おばあちゃんとの思い出をなくさないために。


 今日はその梅を見にいく日だ

 幼馴染の(しゅう)と共に


 まだ雪が残る寒い夜。

 私は梅を見に公園にやってきていた。


「うー寒っ!」


 毎年この時期には夜の梅を見にきているけど、今年は一段と冷えている。

 ハァーと剥き出しの手をあたためながら、この公園で一番大きな白梅の木に向かった。


 もう春だというのに溶け残った雪が木の枝にうっすらと雪が積もり、その中に少し埋もれながらも力強くほころぶ梅が見えた。


「おっ。いたいた!秋〜」


 彼は(しゅう)

 私の幼馴染で毎年一緒にお花見にきている。


「よう!亜矢!やっと来たなおせーんだよ」


 彼はニカッと笑い言った。


「ごめん、ごめん。うたた寝してた」


「おいおい。お前がこの時間でって言ったんだろ?」


「だからごめんって、でもさ久々に夢におばあちゃん出てきたんだ!」


「へー!よかったな。俺も久々にじいちゃんに会いたいな」


「秋、おじいちゃんと結構仲良かったよね」


「あーまあ、かわいがってもらってたな。孫みんな女の子だったからなー寂しかったみたいだぞ」


「終わったらうち来る?多分みんな喜ぶよ」


 来るわけないと思いながら、からかいまじりに聞いてみた。


「おっいいのか?じゃあ見終わったら行こうぜ!」


 こっちを振り向き言った。


「えっ?いいの?」


 私は驚いて聞き返した。


「え?なんで、ダメなの?お前がきたらって言ったんだろ」


 怪訝な表情で顔を覗かれた。


「いや…その、ダメじゃないんけど…恥ずかしくない?お花見の後に二人で行くのって」


 私は赤らんできた頬を手でおおいながら言った。


「なんで恥ずかしいんだよ?」


 秋は頬を覆っていた手を掴んだ。


「えっ!だって…夜に2人でお花見って。その、つ、付き合ってるみたいじゃない」


 私は顔を真っ赤にして叫んだ。


「毎年のことだろ?なんで今更そんなこと…」


 何も言わない私に何か気付いたようで。手を離し、秋は呟いた。


「実夏か」


 実夏は私たちの幼馴染で私の親友だ。

 彼女とお昼を食べている時に、実夏が彼氏と別れたという話をしていた時に言われたのだ。


『いいよね亜矢には秋がいるから』と。


 私は秋に話した。実夏に言われたことを


「『夜の花見しかも梅を見になんて。普通、高校生で、男友達となんて行かないから!彼氏とだよ!』って言われて」


 それを聞いた秋は呆れたように笑った


「あいつ…自分の価値観押し付けるなよな。俺たちはそんなんじゃないのにな。亜矢もいやだったろ?」


 私は答えられずにうつむいた。

【亜矢も】秋の言葉にズキンと心が痛んだ。

 秋は嫌なんだ。


「私は嫌じゃなかったのに」


「えっ!」


 (しゅう)がびっくりした顔でこちらをみた


「えっ?ハッ!」


 私は慌てて口を押させた。


「もしかして、いま、声出てた?」


 コクン。秋はうなづいた。

 顔が一気に赤くなっていくのが分かった。


「亜矢、は、嫌じゃないのか?」


「うん。だって、わたしは「言うな」」


 (しゅう)はわたしの言葉を遮った。

 そして、私の目をまっすぐ見ていった。


「亜矢。俺と付き合ってほしい」


 頭が真っ白になった。そして無意識のうちに呟いた。


「はい」


 その瞬間


 うっすらと月にかかっていた雲が晴れ

 蒼い光に照らされ

 キラキラと光る雪と白梅


 この世のものとは思えないような

 幻想的な風景が目の前に広がった。


 私たちは無言で見入った。

 1分にも満たない時間だった


 そして私は思い出した

 おばあちゃんの言葉の続きを


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


『でもね、おばあちゃんが梅好きな理由は他にもあるの。それはね……昔おじいちゃんとね一瞬だけ見たのよ、とてもとても綺麗な月明かりに照らされた夜の梅を。あの時、おばあちゃんは昔から梅が愛されてきた理由がわかった気がしたわ。それこそ[梅見月]という季語があるほどね』


『ふーんおばあちゃん。季語ってなぁに?』


『うふふ。今は覚えなくてもいいことよ。亜矢ちゃんもあの景色見れるといいわね』


『うん!おばあちゃんと一緒に見たい!』


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 私たちはゆっくりと顔を合わせた。


「いまの…なに?」


「多分月影だと思う。昔、亜矢のじいちゃんに聞いたんだよ。この公園でばあちゃんに告白されたときに、いきなり周辺が蒼く染まってすごい感動したって」


「そうなんだ月影……綺麗だったね。また、見れるかな」


 私はさっきの幻想的な風景と

 秋と付き合えた衝撃で、ぼーっとしながら聞いた。

 秋は甘い笑顔で言った


「あぁ、きっといつか見れる。だから、来年も見に来よう?亜矢」


 そして、手を握られた。

 恋人繋ぎで

 私はまた顔が赤くなっていくのを感じた。


「…………約束だからね」


 私はそっと手を握りかえし

 家へ向かった。


梅見月

旧暦の2月(今の3月)のこと

昔は春といえば梅だったそう

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