ギルド長室で解散した後……
ギルド長室に来た俺達はソファーに座って向かい合う。
「……で、お前は本当に文字が読めないんだな?」
「はい。読めませんけど……それがどうかしましたか?」
こっちは義務教育もないし文字が読めない人も少なくないって聞いたんだけどな……何かおかしいか?
「じゃあさ……アレってどこで覚えたの?」
「アレ?」
エレンさんの質問の『アレ』の意味が分からず俺は首を傾げた。
「ほら、さっきの『ゲンソ』?とか…そういうの。」
あー……アレな……確かに文字が読めないってことは学校にも行ってないってことだからな。あんな知識があるのはおかしいか……でも、今の俺は記憶喪失ってことになってるからな。
「わ、分かりません……どこで覚えたんでしょうね?」
「……お前、記憶がなくなる前は貴族だったんじゃないか?」
いきなりギルアスさんがそんなことを言う。
「確かに。それなら、色々納得できるかも。」
エレンさんも納得しちゃってるし……
「ハハハ……どうなんでしょう?」
とりあえずは知らんぷりしたけど…………ずっと隠すのも嫌だしな……いつかは話さないといけないよな……
「けど……不思議だよね。」
「何がですか?」
「記憶喪失って『思い出』っていうか……そういうのは忘れちゃうけど、道具の使い方とかそれこそ文字なんかは忘れなかったりすることの方が多いって聞いたような気がするんだよ。」
「ん~……なるほどなぁ……言われてみればそんな気がするな。」
…………怪しまれたか?
「……まぁ、俺達も医者じゃないからな。よく分からんがそんなこともあるんだろうな。………よし、明日からは午前中に文字…ってか計算とかの座学をしてから、午後に剣や魔法の練習でどうだ?」
「分かりました。よろしくお願いします。」
……結局、ギルアスさん経由で魔石を買い取ってもらい、今日は解散した。
※ギルアス視点
「……ふぅ……」
……アイツは何者なんだ?あんな意味の分からない知識があったんだ。文字は読めるものだと思ってたぞ……なのに全く読めないとは……本当に何者なんだ?
「……まぁ、今そんなことを考えても仕方がないな。とりあえず、明日の分の仕事も終わらせるか……」
コンコンッ
ドアがノックされ、一人の女性が入ってくる。
「どうした?」
「ギルド長、王都から手紙が届きました。」
「ん?王都からか?…分かった。そっちのテーブルに置いといてくれ。」
「分かりました。」
ったく……アイツからだよな……また面倒事じゃなければいいけどな……
仕事を片付けて、届いた手紙の封を開けて中を確認する。
「…………ふぅ……なるほどな………よし、ヒビキとエレンの訓練も兼ねて王都に行くか……」
……こうして、了承もなくヒビキ達の次の予定が決まったのだった……
※エレン視点
「ハァ……ヒビキに先輩らしいとこ見せたかったのに結局何も出来なかったなぁ……」
私は宿のベッドに寝転がりながら、そんなことをぼやく。
「………ヒビキは色んなこと知ってるんだね……私も負けないようにしないと……ヒビキの隣に立つならそれに相応しくないといけないからね!」
……あれ?私、今なんて言った?『ヒビキの隣に立つ』って言った?
「………違うからね!そういう意味じゃないんだから!そう!あくまで、パーティーとして私が近くでフォローしないとって意味なんだから!勘違いしないでよ!」
ガバッと身を起こして、ヒビキがいるわけでもないのに言い訳をした。
「………そう…うん、そうだよ。あくまで、私達はパーティーなんだよ。そう……そう、私達はパーティー……私達はパーティー………………でも……もし……パーティーじゃないのに、ずっと一緒にいる関係になったら……?」
……私と、ヒビキが…………
「……ッ!!ヤバい…ヤバいよ……どうしよう……私……ヒビキが……ヒビキの事が……」
エレンは自分の気持ちを自覚した後、一度起こした体を再びベッドに埋め、足をジタバタさせた。その時のエレンの顔は茹でダコのように真っ赤だったとか……
※響視点
「なんか、今日は疲れたなぁ……」
やっぱり、実戦は緊張して疲れが溜まるんだな……
「……今日はもう体拭いて寝るか。」
魔法で水を出して、これまた魔法で軽く温める。温めたお湯にタオルを浸けて絞り、これで体を拭く。
「……やっぱ風呂に入りたいな……けど、風呂なんてなかなか入れるもんじゃないってギルアスさんが言ってたしな……諦めるしかないか……」
……よし、寝る準備も出来たし日記書くか!
「って…日記帳ないんだったな……」
日本じゃ、毎日書いてから寝てたからな……なんかソワソワするな……まぁ、仕方ないしな。
「……明日から文字の勉強か……計算もするって言ってたけど……基本的に出来るんだよなぁ……さすがに、日本の高校レベルの問題もないだろうし……」
学校に行けない人だっているんだから高校レベルの問題が出てきたらビックリだな。……まぁ、九分九厘ないだろうけど。
「……文字を教わるっていうのも変な感じだな……自分が仲のいい近所の子供に教えてたのが逆転するんだもんな……これは墓まで持っていくか。別に悪いことじゃないけど…なんか恥ずかしいしな。」
……そんなことを考えてると、気がつけば眠りについていた……