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第4話 警察署の屋上で


 ホーニッヒ警部補は屋上への階段をいっきにかけあがった。黒猫警部補シュヴァルツェはめんどくさそうにあとに続き、刑事たちは黒猫を追いこして駆けのぼっていった。


「シリンダ刑事!!」


 今まさに金網をのぼっている長身の白いコート姿にホーニッヒはさけんだ。


「警部補、きてくれたのか。」


 金網のてっぺんでふりかえったシリンダは、うつろな目で皆をみおろした。

 強い風がふき、彼女のコートのすそがはためいた。


「バカなことしてないでおりてきて!」


「シリンダ刑事、おりろ! 落ちたあと、かたづける奴のことも考えろ!」


「シリンダねえさん…綺麗っす!」


「話が進まないから、さっさととびおりるニャ!」


 皆は口々に叫んだが、シリンダは一方通行だった。


「風が強くてきこえない! みんな、今までありがとう。やっぱり俺には無理だ、結婚なんて。」

 

 シリンダは、金網の向こうへ身を躍らせようとした。


「待って! あなたは射撃も格闘も署内トップじゃない! 運転は…おいといて。」


 ホーニッヒは金網の真下にかけより、必死で説得を開始した。


「白猫怪盗ヴァイスを逮捕するにはあなたの力が必要なの! お願い! おりて、とにかく話さない?」


 金網の上にすわり、シリンダ刑事は長い足をぶらぶらさせた。


「それはつまり、警部補は警察官としての俺が必要ってこと?」


「そう言ってるじゃない!」


「…もういい。」


 シリンダ刑事は再び、とびおりようとする体勢をとった。


「さっさととび降りるニャ!」


 シリンダは振り返り、黒猫を上からにらみつけた。


「てめえ、さっきからケンカ売ってんのか。あがってこい!」


「きこえてるやんけニャ!」


 険悪な雰囲気だったが、フラスク刑事が叫んだ。


「シリンダねえさん、今日の署内食堂の夕食は特製ソースカツ丼っすけど。」


「え? ホントか?」


 金網の上で立ち上がったシリンダ刑事を見て、皆から悲鳴があがった。


「はやくいえ! おりる!」


 シリンダ刑事があわてて降りようとしたとき、またさっきより強い風がふき、彼女はぐらりとバランスをくずしてしまった。


「あれ?」


 空中に舞って見えなくなった長身の白いコート姿に、全員が(黒猫をのぞいて)また悲鳴をあげた。


「あわわわわ、今、本当におちたね? おちたよね?」


「フラスク、おまえが見にいけよ。」


「デシリットさんが見て下さいすよ。」


 押しつけ合う3人を横目に、黒猫はスタスタと金網に近づき、顔を押しつけて下をみようとした。


 なぜか黒猫は、シリンダ刑事と目が合った。


「あニャ?」


 ホーニッヒたちも金網にかけよった。刑事たちが見た光景は、空中にうかぶシリンダ刑事だった。彼女は、背中から飛行機の翼のようなものがはえた少女に抱きかかえられていた。


「あ! あなたはさっきの!?」


「おばさん、またあったね。」


 少女は空中に浮遊しながらホーニッヒに笑いかけた。

 リボルバーを抜こうとしたデシリット刑事とフラスク刑事をホーニッヒは手で制した。


「昨晩、白猫怪盗と対決していたのもあなたね!? いったいなにものなの…?」


「それよりさ、この人めちゃ重いんだけど。」


 シリンダは少女にしがみつきながら顔を赤くした。


「失礼な! 離せ! いや、離すな!」


 少女はうんざりした顔になった。


「助けてやったのにこれだもん。警官なんて大きらい。」


 少女は金網を越えて飛行し、ホーニッヒたちの立つ屋上にゆっくりと降下して着地した。ガシャガシャ!と音がして少女の背中の翼があっという間に折りたたまれて見えなくなった。


「いつまでつかまってんの。」


 ドサリと乱暴に地面に投げ出されたシリンダはいてて、と腰をさすった。すぐにフラスクがかけよったが追い払われた。


「警察署になぐりこみとはいい度胸ニャ!」


 刑事たちは少女をとり囲んだが、当の本人は平然としていた。


「なぐりこみ? アタシは話し合いに来たんだけど、そこのおばさんと。そしたらその白いコートのでかい人が落ちてきたから助けただけ。警官って礼も言えない人たちなんだ?」


 デシリット刑事がトレンチコートのふところに手を入れながらホーニッヒにささやいた。


「どうします? 逮捕しますかい?」


「いや、私が話すわ。」


 ホーニッヒは少女のほうに一歩進み出た。


「私になんの話?」


「アタシはおばさんとだけ話したいんだけど。」


 シリンダは少女をにらみつけたが、ホーニッヒが合図すると、刑事たちはしぶしぶ後ずさりした。

 それを確認すると、ホーニッヒは少女に頭を下げた。


「まずはシリンダ刑事を救ってくれてお礼を言うわ。ありがとう。」


「ふうん。アンタはすこしはマトモな警官そうだね。」


 全く物おじしない少女はまた無遠慮にホーニッヒをジロジロと見た。


「で、話ってなに?」


「新聞で読んだの。おばさん、あのクソネコ泥棒をつかまえないとやばいんだって?」


(新聞記者め、後で抗議電話してやる。)


 ホーニッヒは苦々しげな表情をした。


「だからなんなの?」


 少女は呆れた顔をして大げさにため息をついた。


「これだよ! 地味な上に、にぶいときてるんだから。だ、か、ら、さ、アタシとアンタは狙う獲物は同じなわけ。」


「それで?」


 少女はじれったそうに足をバタバタさせた。


「わざわざこのアタシが会いに来てやったんだからわかるでしょ! 手を組もう、って言ってんの!」


「なーんだ、それならそうと早く言えばいいのに。あのね、悪いけどそういうのはおことわりなの。そもそもあなたは未成年者よね? ご両親は…。」

 

 ホーニッヒはまたしまった、という顔をした。たしかこの少女は親はいない、と言っていたことを今さらながら思い出したのだった。

 少女は不機嫌そのものだった。


「アンタそのアタマの悪さでよく警官やってるね? アタシの協力がなきゃ…」


「あニャ、はなしの途中だけどいいかニャ?」


 少女は急に割って入った黒猫をにらみつけた。


「なによ。」


「すっかり囲まれてるけどニャ?」


 まわりにはフルフェイスヘルメットの機動隊員がひしめいており、拡声器を持った巻き毛の若者に率いられていた。


「ザルツ警部!?」


「ホーニッヒ警部補、さっさとそいつを逮捕してください!」


 ザルツ警部は手で髪をくるくる巻きながら勝ちほこった顔で宣言した。


「そいつは白猫怪盗ヴァイスの一味です!」

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