第18話 またまたザワークラウト亭
新郎新婦は手をつなぎ、笑いながら結婚式会場を走り回っていた。口から白い煙をはきながら。
「ニャハハハハハハハハ~」
「ニャハハハハハハハハ~」
参列者たちは悲鳴をあげながら会場内を逃げまわったが激しい白煙で視界がさえぎられ、あちらこちらでごっつんこして昏倒するものが続出した。
中にはケーキやチョコファウンテンにつっこみ、そのまま気絶している者もいた。
会場内に突入してきた警官隊は惨状にとまどったが、猛者がなんとか警棒で新郎新婦をとりおさえた。
「なんなんですか、これはいったい…。」
安全を確認してから悠々と入ってきたザルツ警部は、床に倒れている新郎新婦のそばにしゃがみこんだ。
「警部、どうやら機械人形のようです。」
「機械じかけ? 誰がそんなものを?」
ザルツが見あげると、ボロボロのスクリーンには、選挙結果が投影されていた。
『フランクフルト氏、当選確定』
「とにかく早くかたづけて、ケガ人を搬送してください。ヴァイスはどこですか?」
『ニャハハハハハハハハ!』
新郎新婦人形がいきなり大爆発してあたりは一面、真っ白な生クリームに覆われた。
オシャレなスーツがクリームまみれになったザルツはつぶやいた。
「けっこうおいしいですね…このクリーム…。」
シリンダの叫び声が聞こえたような気がした。
(撃たれた…)
と思ったホーニッヒだったが気がつくと、誰かに抱き抱えられながら宙に跳んでいた。みあげると、濃いヒゲづらがみえた。
「あなたは…ひょっとして…ロッソ!?
怪盗あかひげロッソ!?」
ロッソは着地し、フフッと笑うとホーニッヒをおろして立たせた。
「あぶないとこだったな、ホーニッヒ警部補さん。娘がえらく世話になったみたいですまんね。」
アキラは気をとりなおして2発目を撃とうとしたが、メートヘンがその手に思いきり噛みついた。
ひるんだアキラに更に頭突きをくらわすと、しあげに回し蹴りを叩きこんだ。
そのまま少女は、ロッソに突進した。
「おお、わが子よ。再会がそんなにうれし…」
ロッソのことばは、メートヘンの鮮やかな飛び蹴りでとだえた。
「うげげげ…。」
「この馬鹿オヤジ! 生きてたんだ! どれだけ心配したと思ってんの!?」
「メートヘン、おちついて!」
ホーニッヒはなおも殴りかかろうとするメートヘンの手をひっぱってとめた。アキラは黒服に助け起された。
「なんて奴だ…。もういい、撃て! 撃ちまくれ!」
黒服が集まってきて整列し、マシンガンの銃口をホーニッヒたちに一斉に向けた。ロッソは余裕を浮かべていた。
「アキラくん、うしろ、うしろ。」
「なに?」
アキラがふりかえると、鋼鉄のかたまりが黒煙を吐きながら迫ってきていた。
「戦車だ!」
「戦車をとられたーっ!」
黒服たちがパニックに陥り、マシンガンを捨てて逃げまどった。戦車に向かって乱射する者もいたが、砲塔が向くとちりぢりに逃げていった。
戦車の砲塔には署長がまたがっていたが、クルクルっと飛んでアキラのそばに着地した。
「観念せい。しょせん金でやとわれた部下はこんなもんじゃ。」
アキラはがっくりとひざをつき、銃を床に落とした。タルトも銃を捨てて、アキラのそばによりそった。
「アキラさん、私もいっしょに罪を償うです。」
「タルト…。」
アキラはタルトと抱き合い、うなだれた。
フラスクに率いられた警官隊がなだれ込んできた。
手錠をされた黒服が列になりゾロゾロと歩かされ、先頭はアキラだった。クリームまみれのザルツの指揮で、鑑識班があちこちで写真を撮り、指紋をとっていた。
救急隊も到着し、猫たちに毛布や水が配られていた。
しゃがんでいたホーニッヒに、シリンダが水の入った瓶を手渡した。
「ありがと。シリンダ。」
「おつかれ、警部補。大手柄だな。」
「ううん。みんなのおかげ。私は何も…。」
ホーニッヒは水をひとくち飲んだ。フラスクとデシリットが戦車の上ではしゃいでいた。メートヘンとロッソはいつのまにか消えていた。
(また会えるのかな…あの子。)
「あれ? そういえば…。」
「どうした? 警部補。」
「署長とシュヴァルツェは?」
くらい通路をひとり歩く小太りの小男の前に、黒猫がたちはだかった。
「署長、どこにいくニャ?」
「おお、これはシュヴァルツェくん、お手柄だったね。ごほうびのボーナスにツナ缶をあげよう。」
「…兄貴、もういいニャ。下手な変装はやめるニャ。」
黒猫は手錠を出し、鋭い目で署長をにらんだ。署長はあかんべえ、をした。
「助けてやったのに、なんニャその態度は。すこしは兄を尊敬しろニャ。」
「いくらわるものをつかまえたり金貨をばらまいても、しょせんは犯罪者ニャ。パパとママが泣いてるニャ。」
「よろしく伝えておいてニャ!」
署長の姿をした怪盗ヴァイスはすぐそばの壁を押し、現れたかくし扉にスッと消えた。
「しまったニャ!? 馬鹿兄貴ニャ! 待つニャ!」
シュヴァルツェは壁をドンドンと叩き続けたがびくともしなかった。
うす暗いバーのカウンターで、ホーニッヒは黒猫と並んで座っていた。なぜか来てしまう、酔いどれ横丁のザワークラウト亭だった。
ホーニッヒは炭酸水を、黒猫はチビチビとミルクを飲んでいた。
「結局、ヴァイスには逃げられたね。」
「その話はするなニャ。」
「結局、奴はなにがしたかったの?」
「もうどうでもいいニャ。」
ホーニッヒはふところから銃を出すと、隣に座っている客につきつけた。
「ねえ、あかひげロッソさん。教えてくれる?」
客は目深にかぶっていた帽子をはずし、きれいに整えられたヒゲづらがあらわれた。
「おいおい、物騒だな。きれいな顔してえげつないな。」
「ほめてもムダよ。」
「はいはい。そうだな、まずは…俺とヴァイスは貧しい猫の味方だ。わかるな?」
「それで?」
「猫の大量行方不明、俺たちはフランクフルト邸があやしいってとっくに気づいてた。でも、警戒が厳重すぎて侵入はとても無理だった。」
「そんな時、刑務所が火事になったニャ?」
「ありゃ俺たちじゃなくてアキラのしわざだ。屋敷の地下を刑務所として提供する代わりに、囚人も兵器工場で働かせようと企んでいたらしい。」
「まさか、あなた、屋敷に侵入するためにわざとつかまったの?」
ロッソはタンブラーからひとくち飲むと続けた。
「ああ。ヴァイスと仲違いしたフリをして嘘の密告でつかまり、地下牢獄に入ったまではよかった。ところが中も厳重でな。まあ中であちこちに隠れながら探っていたわけだが。」
「タルトさんが言ってた地下の幽霊ってあなただったんだ! 牢内で死んだって話は…?」
「牢をやぶられて逃げられたのを、俺が死んだってことにして警備会社が隠蔽したのさ。業務委託を取り消されちまうからな。」
「ヴァイスは船上で騒ぎを起こして警察の目をフランクフルト邸に向けさせた…。」
「そうでもしなきゃ、警察は猫の行方不明を捜査しないだろ? 結婚式より前にあんたが兵器工場を見つけちまったのは予想外だったけどな。以上、そんなとこだ。」
ホーニッヒは銃をおろさなかった。
「全く、無茶するね。メートヘンの気持ちは考えたの?」
「悪いとは思ったさ。いずれ説明するつもりだった。」
「悪いけど、逮捕するよ。」
「待って!」
メートヘンがいつのまにか背後に立っていた。
「お願い、ポニー。今回だけはみのがしてあげて。」
ホーニッヒはメートヘンとロッソを交互に見て、ため息をつき銃をおろした。
「メートヘンに感謝しなさい。」
「さすが、話がわかるねえ。」
ロッソはタンブラーを手にとり乾杯のしぐさをした。
「あのとき、発煙弾で助けてくれたのはあなただったのね。これで貸し借りナシだから。」
メートヘンがホーニッヒに抱きついた。
「ポニー! ありがと!」
「アホらしい。帰るニャ。」
黒猫はソフト帽をかぶると席を立った。
「黒猫さんも、本当にありがとうね。」
シュヴァルツェは無言で手だけをあげると振りかえらずに出ていった。
「じゃ、俺も退散するか。」
ロッソも立ちあがり、ホーニッヒにウインクした。
「ちょっと俺はよるところがあるから、家までこいつを送ってやってくれ。じゃあな。」
ロッソもでていき、店の客はホーニッヒとメートヘンだけになった。
少しためらいながら、ホーニッヒは席を立った。
「じゃ、行こっか。」
「…うん。」
2人がでていくと、店にはバーテンだけになった。バーテンは、いつまでもグラスを黙々と磨いていたが、しばらくしてからつぶやいた。
「ニャはっ。」
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