第17話 黒幕
「あなたは…。シリンダの結婚相手の人!?」
多数の黒服をひきつれて現れたのは、船上の婚約披露パーティーで見たあのニヤけた若者だった。フラスクが両手をあげながら言った。
「シリンダねえさんと結婚なんてうらやましすぎっす! あれ? そういえば、なんて名前だったすか?」
「…みんなそうだ。僕の親父は有名なのに、僕のことは誰も知らない。ま、そのおかげで好き勝手にここも作れたんだけどね。」
若者はニヤニヤしながら懐から銃を出し、ホーニッヒたちに向けた。
「僕のなまえ、いってみろよ。」
「あなたはたしか…」
結婚式会場で、沢山の参加者が見守る中を新郎と新婦は壇の前で向き合った。
立会人がふたりに問いかけた。
「新郎、アキラ・フランクフルト。あなたはこれから永遠に、シリンダさんを守り、よりそい、愛しつづけることを誓いますか?」
「はい、ちかいます。」
「新婦、シリンダ・パンツァーファウスト。あなたは、永遠にアキラさんを助け、励まし、愛し続けることを誓いますか?」
「はい、ちかいます。」
「それでは、誓いの口づけを。」
新郎が仮面をはずし、新婦はベールを外した。そして会場は大恐慌におちいった。
「ザルツ警部! た、大変です!」
コンビニのからあげをつまんでいたザルツはうるさいな、という顔をした。
「なんなんですか。」
「屋敷から煙が出ています!」
「なんですって!?」
ザルツはすこし考えていたが、メガホンのスイッチをいれた。
『全員、邸内に突入してください! 怪盗ヴァイスがあらわれました!』
待ちくたびれていた警官隊はフランクフルト邸の門を開け、なだれをうって突撃を開始した。
「あなたは、アキラ・フランクフルト。フランクフルト氏の息子さんね?」
「正解! 命びろいしたな。」
アキラはあいかわらずニヤニヤしながらホーニッヒたちのまわりを歩きまわった。黒服たちはマシンガンをかまえ、まわりを取り囲んだ。
「新聞記事とはちがって、君は優秀な警官だね、ホーニッヒ警部補さん。ここをみつけたんだからね。」
「あなたが…全て企んだんだ。こんな汚いことを。猫を拉致して兵器工場で働かせるなんて。」
「市の条例で、兵器の製造は禁止されてるっす!」
アキラはあきれたようにためいきをついた。
「そんな条例なんか、僕が市長になったら即廃止さ。世界は年中、戦争だらけでね。兵器産業は最高に儲かるんだよ。その上、猫を使えば人件費はタダ同然だしね。」
じっと隙をうかがっていたデシリットが口をひらいた。
「てめえ、寝言を言うな。市長になるのはてめえの親父だろうが。」
アキラはフフ、と笑った。
「刑事さん、選挙管理委員会に提出した立候補書類の名前は全て僕の名前になっているのですよ。」
「ええっ!?」
驚く一堂に、アキラは得意げだった。
「あのバカ親父が手続きを僕に任せたからね。いまいましい、子どもの頃からしつけばかり厳しくて、なんでも勝手に決められて、あげくにあんなのとの結婚を勝手にきめやがって。僕はタルトと結婚するってきめていたのに。」
タルトは拳銃をかまえていたが、手がブルブルと震えていた。横目でそれを見たホーニッヒが言った。
「アキラさん、もうこんなことはやめて。結婚するならいずれあなたもパパになるんでしょう? パパの帰りを待つ子猫たちの気持ちを考えてあげて。」
「僕は失業した猫どもに仕事を与えてやっているんだ。感謝されてもいいくらいだよ。」
アキラが歩き回るのをやめた。
「議論は平行線だな。さあ、もう終わりにしようか。」
フランクフルトの息子は、ホーニッヒにまっすぐに銃を向けた。
「君に見つかってしまったからね。ここの工場はクイーン・ブリタイタン号の中にも移設するんだ。世界中をまわる兵器工場さ。」
「なんてことを…。タルトさん、あなたはそれでいいの!?」
急にふられたタルトはビクッとして銃を落としそうになった。
「私は…私の家は子どもの時からものすごく貧しくて…でも、アキラさんと出会って、ぜいたくに暮らせるようになって…。」
タルトはホーニッヒの背中におんぶされている茶トラ猫を見た。そして銃をアキラに向けた。
「アキラさん、やっぱりこれはまちがってるです!」
「タ、タルト!? なにを言うんだ! 僕たちは結婚するんだろ? あんなに感謝していたじゃないか。」
「こんな…こんなことで稼いだお金はいらないです! 働いて返しますです!」
アキラが愕然としていると、ドアのひとつがふきとんで黒服がバタバタと倒れた。
「なんだ!?」
粉塵のなか、署長に続いてメートヘンとシリンダが入ってきた。
「ポニー!」
「警部補! 無事か!」
シリンダは両手でリボルバーを撃ちまくった。
隙をついてホーニッヒたちは黒服たちにタックルして押したおし、密集していた黒服たちは将棋だおしになった。
そのままホーニッヒたちは走り、戦車のかげにすべりこんだが、起きあがった黒服たちが一斉にマシンガンを乱射しはじめた。
たちまち兵器工場内は激しい銃撃音で満ち、薬莢が散乱し、硝煙のにおいで充満して猫の工員たちは頭をかかえて悲鳴をあげながらにげまどった。
「まずいわ、猫たちを避難させないと。」
フラスクは様子を伺おうとしたが、跳弾の音で首をひっこめた。
「でも、出ていったらマシンガンの的っすよ。」
すこし考えたホーニッヒは、フラスクに気を失っている茶トラ猫をあずけ、戦車のかげで死角になっているドアを指さした。
「フラスク、この猫さんを連れて逃げて、警官隊を連れてきて!」
「で、でも…警部補とデシリットさんは?」
「いいから行け! 自分は戦場帰りだ。これくらいどうってことねえ。」
「わ、わかりましたっす! ご無事で!」
フラスクは茶トラ猫をおんぶしてドアから出でいった。ホーニッヒはデシリットに聞いた。
「あなた、元軍人さんなの!?」
「ええまあ。かくしてたわけじゃないんですがね。」
ホーニッヒはニヤリとした。
「じゃ、これ、動かせる?」
「行かせて! ポニーが死んじゃう!」
大砲の陰から出て行こうとする少女をシリンダが必死でおさえた。すぐそばに何発も弾丸が着弾し、火花がとんだ。
「だめだ! ここじゃ飛べない、ハチの巣にされるぞ!」
メートヘンは目をうるませながらシリンダを押しかえした。
「それでもいいもん! ポニーの、ポニーのためなら…」
「おまえ、本当に本気なんだな。」
またすぐ近くに着弾し、2人は頭を下げた。
「俺は、すぐそばに警部補がずっといたのに自分の想いをごまかして、何も言えない臆病ものだった…。まっすぐなお前がうらやましい。わかった、負けたよ。行け! 俺が援護する!」
「ありがと! シリンダさん!」
銃撃が止んだ瞬間、2人はうなずきあい、シリンダはまた両手で撃ちまくった。メートヘンが翼を出し、水平飛行で黒服たちに突進した。
黒服たちは驚いて尻もちをつき、マシンガンを天井に乱射した。猫工員の集団を率いていたホーニッヒはそれを見て、一斉にドアに殺到した。
「早く! 猫さんたち、ここから逃げて!」
次々と猫工員たちがドアから出ていくのを確認すると、ホーニッヒは逃げおくれた者がいないかを見ようとふりかえり、凍りついた。
アキラがメートヘンを背後からとりおさえ、頭に拳銃をつきつけていた。
「驚いたよ、そのしくみ。あとで調べて商品化させてもらうよ。」
「離して! このヘンタイ!」
ホーニッヒはかけつけて、銃を床に放った。
「やめなさい! その子は関係ないの! はなしてあげて!」
「そうはいかないな。」
「ダメ! にげて、ポニー!」
アキラはホーニッヒに拳銃を向けて狙いを定め、撃った。
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