第16話 金庫の中は!?
「うわあ…。」
メートヘンは部屋をみまわして言葉をうしなった。部屋には無造作に絵画や彫刻、甲冑や刀剣、壺など無数の美術品、工芸品が置かれていた。部屋の中央には見上げるほどの巨大な金庫が鎮座していた。
「どれもこれも一流の品ニャ。でも置き方が趣味わるいニャ~。」
黒猫は部屋をウロウロしながら品物を物色した。
黒猫はまた耳をピクピクさせた。
「誰か来たニャ! かくれるニャ!」
2人が大きな壺のかげにかくれるとドアが開き、ベールで頭を覆った人物が入ってきた。服は使用人の制服だった。その人物は部屋をみまわしてから金庫に近づき、熱心に調べはじめた。
(奴がヴァイス!?)
(まちがいないニャ! つかまえるニャ!)
メートヘンとシュヴァルツェは壺の影からとびだし、ベールの人物にとびかかった。
「オペラ歌手のタラ・サバイタマンさんでした! みなさま盛大な拍手を!」
立会人のことばに、結婚式会場から拍手喝采が聞こえてきた。
「開票も順調なようです! さあ、前座はおわりです。準備が整ったようです、いよいよ新郎新婦の入場です!」
立会人が後ろを指差すと、ドアが開き楽団の生演奏が始まった。ゆっくりと、新郎新婦が赤い絨毯を歩いて会場に入ってきた。
会場からは盛大な拍手喝采が響き渡り新郎新婦を祝福した。
仮面をつけた新郎とベールで顔を覆った新婦が、赤絨毯の上を前方の立会人がいる壇に向かって歩いていった。
開票スクリーンでは、開票が進みフランクフルト氏に当選確実マークが今にもでようとしていた。
「こっちですう。」
ホーニッヒと小柄な使用人がカートを押していくと、小部屋に出た。部屋には数名の黒服がいて、テーブルでカードゲームをしたり新聞を読んだりしていた。
「囚人のお食事でーす。」
「おう、タルトか。」
黒服のひとりが立ち上がり、鍵束を持って奥の金属製の格子戸をあけた。他の黒服がニヤニヤしながら言った。
「へへ、今日は綺麗なのがいっしょだな。」
黒服たちがいっせいに笑った。タルトと呼ばれた使用人はムスッとしながらカートを押して中に入っていった。ホーニッヒがついていくと、両側にずらりと鉄格子が並んでいた。
「あいつら、いつもわたしをバカにするです。」
「気にしちゃダメ。あなたもかわいいよ。」
ホーニッヒのことばに、タルトはハッとしてホーニッヒを見あげた。頬が赤くなっていた。
「わたし、そう言われたのはじめてです。」
「それはそうとタルトさん、猫の囚人を知らない? 茶トラで具合がわるそうな…。」
「しってるです! こっちです。」
監獄内は複雑な構造になっており、タルトについていき何枚か扉をくぐるとホーニッヒにも見覚えのある通路に出てきた。
「トランくんのお父さん! 聞こえますか!」
檻のひとつに近寄り、声をかけると茶トラの猫がヨロヨロと近づいてきた。
「トランをご存知なのですかニャ?」
「はい! あなたを見つけるって約束しました。離れていてください。」
ホーニッヒは銃で檻の鍵を撃ちこわした。トランの父を背負い、通路にでるとタルトがパニックに陥っていた。
「あわわわ、いったいあなたは…。」
「タルトさん、私はザッハトルテ警察のホーニッヒ警部補です。ご協力頂けますか?」
「警察の方ですか!? なぜ警察の方が牢やぶりをするですか?」
「おちついて、タルトさん。ここには違法な兵器工場があります。工員として働かされているのは、猫の技術者や職人たちなの。騙されて拉致されて、強制労働をさせられているのよ。」
背中の茶トラ猫が弱々しく言った。
「その通りですニャ…。私は労働をこばみ、牢に監禁されましたニャ…。」
「なんてことです…。そういえば他にもいっぱい猫さんの囚人がいるです。」
タルトが顔面蒼白になっていると、デシリットとフラスクが追いついてきた。
「いやあ、黒服どもにてこずっちまって。」
「はやく脱出するっす!」
「トランくんのパパとタルトさんに証言してもらえたら家宅捜査令状がとれるわ! 行こう!」
黒猫は金庫をうかがう不審者の足に、メートヘンは腰に組みついた。
「つかまえたニャ! おとなしくするニャ!」
「降参しなよ! 怪盗ヴァイス!」
組みつかれた相手は激しく抵抗し、黒猫を足からひきはがした。
「あにすんだ! くすぐったいだろ!」
「あれ? シリンダ…さん?」
シリンダは、ベールを床に脱ぎ捨てた。
「おまえら、ここでなにしてんだ? まさかヴァイスを待ち伏せていたのか?」
「シリンダさんこそ式を抜け出していいの!?」
「ああ、ここで待ってりゃ奴がくるかと思ってな…シッ! 誰かきた!」
3人は慌てて、でかい絵の後ろにかくれた。その瞬間、扉があいた。
「署長は心配しすぎであ~る。金庫は無事であ~る。」
「ですがフランクフルトさん、万が一ということもありますぞ。確かめてください。」
「もうすぐわたくしの勝利宣言演説の時間であるのでいそぐであ~る。」
キリキリ、カチカチと音がして、ギギイ、と金庫の扉がひらく音がした。
そして、署長が驚きの声をあげた。
「あーッ!? 金庫はからっぽですぞ!?」
絵のかげにかくれていた3人も驚いて、思わずとびだしてしまった。たしかに、巨大な金庫は空っぽだった。
驚いて固まってしまったメートヘン、黒猫、シリンダに、フランクフルト氏が不思議そうに言った。
「チミたちは誰であるかね?」
署長がフォローをいれた。
「警察関係者ですぞ。しかしなぜ金庫が空っぽなのだ?」
「署長? 忘れたであるか? 貯めたお金は全て孤児院や災害被災地や犯罪被害者基金や自然保護団体などに寄付したであ~るよ。」
メートヘンがフランクフルトを指差した。
「違法な兵器工場で猫を働かせて稼いだ汚い金でしょ! えらそーに!」
フランクフルト氏はポカンとしてチョビヒゲを手で整えた。
「は? 兵器工場? なんのことであるか? ここのお金は商売で正当に得た利益であるよ。」
「えっ? そうなの?」
「この部屋の美術品もいずれ売却して寄付するつもりであ~るよ。」
全員、黙りこんでしまい静かになった。気まずい雰囲気のなか突然、署長が叫んだ。
「しまった! ホーニッヒたちがあぶない!」
署長は回れ右するとすさまじい速さでドアから出ていった。シリンダがつぶやいた。
「署長、あんなに足、はやかったっけ?」
「とにかくボクたちも追うニャ!」
「ポニーがあぶないって!?」
我にかえった3人も慌ててドアから出ていった。あとにはフランクフルト氏がぽつんと残された。
「チミたちはなんなんであるかね…?」
「こっちです!」
あちこちの通路からサングラスの黒服がでてきてホーニッヒたちは追い詰められつつあった。刑事たちも奮戦したが、黒服の数が多すぎる上に全員マシンガンで武装していた。
タルトに導かれるままに、ホーニッヒたちは後についていった。
「ここです!」
扉をくぐった先は、あの地下兵器工場の真っ只中だった。戸惑うホーニッヒたちに向かい、タルトはふりかえり、銃を向けて撃鉄をカチリと起こした。
「ごめんなさいです、ホーニッヒさんたち。手をあげてくださいです。」
「タルトさん…!?」
うしろから、拍手が聞こえてきた。
「でかしたぞ、タルト。ようこそみなさん、僕の兵器工場へ。」
その声にホーニッヒたち全員がふりかえった。
「あなたは…!?」
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