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第10話 潜入捜査!


 うす暗いバーのカウンターで、ホーニッヒはひとり座って新聞を読んでいた。酔いどれ横丁のザワークラウト亭だった。


「なにかいい仕事ないかなあ。」


 ホーニッヒは背後に人の気配を感じた。


「ダメじゃない、子どもがこんな酒場なんかに来たら。」


 メートヘンは黙って隣のスツールに座った。バーテンはグラスを磨くばかりだった。


「おば…ホーニッヒさんこそ、こんな店でのんだくれていていいの?」


「おばさんでいいよ。もう放っておいて。どうせ警察もやめるし。ちょっと! おかわり!」


「…ごめんなさい。アタシのせいで…。」


 少女はうつむいてしまった。ホーニッヒは意外そうにその様子を見つめた。


「謝らないで。ぜんぶ私のせい。私が悪いの。今までも、これからも。なにひとつうまくなんていかないの、私。」


 黙って聞いていた少女だったが、体の向きを変えると手をのばし、ホーニッヒのグラスを持つ手に重ねた。


「そんなことないよ。アンタはクリーム爆弾からアタシを守ってくれたじゃない。」


「とっさに体が動いただけよ。」


 少女はホーニッヒの手に重ねた手に力をこめた。


「アンタはいつだってそう。最初に出会った時もためらわずに手をさしのべてくれた。アンタのような人こそ警官をつづけるべきだよ。」


「…ありがとう、メートヘン。」


「さ、チーム・メートヘン再結成だよ! カンパイしよ!」


「チーム・黒猫ニャ!」


 いつのまにかスツールに黒猫がちょこんと座っていた。


「シュバルツェ! あなた、異動したんじゃなかったの?」


「隣の管区だから近いニャ。」


「…怪盗ヴァイスは…あなたのお兄さんだったのね。なぜだまってたの?」


「そのことについては、今は話したくないニャ。」


「ふうん。そっか。ま、話したくなったら話して。」


 ホーニッヒはすわりなおして新聞を手にとった。


「それにしても給料減ったしなあ。なにかいい仕事ないかなあ。」


「副業は禁止ニャ!」


 求人欄を読んでいたホーニッヒはふと、小さな記事に目をとめた。


『高給、高待遇。猫の技術者・職人大募集。応募者は明日の夜23時、旧市民病院跡地に集合。』


「ヴァイスさわぎで忘れてたけど…。これ、あやしくない?」


 ホーニッヒは茶虎の子猫トランとの約束を思い出した。


「前に資料室で調べてた件かニャ?」


「猫怪盗逮捕の前に、この件を解決して警部補にかえり咲くわ!」


「アタシも協力するよ。」


「もちろん俺もニャ。」


 すぐに作戦会議が始まった。



 

 崩れかけた建物が夜目にも不気味だった。作業服の3人組は病院跡地の敷地内に入った。


「こんな変装で大丈夫かなあ?」


 シュバルツェ以外の2人は作業帽をかぶり、顔には猫のメイクをしていた。


 不安そうなホーニッヒだったが、メートヘンは余裕だった。


「にあってるよ、ちょっとかわいいかも。」


「シーッ! 誰か来たニャ!」


 軽トラックが入ってきてとまり、運転席から人相の悪い人物が顔を出した。


「乗れ。」


 無愛想な指示に従い3人が荷台に乗ると、軽トラは急発進した。不意打ちに、倒れかけたメートヘンをホーニッヒが抱いて支えた。


「あ、ありがと。」


 顔を赤くして恥ずかしげにささっと体を離した少女をホーニッヒは不思議そうに見た。


「どうかした?」


「な、なんでもない!」


 その様子を黒猫はひげをしごきながら見ていたが、コロンと荷台に横になった。


「着いたら起こせニャ。」


 しばらくするとトラックは汚くすすけたビルの前で止まった。


「降りて中に入れ。」


 3人が降りるとトラックはまた急発進して行ってしまった。ビルの中には他にも作業服の猫が複数いて、不安そうにしていた。奥から黒スーツにサングラスの人物が現れ、ついてこい、とだけ言った。


(うさんくささ全開ね。)


(とにかくついていこ!)


 地下への階段をおり、暗い通路を延々と進んでいくと、やがてたくさんドアがある広い部屋に出た。


「ここで面接をする。しばらく待て。」


 サングラスの人物はそれだけ言い残し、いなくなってしまった。


「待つわけないニャ。」


 黒猫はドアのひとつに向かったが、鍵がかかっていた。メートヘンが鍵穴をのぞいた。


「まかせて。」


 何かの道具をとりだすと、少女は簡単に鍵を開けてしまった。


「さすがね。」


「こんなの基本だよ。」


 ドアの向こうはまた下へと続く階段になっており暗かった。ホーニッヒがペンライトを出した。


「うわあ、なにかでそうね。」


「ち、ちょっとやめてよ!」


「俺は見えるから大丈夫ニャ~。」


 黒猫はスタスタと降りていってしまった。メートヘンはホーニッヒにピッタリくっついて手を握ってきた。


「空を飛べるのに、こんなのがこわいの?」


「ちがう! アンタがあぶないからこうしてあげてるの!」


「はいはい。」


 ホーニッヒはゆっくりとおりていき、下まで着くとライトで通路を照らした。


「まだ続いてる。シュバルツェ、どこ?」


「猫刑事さん、どこ行ったんだろ。」


 互いに寄り添いながら進むと、いくつもの扉が現れた。


「どうする?」


「警官の勘ね。これ!」


 ホーニッヒが選んだ扉を解錠すると今度は登り階段で壁には灯りがともされていた。先の方からは機械音や声が聞こえてきた。


 階段をのぼりきると鉄の扉があり、数字が書かれたボタンがついていた。音や声はその扉の中から聞こえていた。


「暗証番号かあ。」


「開けられる?」


「楽勝だよ。」


 メートヘンはボタンを観察して、数字を押すと扉が開いた。中にすべりこんだ2人は高く積まれた木箱の影に身を隠し、様子をうかがった。


 そこは巨大な空間になっており、煌々と灯りで照らされていた。さまざまな装置や機械、ベルトコンベアが稼働していてあちらこちらで作業服の猫が忙しそうに働いていた。


「ここは…いったい?」


「ホーニッヒさん、見て!」


 メートヘンは木箱を開けていた。


「これ…砲弾…だよね?」


 少女はうなずくとホーニッヒの手をひき、移動してドラム缶のかげから向こうを指さした。


「見て! あれは戦車。あっちでは大砲を組み立ててるよ!」


 ホーニッヒはメートヘンをひっばりもどした。


「しっ! 見つかっちゃう。それにしてもここはいったい…?」


「どう見ても…兵器工場だよね?」


「なんでこんなところに?」


 悲鳴が聞こえて2人はそっと頭を出した。向こうの方で、倒れた猫の作業員がサングラスで黒服の人間にムチで叩かれていた。


「なんてことを!」


 飛び出そうとするホーニッヒをメートヘンがおさえた。


「待ってってば! アンタこそ見つかっちゃうよ!」


「でも…警官としてみすごすわけにはいかない!」


 ホーニッヒはリボルバーを出すと飛び出していった。


・お読みいただきありがとうございます。

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