第9話 対決の行方
一堂は重苦しい沈黙につつまれ、ホーニッヒは苦々しげな顔をした。
「つまり、完全に奴にしてやられたってわけね。」
「そのとおりニャ! 純金のインコ像はガラスケースごと、とっくにすり替えられていたのニャ。」
「どうしてわかったの?」
「ガラスケースのどこにも、バカダ陳列ガラス工業のロゴも名前も書いてなかったニャ。」
「ただベビーカーでウロウロしてたんじゃなかったんだ…。」
ホーニッヒが感心して言うと、黒猫警部補シュヴァルツェは顔を洗い、手をベロベロしだした。
「それともうひとつニャ! 司会者! なんでおまえだけ服にも髪にもクリームがついてないニャ?」
「え!?」
シリンダ刑事がスカートをまくりあげて、太もものホルスターから銃をだした。
ホーニッヒ、黒猫、デシリット、シリンダはすばやく司会者をとり囲んだ。
「ち、ちょっと待ってくださいよ。ぬれぎぬもいいとこだ。ヴァイスは今飛んでるあのインコ像でしょう?」
司会者は白いハンカチをとりだして汗をふいた。黒猫が毛を逆立てた。
「ニャ? 誰もおまえがヴァイスだなんて言ってないニャ?」
ハンカチのかげから現れたのは白い猫の顔だった。刑事たちが叫び声をあげた。
「ああっ!? 怪盗ヴァイス!!」
「あにゃ~、ばれちゃったかニャ。ニャハハ!」
白猫はジャンプしたかと思うと空中でクルクル回転し、地面に着地したときにはシルクハットに全身白のタキシード、手にはステッキを持っていた。
首のない司会者の体の部分はギギギ、とふるえた後にひっくり返って倒れてしまった。
「インコ像も…司会者の体も…機械じかけなの!?」
ホーニッヒがリボルバーをかまえながら驚きの声をあげた。
「ニャハハ。わがはいは大天才だからニャ~。」
白猫怪盗ヴァイスはステッキをクルクルさせながら胸をはった。
デシリット刑事が懐から手錠をだした。
「わるいがその大天才もここでおしまいだな。こっちは武装した四人、あんたはまるごしだ。観念しろ。」
「ニャハハ! アホ刑事、100人いても、だいじょうぶ、ニャ!」
「警部補、こいつ、撃っていいか?」
「撃つ前にききたいわ。ヴァイス、あなたは今まで人を傷つけたことはなかったのに。今回のこの騒動、いったい何が目的なの?」
「ニャハハ。街の金もちどもが集まるいい機会ニャ。こらしめてやろうと思ったニャ~。」
「うそつけニャ!」
黒猫がたまりかねたように叫んだ。
「もうやめろニャ! おまえは一族の恥ニャ! ヒーローぶってるけど、兄さんはただの犯罪者に成り下がっただけニャ!」
「え!?」
刑事たちは全員、おもわず黒猫に注目した。その隙をつき、白猫はシリンダのドレススカートの中にもぐりこんだ。
「う、うわっ!? なにすんだてめえ! う、うわっ、はははっ! やだ、くすぐったい!」
スカートの中からヴァイスの声がした。
「偉大な兄に向かってなんちゅうことを言うニャ! おまえこそ官憲の手先になりさがりやがって一族の恥ニャ! 捕まえられるもんならつかまえてみれ~ニャ!」
黒猫は、全身の毛を逆立ててシリンダのスカートの中にとびこんだ。
「フーッ!」
「シャーッ!!」
「や、やめろ! 人のスカートの中で兄弟ゲンカするんじゃねえ! でてけ! は、ははは! くすぐったい!」
「しょうがない、私も!」
「やだ、警部補はこないで!」
ホーニッヒが飛びかかろうとしたとき、インコ像が超低空飛行で滑るように飛んできた。
「うわあ!」
デシリットとホーニッヒは横っとびに避け、シリンダも跳躍した。
「ニャーッハッハッハッハ!」
ふたたび空中高く舞いあがったインコ像の背に白猫がのり、足には黒猫がつかまっていた。
「しぶとい奴ニャ。これでどうニャ。」
ヴァイスはステッキの柄で黒猫をくすぐった。たまらず手を離し、黒猫は落ちてしまった。
「シュヴァルツェ!」
ホーニッヒは落下地点に走ったが間に合いそうもなかった。床に激突寸前、メートヘンが滑空して黒猫をすくいあげた。
「ギリギリだったね。」
「余計なことニャ。自分で着地できたのにニャ。」
「かわいくないやつ!」
インコ像は天窓をつき破り、飛び去っていった。ヴァイスの高笑いが聞こえ、ガラスの破片が降ってきた。ホーニッヒは無線に叫んだ。
「フラスク! 今とびだした、金のインコを巡視艇で追って!」
『…とても…無理…はやすぎて…っす…』
「もう! また逃げられた!」
くやしがり、ホーニッヒは床のクリームを蹴った。
「警部補、それよりもこのままじゃ船が激突して大惨事ですぜ!」
「あ…忘れてた。」
メートヘンが舞い降りてきて床の上に着地した。ホーニッヒが駆け寄ると、少女はホーニッヒの腕の中に倒れ込んでしまった。
「メートヘン、しっかり! あちこち傷だらけじゃない。」
「あのインコ、めちゃくちゃ噛むんだもん…。」
黒猫はあくびをした。
「奴を追うのは無理かニャ。今回は完敗ニャ…。さ、疲れたからもう帰るニャ。」
「ちょっと! この状況をどうするの!?」
まわりでは乗客たちが悲鳴をあげながらにげまどっていた。黒猫はあきれたようにホーニッヒを見た。
「おまえはまだ奴のことがわかってないニャ。」
「どういうこと?」
黒猫は何も答えず、ベビーカーに乗ると走り去ってしまった。
「すみません、ここ駐禁なんですけど。」
制服警官姿のホーニッヒが声をかけると、黄色いスポーツカーからサングラスの巨漢が降りてきた。
「なんだとコラ。」
「ちょっと待ってね。シリンダ、お願いできる?」
制服姿のシリンダが後ろから進み出てきた。
「てめえ、なんか言ったか?」
「…あ、いや、すみません。すぐにコインパーキングに入れてきます。」
巨漢は慌てて車を出し、走り去っていった。
「ありがと、シリンダ。さすがねー。」
「警部補…、じゃないや。今は巡査か…。そろそろ昼メシにしないか?」
2人がドーナツショップに行くと、同じく制服姿のデシリットとフラスクがいた。
「あ、シリンダねえさん! 警部補も…じゃなかったすよね、ホーニッヒさん…。」
「いっしょに食おうぜ。」
ホーニッヒはテーブルにつっぷした。
「ああ…もう警察やめようかなあ。」
シリンダがチョコドーナツをかじりながらホーニッヒの頭をなでた。
「クビにならなかっただけでも儲けもんだ。やめて何すんだ?」
ホーニッヒはクリームドーナツにかじりついた。
「ドーナツ屋の店員。」
「警部補、じゃなかった。ホーニッヒさん、乗客は無事だったんだ、気にやむ必要はないぞ。」
「そうっすよ、みんな仲良くヒラ巡査に降格! 笑えるっすね。」
「わらえねーよ!」
シリンダがフラスクの頭をはたいた。
黒猫の言葉どおり、船は岸壁の手前で急停止した。鑑識の調べではエンジンや舵に巧妙な仕掛けがしてあったらしかった。
結局、白猫怪盗ヴァイスの狙いはなんだったのか、よくわからないままに船上パーティのクリーム爆発事件は終結したのであった…。
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