序章
「ゆるさない…あの猫…絶対に。」
その街で一番高い時計塔のてっぺんに立ち、一人つぶやく人影があった。
その場は通常なら立つだけで目が眩む高さだったが、黒いマントに身を包んだその人物は微塵も戸惑いを見せず、輝く夜景に向かって己の身を躍らせた。
はるか下の民家のレンガ屋根や石畳の地面がみるみる迫って来る。
いきなり身なげシーンか…!?
と思いきや。
低い民家の屋根くらいの高さまで落下した時、風に激しくはためくその人物のマントの下から左右に飛行機の翼のようなものがガシャコン!と飛び出した。
あわや地面に激突かというスレスレの所で何とか水平飛行になり、そして急上昇。
「やったあ! 大成功ね!」
翼の人物は歓声をあげると、自画自賛をし始めた。
「やっぱりアタシって天才! これなら奴に勝てるわ! みてなさい!」
ところが、急上昇の後、今度は失速して急降下し始めた。
「あれ? こりゃまずい…かも。」
ドーン!!
ゴミ捨て場にニョッキリはえた2本の足。
ジタバタすると、体が抜けてひっくり返った。
「ぺっぺっ! うええ、ひどいニオイ…。でも助かったか。まだ改良が必要ね。さ、帰ったらお風呂、お風呂と。」
翼に黒マントの人物はゴミの山から脱出すると、夜の闇の中を駆けていった。
同じ刻限、同じ街の某所の大邸宅。
高級ブランドのスーツにネクタイ姿、チョビ髭の人物が、巨大な金庫の前で哄笑していた。
金庫の中には数えきれないくらいの札束と輝く金塊があった。
「はっはっはっ! 見たまえ! 例の事業、濡れ手にアワとはこのことであ~る。これだけの資金があれば…。」
「我々が街を完全支配するのは時間の問題ですな。」
「その通りであ~る!」
「おぬしもワルよのう~。」
「おぬしこそ、であ~る。」
「はっはっはっ!(以下、繰り返し)」
この街の平穏は、よこしまな思惑をもつオヤジたちの前に風前の灯であった…。
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