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 人気ひとけの少ない廊下。

 ツインテールを揺らしながら、向こうから歩いてくる少女。

 必然的に目線が交差する──。

 だが、結局言葉が交わされることは無かった。

「はぁ」

 通り過ぎた後でため息をつく。

 もうこんなことが幾たびあっただろうか。

 会うたびに、声をかけようとは思うのだが、毎回スルーしてしまう。なんてこと無い。よう、の一言でいいのに。それが出来なくなってしまったのはいった良い対からだろうか。

 ソラはカバンを肩にかけ直して、購買部へと向かった。


 ♪


 水無瀬千鍵。

 ソラと仲が良かった少女だ。

 世間一般に言う幼馴染というやつで、一緒にお風呂に入ったこともあった……気がする。幼稚園、小学校、中学校と一緒に通い、二人とも同じ第一志望で、二人とも見事落ち、二人とも第二志望の高校に入学した(これはなんというか、もはやシンクロと呼べるものなのではないだろうか)。

 そして、今まで同じクラスに成ったことが無かったのだが、高校に入ってついに同じクラスになった……のは良いのだが。

 あんなに仲が良かったのに、年を重ねるにつれ、距離が広がっていき、気が付けば。すれ違っても何とも言わない関係になってしまった。

 せっかく初めて同じクラスに慣れたのだから話したい。そう思って、まずは一言──と思うのだが、行動に移せずに居る。

 何でもいいから話しかけること。そして、メールアドレスを聞くこと。その二つがソラの目下の目標だった。


 ♪


 もう何度目かのチャイムが午後の授業の開始を知らせた。

 現国。最もつまらない授業の一つだ。開始早々、睡眠体制に入っている生徒も多い。

 その中にソラは含まれて居ない。

 自慢ではないが、ソラは授業中に居眠りしたことは一回も無い。

 これは別にちゃんと勉強をしたいなどと言う優等生思考がもたらしたものではない。

 そもそも、ソラには『眠りたい』という欲望が無かった。

 毎日夜八時に寝ているからでは無い。

 ソラは眠らなくていい(・・・・・・・)のだ。

 どう言う意味か。そのままの意味である。

 父に言わせれば『無眠症』。

 眠れないのではなく、眠る必要が無い。脳が睡眠を欲しないのだ。

 眠ることが出来ないというわけではない。目を閉じてじっとしていれば眠ることは出来る(だがちょっとしたことですぐ起きてしまうので一種の無心状態なのかもしれない)。

 何故そうなのかは良く分からない。

 だが、不幸なことではない。活動時間が他人より八時間前後多いわけで、むしろ良いことである。

 この体質のことを知っているのは、父と母、そして千鍵だけである。千鍵には中学校に上がった直後にそのことを打ち明けた。それを考えると、まだ中一の始め辺りは仲が良かったのだろう  

 視線を左前に移せば、千鍵が、頬杖をつき、スースーと可愛い寝息を立てながら眠っている。まるで、どんぐりを抱きながら眠るリスのようだ。

 それを見ていると、千鍵の家族と一緒に旅行に行ったのを思い出す。

 渋滞に巻き込まれ、千鍵は眠っていたのだが、ソラは眠くならないので、その寝顔をずっと見つめていた。

 あの時は楽しかったな……。

「──そういえば、最近この街でも都市伝説が流行っているらしいが」

 と教師がそんなことを言い出した。

 何故そんな話が出てきたのかと黒板を見ると、『何故都市伝説は起こるのか』と左端に大きめの文字で書かれている。黒板に書かれた教科書のページを開くと、そこには同じタイトルの文章が載っていた。どうやらこれから授業でやる内容らしい。

「何でも、甲冑を身に纏った男が徘徊しているとか」

 その話はソラも耳にしたことがあった。

 夜、街の人気の無いところに行くと、甲冑を着た兵士が徘徊しているのだという。

 ソラは、近々どこかでコスプレ大会でもあるのではないかなどと推測していたりするが、真偽のほどは定かではない。

 あまり興味のある話ではなかったので、自然と視線が千鍵の寝顔に戻っていた。

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