「透明を売るコンビニエンスへの侵入」と脱出
訪れていただきありがとうございます。
「
目の前には透明が置いてある。右側には冷たくなったコーヒーカップ。左にゴミ箱。そして僕の正面に。机の上に。目の前に。投げ捨てられたられたようにカラフルな透明がある。
透明はコンビニで手に入れたものだった。コンビニで買うものの7割はそのコンビニに入ってから必要だと感じた無駄なものであろう。無駄なものに金を払う行為を助長させる存在を、コンビニエンスだと感じる人がいるようだった。
普段使わないコンビニエンスらしい店に入ってみる。理由などない。云わば不用意な侵入行為。バスに乗るときはどこかに行きたい。耳に耳栓を入れるときは脳内で音楽を再生したい。侵入という行為は大抵何かしら理由があるものだ。しかしその時の僕に明確な理由があるとはいえなかった。なるほど、これがコンビニエンスというものかとふと感じた。
透明は汚らしい箱に季節外れのバレンタインチョコと一緒に入っていた。ここに入っている品は定価よりも幾分安く購入できる。普通に棚に並んでいるチョコとこの汚い箱に入ったチョコの本質的な違いを僕は見出すことができない。
その透明も季節外れな商品だったのだろう。あそこにあるラッピングされた可愛い透明は定価で販売されている。財布を開くとそこには丁度安い透明を買うくらいの。僕は店員に声をかけた。
「あそこにある透明をひとつ、あとは袋を一枚」
店員は困った顔をこちらに向けた。
「コンビニは非常にコンビニエンスではあるが、商品はここまで持ってきて頂かないと。僕たちがわざわざお客さんの代わりにレジに持ってくるものなんて煙草と愛くらいだよ」
「いやいや、なにを言っているんだい。透明なんて持てるわけないじゃないか。だから僕は袋を要求したんだ」
「どうして透明は持てないと?」
僕はその透明を見る。
「透明というのは、ほら、なんて言うのかな。えーっと。そうだ、透明とは認識できないから透明というのではないのかい?」
「それが欲しいと?」
「いや」
僕は正直戸惑っていた。目の前には透明があるのだ。狼狽える僕を無視して、店員は次の客を通した。
「あ、次のお客さんどうぞ。たしかに最近は世知辛い世の中ですねぇ。あー愛を一つね。温めますか?え、温めないだって?変わったお客さんだ。愛っていうのは温かいから、いや暖かいから愛と言うのであってですねぇ。冷めた愛はそれは愛なのか......。あら、最近は冷やした愛が流行っているんですか?そりゃあ知りませんでした。失礼失礼」
その客は愛を準備する店員を待つ間、季節外れの透明に目を付ける。次の瞬間、その客は軽々しく、よいしょっと透明を手に取った。
「こちら愛になりますね。お受け取りください。あ、透明も買いますか?はいはい、お買い得となっています。代金はあなたです。無価値なあなたでいいなんてなんてお得。はい、分割で」
その客は自らを分割して透明を買った。僕の欲しかった透明。僕には届かなかった透明。マジックハンドがあれば届いただろうか。長い長いマジックハンドなら。答えは明確だった。
「そこのお客さんはどうします??どうせ背伸びして入ってきちゃったんでしょ?所詮あなたはビジュアライズに閉じ込められた哀れな人間なんだから。文字は確かにコンビニエンス。透明。ほら、ここには透明」
目の前に再度透明が現れる。先ほどの透明よりカラフルな触り「心地がする。僕はこれが欲しいと店員に伝える」
この「」があなたに見えるかい?、見えないだろう。その中で話さなければならない君は不自由だし、「」をビジュアライズできない君は不自由。「」と言える僕は、その外で意思を伝えられる僕は自由。
突然それができるようになるのも自由だと僕は知っている。君に伝えたいことを箱に入れなくても。コンビニエンスとは自由。コンビニエンスとは自由?
次のお客様ー。
「僕はそう言って次の客を呼ぶ。そいつは持っていた。たしかに持っていた。君にはその客の姿がビジュアライズできるのだろう?」
」
お読みいただきありがとうございました。
喧嘩は売ってないです。コンビニには。