その六 焼肉屋
新人が加入したということで、また飲み会をやろうとか言い出した。
今度は国道沿いの焼肉店だった。
ドライバーは飲めないだろうということで、前田さんが成見と松井さんを車で送ったらしい。優しいというか、健気というか、普通はそこまでやるものなのか、地元で飲むことがあまりなかったので、私にはよくわからなかった。一応私にも聞いてきたが、彼の方もあまり期待していなかったらしく、私は一人で運転して店に向かった。
店に着くと、前田さんがエントランスで出迎えてくれた。他の二人も既に席で待っていた。例によって小迫さんは欠席だった。
ランチ以外で、焼肉店に来たのは初めてだった。店内は、土曜日の夜ということもあって、主に家族連れでごった返していた。なるほど、今時の世間の家族はこうして外食をしているのか、と感心した。私の家では、外食をしたことなどほとんどなかった。当時はまだ、ファミレスなるものも、ほとんど存在していなかった。ましてや家族で焼肉店など想像もつかない。
更に、タッチパネルにも驚愕した。引きこもっているうちに、時代が変わっていたことを痛感した。注文は前田さんに任せた。
成見と松井さんはビールを注文した。私はドリンクバーでジンジャーエールを注いできた。
乾杯して、肉を焼いた。
成見がスマホの画像を見せてきた。腹筋が割れていた。相変わらず前田さんと筋トレの話をしている。私の隣は松井さんだった。
「僕、最初に入ったのが銀行だったんですよ」
「え、銀行。銀行員だったんですか」
「いや、銀行員じゃなくて、サーバーの管理とか、データのバックアップとかやってたんですよ」
「マジすか」
サーバーの管理。IT系だったのか。
「合併して、今はなくなっちゃいましたけど。昔は大手町まで、毎日通ってたんですよ」
大手町というと都市銀だろうか。合併して今はない銀行だと、Tとか、Dとか、Uとか、その辺か。しかしあの辺りには、地方銀行や政府系の金融機関もいろいろあるような気がする。いずれにしてもエリートであることに変わりはない。
「SEとかなんですか」
「いや、SEじゃないです」
「プログラムとかは、組めるんですか」
「いや、プログラマーじゃないんですけど」
SEでもない。プログラムも組めない。頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになった。それで都市銀でサーバーだのバックアップだのの業務が出来るのか。そもそも大学の新卒で入行したのか。プログラマーでもなくて、新卒でIT系の採用があるのか。聞きたいことはいろいろあったが、根掘り葉掘り聞く訳にもいかなかった。
そもそも、そんな経歴の人間が何故、あんな工場で、あんな非正規仕事をやっているのであろうか。しかもその仕事も出来るとは言い難い。人並み外れたあの抜けようで、銀行の仕事が勤まるのか。勤まらないから退職したとしても、そもそもどういったルートで入行出来るのか。もう何が何だかわからなくなってきた。考えないことにして、肉を食うことにした。しかし、じゃんじゃん注文するため、カルビだかロースだかハラミだか、自分が何を焼いて何を食っているのかさえ、わからなくなってきた。焦げてようと、レアだろうと、お構いなしだった。セロトニンの分泌過剰で一月はハイになれそうだった。
経歴についてはまた後程