その四 プレッシャー
成見はまた、こんなことも言い出した。
残業時に、残り三十分というところでUCに戻った。
取り敢えず、松井さんの作業を手伝うことになった。その時だった。
「ギリギリまで、手を出さなくていいですよ」
ギリギリの時間まで追い込んで煽ってやれば、多少は早くなるだろう、という意図だったのであろう。
しかし煽ったところで、仕事が早くなるとも思えなかった。
何度も反復してりゃ、そのうち覚えるだろう、というのが私のポリシーだった。それは今でも変わらない。極端な状況でもない限り、一度だけで覚える必要があるとは思えなかった。
というよりも、こういうちょっと抜けてるというか、足りないというか、そういう人に対してこそ、最も有効な手段が、粘り強く適切な指示を与えながら反復させることではないだろうか、と思った。精神的にプレッシャーをかけたところで、逆効果であろう。
尤も、UCの梱包ヤードで四六時中監視して指示を出すことは困難だったかもしれない。狭いダイレクトのヤードだから出来ることなのかもしれなかった。ダイレクトなら、目の前で彼の作業を監視しながら、自分の作業をやることも容易だった。
それにちょっと賢い人間なら、こんなハードな仕事を続けようとは思わないだろう。ここで続けていけるのは、他に行き場のない連中だけだ。小迫さんと同様に、適当におだてて仕事をやらせておく方が無難ではないだろうか。
しかし、私のそのような楽観的な見通しは、突然暗雲に見舞われ、土砂降りの雨になった。
パワハラの第一歩ですね