その二 松井さん
とある土曜日に、初めてダイレクトにやってきた。UCが一段落したらしく、前田さんと成見も一緒だった。小迫さんは何かの理由で休みだった。
梱包のやり方はだいたい同じだが、こちらでは台車を使用しないといけない。少しでも作業しやすいようにと、小さい方の台車を提供してあげた。松井さんは、初めての台車に悪戦苦闘して、ガチャガチャと向きを変えた。見ていると、どうも動きがぎこちないというか、無駄なアクションが多いような気がした。まだ慣れていない、ということもあるのだろうが、元々そういう人なのかもしれなかった。へらへらとしながら、独り言を呟いていた。前田さんは優しく指導していたが、諦めともつかない、やや微妙な空気が流れているような気がした。
それ以来、ダイレクトにも頻繁に来るようになった。
仕事量が増え、小迫さんが防錆をメインにやり始めたので、松井さんが来るしかなかったのであろう。
ある日、彼がテーブルに座って段取りをしていると言った。
「何か、音がうるさいんですよね。集中出来ない」
そう言うと、耳を押さえる仕草をした。
フロアの向こうには、製造のラインがあった。機械音がガッタンゴットンと、工場中に響き渡っていた。
書きかけの製品ラベルを見ると、間違えたのか、二本線で消した跡で埋まっていた。
何か、脳に器質的な異常でもあるのではないかと思った。
自分の作業をしながら、目を光らせることにした。
箱を積む位置を修正してあげた。
副票を入れ忘れかけたので、指摘した。
「アーー」
ヘラヘラと笑いながら、叫んだ。
取り敢えずその程度で、大きなミスはなかった。
確かに作業は早くはないが、こちらでは割と普通に作業しているように見えた。
しかし、前田―成見サイドの評価は芳しくなかった。
また土曜日のことだった。
工場はうるさいです