その六 剥離
ダイレクトで、一人で段取りをしながら携帯を見ていると、後ろから声がした。さりげなく携帯を閉じた。
「すいません。ちょっとアウトリンクの仮組表ありますか」
若い社員が三名。恐らくダイレクトではなく、UCの方であろう。何となく雰囲気でわかる。どこかで見たことがあるのかもしれない。
ホワイトボードにぶら下がっているクリップボードを教えてあげた。何種類もある。
「これとこれとこれとこれとこれですね」
「えっと、これは75か」
一体何事だ。
「ちょっと78のピンで剥離が出たんで、差し替えになるかもしれないんですよ」
「え、マジすか」
差し替えはともかく、『はくり』って何だ。やっぱり剥離か。
「ちょっと今確認してるんで、もし78のアウトリンクあったら止めといてもらえます」
「ああ、わかりました。今一つありますけど」
「ああ、じゃあそれもちょっと保留でお願いします」
「ああ、わかりました」
前田さんからの連絡はない。取り敢えず、他の作業を続けた。
午後の昼礼で、その話が出た。前田さんが言った。
「ピンに剥離が出たんで、今、部品管理の人たちが調べてます。で、もう梱包したやつも、差し替えになるみたいなんだよね。なので、戻ってきたら、ちょっと対応しますんで」
珍しく私が手を挙げた。
「戻ってくるって、ダイレクトに戻ってくるんですか」
「それも、これから話し合うんで、取り敢えず他のやってて」
「はあ」
結局、ダイレクトに戻ってきた。物流が運び込んできたパレットは四枚だった。
アウトリンクは、ピンとセットになっている。一人で、クソ重いピンをパレットに移し替えた。アウトリンクのラベルをビリビリと剥がした。午前中に来た部品管理の社員の一人が、フォークリフトでピンのパレットを持って行った。78のアウトリンクがストップとなったため、やることがなくなり、この日は定時になった。
ジャパンクオリティです