その一 ラベル
この単調さにまさる
これ以上の
荒廃は存在しない
河島英昭訳『ウンガレッティ詩集』『風景』小沢書店(1993)
四月に入ってしばらくすると、入庫ラベル貼りをやらされるようになった。
入庫ラベルは、製品の段ボール箱一個につき一枚ずつ貼っていく。
しかし、ただベタベタとシールを貼ればいいという訳ではない。
まず、どれに何を貼るか、ということが問題となる。
梱包する時に、我々が記入した仮組表と製品ラベルのチャージナンバーを確認する。間違いなければ、入庫ラベルを引き出しから引っ張り出す。その前に正しい引き出しはどれか。仕向け地はどこか、製品は何か、といったことを確認しなくてはならない。そして引き出しが見つかっても油断してはいけない。ラベルと仮組表の仮入庫ナンバーが一致している必要がある。
何せシールなので、貼り直しがきかない。
再発行も恐らく出来るのであろうが、その方法を私は知らない。前ちゃんか成見クンに知られずにミスを揉み消すことが出来ないとなると、細心の注意を払うしかない。
そこまでしてやっと、貼る作業に取り掛かることが出来る。
箱が積まれたパレットを前にしゃがみこんで、ラベルの半券を引き離す。おもむろにペラペラとシールを剥がし、ベタベタと貼り付けていく。
ヤンキー座りだと膝が痛くなる。ただでさえ梱包の作業で膝を酷使している。片膝を立てて作業することにした。
今貼っているのはダイレクトのワイリンクで、全て同じ部品である。総計四十八枚。
これがセットということになると、複数の部品が同じパレットに載ることになる。違う部品にラベルを貼ってしまうということも考えられる。プレートにピンのラベルとか。更にセットは、パレットが三枚とか四枚なので、間違ったラベルを互い違いに貼る可能性もある。これも気を付けないといけない。
「どうでした」
例の如く、成見が聞いてきた。
椅子を用意しろ、とは流石に言わなかった。
「意外と大変ですね」
例の如く、適当に当たり障りのない受け答えをした。
しかし、当たり障りのないといっても、全くの口から出まかせという訳でもない。地べたに座っての作業は、それはそれでキツイ。パレットの狭い隙間でラベルを貼らなくてはならないので、意外と肉体労働だ。
「これ、結構ラクな作業に見えるんですけど、やってみると、意外と大変なんですよね。特に数が多くて煽られてりすると、結構キツイんですよね。でも小迫さんとかが見ると、『ラクしやがって』とか思われるんで、やる時はなるべく、真剣にやるようにして下さい。わざと大変そうに見せるようにした方がいいですよ」
そんなもん知ったことか、としか言いようがなかったが、素直に了解しておいた。
社員どもは、よく仕事終了間際に急いでベタベタと作業をしていた。
忙しかったのか、自分たちで好き好んで追い込んでいたのかはわからない。どうも両方のような気がしないでもない。
小沢書店はもうないですよね
引用ってどうなるんでしょうか