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自己愛性ブラック~その原因とメカニズム~  作者: 朝木深水
第五章 自己愛性パーソナリティ障害(疑)
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その四 疑念

 ワンセット片付けたので、次に移ることにする。


 台車置き場には、まだ四セットも残っている。


 ピンが必要なアウトリンクは、まだやる必要がない。ワイリンクの台車を引っ張り出して、ヤードへと転がしていく。


 彼は、一緒に頑張りましょう、と言った。


 しかし、一緒にという時点で、既にお互いの立場の違いを弁えていない。


 自分は社員を目指すけど、なるべく迷惑はかけないし、大変だろうけど出来る限り協力してほしい、とでも頼まれれば、ああそうですか、じゃあ協力しましょうね、とでも答えられないことはない。


 ところがそういう謙虚な態度ではなかった。


 言い方は穏やかで丁寧だが、どことなく上から目線なのを感じる。


 仕事って本当は楽しいんですよね。朝木さんはそれに気付いていないだけなんですよ。朝木さんもきっと楽しくなりますよ。自分の言う通りにしてればいいんですよ。


 どちらかと言うとカルトの勧誘に近い不気味さを感じる。無知蒙昧な異教徒を教化する使命に駆られているのかのようだ。彼はここで神でも見たのか。そんなもん、どこにいるんだ。


 いずれにしても成見が、私の立場など全く考えていない、ということだけは確かだ。


 この状況で本当に私が彼に付き合って、この非正規労働に人生を捧げるとでも思っているのだろうか。社員になりたきゃ勝手になればいい。しかし何故私が協力しなくてならないのか。回収出来る見込みのないコストを払うつもりはない。



 それに工場ならともかく、契約からワークネードの正社員になるということを、手放しで喜ぶべきことなのか疑問が残る。


 常識的には、非正規から社員に昇格することは喜ばしいことなのであろう。しかしこの会社のような派遣或いは請負業の場合、どうしてもピンハネという十字架を背負わなくてはならない。


 奴隷から自由市民に。搾取される側から搾取する側へ。或いはピンハネされる立場からピンハネ屋への転向。


 前田さんの場合は、罪悪感とまではいかなくとも、多少の引け目というか、我々の立場も理解していることは感じられる。他の社員連中がどう考えているのかは知らないが、面接の時の様子からすると、加藤さんもそういう認識を多少は持っているのであろう。


 しかし成見がそういったことを意識しているような様子は全く感じない。自分だけ正社員になり、非正規の我々から搾取するのを当然のことだと思っているような言い方であった。


 そして単なる自己の欲望を、ポジティブな正論と仲間意識のオブラートに包み込んで、私に押し付けようとしているとしか思えない。利己的で他人の立場、というか少なくとも私の立場などお構いなしに見える。


 言い方は普段と変わらず、あまり大きくない声で、淡々と話していた。


 しかしどう考えてみても普通じゃない。

 これは自己愛性パーソナリティ障害ではないのか。



 しかし当時はまだ、自己愛性とかパーソナリティ障害に関する知識はうろ覚えのものでしかなかった。


 そもそも何故このことで、自己愛性PDを思い付いたのか。

 家のパソコンで蔵書リストを探してみると、過去にパーソナリティ障害に関する本を読んでいることが判明した。蔵書リストというのは、表計算ソフトで作成しているものである。日曜日に本の山をひっくり返して探してみると、すぐに見つかった。やや古い文庫本で、素人向けの平易なテキストだった。取り敢えず読み始めた。


 更に今は、インターネットという便利な代物がある。

 検索すると簡単に解説が見つかった。

 こちらも素人向けの簡単な解説と、やや雑な編集でわかりにくいウィキペディアを一通り読んだ。

 パソコンの画面で長々と文章を読むのは面倒で辛かったが、ともかく概要は何となくわかった。

 自分の見立てが正しいのか、検討してみることにした。

本読む暇もないってどうなの

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