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自己愛性ブラック~その原因とメカニズム~  作者: 朝木深水
第四章 派遣から請負へ、奴隷から奴隷使いへ
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その四 本性

 どうも彼は成見と違って、普通以上に繊細なところがあったような気がする。


 正式に請負化した後のとある週末、ワークネードの社員旅行があったらしい。

 週開けの朝礼で、そのことを話した。


 ちなみに請負化後は、朝礼は社員どもと分離して行うようになっていた。


 どこかの太平洋岸の温泉宿に宿泊した。熱海だか静岡辺りだか、確かその辺だった。初めて社長の顔を見た。まだ若かった。いかにも起業家らしい、やり手そうな奴だった。


 どうもワークネードは自身で起業したらしい。


 そしてその帰りに、わざわざ一人で反対方向への列車だか新幹線に乗り、どこかの鉄道博物館を見てきた。特に鉄オタという訳でもないらしい。


「たまには社会見学じゃないけど、ああいうところを見るのも楽しいもんですね」

 社員旅行の帰りに、一人で寄り道、しかも反対方向へと向かう。


 ストレスから一人になりたかったのではないだろうか。その気持ちはよくわかる。しかし私でさえ彼の立場だったら、流石にそのようなことはやらない。列車内なら寝た振りでもして凌ぐだろう。他の社員たちがどう思ったことか、他人事ながら少々心配になった。


 更に、こんなこともあった。前田さんも以前ジムに通っていたことがあるとかで、彼と成見と坂上君とで、仕事終わりに筋トレ話で盛り上がることがあった。もしかして地球上の人類で、ジムに通っていないのは私だけなのではないだろうかと思った。この頃になると、成見の体重もかなり減って、七十キロくらいになっていたらしい。体型もみちがえるほどスリムになっていた。顔も細くなったのか、笑うと薄い唇の脇には皺が寄るようになった。


 相変わらず成見は私を攻め立てた。ジムで発行された、体重や体脂肪率の推移だの何だのといったレポートを見せながら、言った。


「朝木さんもやりましょうよ」

「いやあ、時間がないんで」

「時間がない」


 その時一緒にいた前田さんが呟いた。普段のテンションから、どうも一瞬素に戻ったようだった。


 恐らく彼も、我々非正規に長時間労働を強いていることを気に病んでいたのではないだろうか。


 調子のいいことを宣わっていても、彼はあくまでビジネスでやっていることが何となくわかってきた。それは加藤さんも同様だった。最初の面接では少々疑問を抱いたが、彼も自分の言っていることをそのまま信じているほど単純でもないことは、その後の様子を見ていれば、よくわかった。


 確かに、前田さんも我々を利用する気は満々だったのであろう。しかし正社員という立場なら、非正規を上手くコントロールして、仕事をさせる必要がある。


 そこはお互いに立場を弁え、持ちつ持たれつ、本音と建て前で、面倒ごとを避けつつ、波風を立てないように上手くやっていくのが、大人の態度というものであろう。


 ところが成見は、前田さんの掻き鳴らす三味線で、マジにダンスを始めたようだった。

正社員も大変です

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