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自己愛性ブラック~その原因とメカニズム~  作者: 朝木深水
第四章 派遣から請負へ、奴隷から奴隷使いへ
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その三 断絶

 前田さんが我々のGLとして配属されると、すぐに成見と仲良くなった。


 私も人間或いは社会人としての義務或いは責任として、職場の同僚と普通にコミュニケーションをとって仲良くする振りくらいは出来ないとマズいのではないかと思い、会話に加わろうとした。少なくとも努力はした。しかし例によって上手くいかなかった。


 第一の原因は、私が生粋のコミュ障であるためだ。


 しかしそれだけではない。


 二人の話を聞いているうち、だんだんと雲行きが怪しくなっていくのを感じた。


 いつも何のことを話しているのかと思えば、何と仕事の話をしていたのだ。しかもクソ真面目に。何やら抽象的で威勢のいいことを口走っては、二人で盛り上がっていた。


『リーダーでもさあ、やる気のない奴がいるんだよ』

『坂上さんに聞くと、他はホントやる気ないみたいですね』

『ここは長田さんがいるからさ。やっぱり他とは違うんだよね』

『見てないようで、ちゃんと見ていてくれてますよね』

『他はみんな休んでばかりだよ』

『勤怠は大事ですよね』

『上の連中は現場なんか見てないからさあ』

『結局そこで判断されちゃいますよね』

『俺も最初は派遣で入ったんだけどさ』

『派遣とか正社員とか関係ないですよ。仕事なんだから』

『まあタイミングとか運もあるけどさ』

『やっぱりやるからには上を目指さないとダメですよね』

『やってやろうぜ』

『頑張りましょう』


 『頑張りましょう』とか言われても、頑張って仕事をしたところで、正社員になれる訳でもないし、時給が二倍になる訳でもない。上を目指すって、上に一体何があるんだ。俺には何も見えない。老朽化した建屋のごたごたした天井が見えるだけだった。彼らには、恐らく天国でも見えていたのであろう。


 『こいつはヤバイ』と思った時には既に遅かった。まさに後悔先に立たずだ。


 おかげで携帯電話が手放せなくなった。仲間に入らなければ、という義務感の反面、体が拒絶反応を示していた。これはフロイトのいうところの『防衛機制』である。多分。


 成見クンは全く気にする様子はなかったが、前田さんは恐らく、『こいつ何なの』と思っていたことだろう。それが普通の反応だ。


 前田さんも、そのような状況を憂慮してか、私との距離を縮めようと努めていたのかもしれない。ある時、私に聞いてきた。

「朝木さん、趣味とかあるんですか」

「音楽は好きですけど」

「どんなの聞くの」

「最近は、ブルースとかカントリーとかですかね」

「………」

「………」

「………」

「ブックオフで、五百円のをよく買ってますよ」


 ブルースだと、マディ・ウォーターズ、バディ・ガイ、オーティス・ラッシュ、その他もろもろといったところか。ロバート・ジョンソンのリマスタリング盤にいたく感動したのも最近だ。カントリーは、ハンク・ウィリアムスあたりがメインか。しかし、高校時代からイーグルスやドゥービー・ブラザーズあたりのアメリカン・ロックが好きだった。ウディ・ガスリーやカーター・ファミリーはフォークと言った方がいいのか。実は、最近のお気に入りはジョン・ハイアットだったりするのだが、要するに、目に付いたものは何でも買い漁っている状態である。あくまでお小遣いの範囲内で。


 そもそも、あんなことは言うべきではなかったのであろう。AKBとかエグザイルとか言っておけばよかった。


 かくして、前田さんと私との間の断絶は、より一層深くなっていった。

当時はまだCD買ってましたね

ストリーミングはまだ使ってなかったです

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