表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自己愛性ブラック~その原因とメカニズム~  作者: 朝木深水
第二十一章 限界
313/397

その十三 ダブルチェック

 数日後、笹井さんは出勤してきた。しかし、まだ腰痛が治っていないようだった。

「運搬行けますか」

 成見が聞いた。

「いや、ちょっとまだ無理だね」

 そういう訳で、私がやることになった。

 どうも、いつもこのようなやり取りをしているのであろう。

 運搬中は、笹井さんの話題は出なかった。成見も慣れたのであろう。

 実験Z棟で台車を降ろしていると、そこへリーチフォークがやってきた。ガイドを持ってきたらしかった。運転していたのは、今年定年を迎えて、現在はシニアとして工場に残っている社員だった。平野さんがいないのであろう。彼はリーチフォークを脇に停車させると、横のクローザー工場の入り口で煙草を吸い始めた。そこには灰皿があり、喫煙所となっていた。半袖で寒くないのだろうか。

 我々が作業を終えトラックを出すと、成見が咎めるように言った。

「いいんですか、仕事中に煙草吸ってて」

「いいんじゃないです。シニアだし」

「シニアだといいんですか」

 勿論、いいとか悪いとか、そういう意味ではない。シニアの立場で、周囲から何をどう言われようと、今更知ったこっちゃないだろうという意味だ。しかし、理解されそうになかったので何も言わなかった。


 土曜日は、朝から小迫さんがダイレクトに回されてきた。

 ダラダラと梱包でも始めようと思っていると、小迫さんが声を上げた。

「朝木さん、これ違ってるよ」

 仮組表のクリップボードを渡された。中国向けのアウトリンクだった。

 何がどう違うのか、さっぱりわからなかった。

 小迫さんに指摘された。

 どうも、チャージナンバーが違っているらしい。『10』と書くべき所を『01』と書いているようだ。

 昨日に、松井さんが記入したものらしい。

 よくこんなの見つけるな。自分でやった訳ではないのに。

 まあ、『10』とはつまり十月のことなので、見ればわかるのか。

 どうしようかと思案に暮れていると、選りに選って、このタイミングで成見がやってきやがった。

「どうしたんですか」

 小迫クンのおかげで、説明する羽目になった。これで揉み消しは不可能になった。

 こいつはマジで長田さん並になってきたようだ。転移を通り越して、何か霊的な力で一体化しているのかもしれない。

 取り敢えず作業表を見た。こちらでは、きちんと『10』と書いている。問題は製品ラベルの方だ。

 松井さんはいつもミスする。ゴミ箱を漁ると、案の定、書き損じのラベルを発見した。こちらもきちんと『10』と書いている。製品ラベルも間違っていないことはほぼ確実だった。仮組表を書き直そうとすると、成見が言い出した。

「いやいや、それは確かめないと」

 わざわざ、パレットを立体倉庫から引っ張り出すと言い出した。物流の三好さんに電話をかけた。ミスったのが松井さんだからなのか。全くよくやる。

 製品ラベルの方も間違っている可能性は少ない。わざわざ、忙しい物流の手を煩わすのは忍びなかった。手間とコストを考えたら無意味だ。しかし、そんなことは考えていないのであろう。

 昼休みが終わると、笹井さん、成見そして私の三人で新工場へ行った。パレットが既に降ろされていた。

 製品ラベルのナンバーは、間違っていなかった。

 こういった時にいつも思うのだが、社員とサブ二名と、物流を動員するコストを考えたら、メール一本で謝罪した方が余程安上がりではないだろうか。しかし、ミスはやはりマズイのであろう。今回は仕方ない。

「これからは、ダイレクトでも、ダブルチェックをやって下さい」

 ここで断るガッツはなかった。結局、ダブルチェックをやる羽目になった。ああ、面倒くさい。


 実験Z棟に戻ると、部品台車を見て言い出した。

「空全部返さないといけないんで」

 Eワイリンクはセットにも使用される。本来は島村君が指定してくれないと手を出せない。

 しかし、部品の流れが停滞していたので、他にやるブツがなかった。UCでも同様だったらしい。空コンテナを返さないと、更に停滞する。取り敢えず、仕向け地未定のまま梱包だけやって、隅に積んでおくことになった。場所も取るし、後で積み替えるのは私だった。二度手間になるので、あまりやりたくはなかったが、選択の余地はなさそうだった。

 結局、午後からは一人で作業をして、三時で終了した。他の連中は選別に回され、四時までになった。誰もいない工場を、一人でさっさと後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ