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自己愛性ブラック~その原因とメカニズム~  作者: 朝木深水
第十九章 自己愛性ブラック
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その十三 ヤクザ型と自己愛性ブラック型

ヤクザ型と自己愛性ブラック型


 それではここで、利益追求系のヤクザ型ブラックと、自己愛性ブラックを比較してみよう。

 例えば、従業員がこのようなことを言い出したら、どのように対応するか。


『ただいま帰宅しましたよ。

ついさっきまで仕事してましたよ。

あと三時間半後には出社ですよ。

どうでも良くなったよ。

考えても考えても、今の状況を打開することが厳しい。

労基うんぬん言ってもどうしようもないし。

駄目だな。自分自身。

会社に迷惑かける前に、早いとこ星にならないと。』

川人博『過労自殺第二版』岩波新書(2014)


『10月21日 眠りたい以外の感情を失いました』

『10月24日 もう四時だ 体が震えるよ!… しぬ もう無理そう。疲れた』

高橋幸美 川人博『過労死ゼロの社会を 高橋まつりさんはなぜ亡くなったのか』連合出版(2017)


 最初のケースは、大手化学プラントメンテナンスの新興プランテック株式会社における過労自殺のものである。入社二年目のシステムエンジニアが、月二百時間超の時間外労働などを苦に自殺した。彼はミクシィにブログを残していた。

 二番目は、過労により自殺した電通の女性新入社員、高橋まつりさんのラインである。

 電通のケースでは、週四十時間を超える過酷な時間外労働に加えて、卑劣なパワハラやセクハラなども原因として挙げられている。

 こういった場合に、どう思うのか。


 ヤクザ型ブラックの場合はこうだ。


『ちょっと追い込み過ぎたか。これで自殺でもされたらマズイな。この辺で飴をあげて、御機嫌を取っておいた方がいいな。少しは休ませるか。それともいっそのことクビを切った方がいいのか。とにかくこれ以上はマズいぞ。何とかしよう』


 本当のワルなら、人格者を演じることなど訳ない。客観的に自分を見つめ、捜査当局や世間の反応を予測することも可能だ。

 そしてその悪さ故に、自身の行動をセーブすることも出来る。利益のために、或いは自分のためにヤバいことをやって他人を喰い物にしているという自覚があるからだ。


 これが自己愛性ブラック型になると、こうなる。


『月百時間くらいで、何を言っているんだ、この子は。私が若い頃は社内飲食してたぞ。みんなやっていることじゃないか。でも確かに新人だから、まだキツイのかもしれないな。でもきっと、その内にわかってくれるに違いない。今はまだキツイだろうが、今ここで甘やかしてしまうと本人のためにもならない。ここはビシッと言っておいて、もう少し頑張ってもらおう。それが本人のためにもなるんだ。社会人として、社員として、まともな人間になれるように私が指導してやらなくてはならない。私には部下に対する責任があるのだ』


 こうして、非自己愛性PDの社員は追い込まれていく。

『間違っているのは自分で、会社ではない。仕事が出来ない私が悪いのだ。もっともっと頑張らなくては』。

 自分が正しいと思っている人間ほど恐ろしいものはない、という好例であろう。

 自己愛性ブラックは、自分たちがヤバいことをしているという自覚はない。彼らに悪気は一切ないのだ。長時間労働は絶対的に正しいことだし、パワハラは、仕事が出来ない人間に対しては許されると思っている。仲間(と思い込んでいる人々)の足を引っ張るからだ。本人のためにやっているとすら思っている。彼らは自分たちが正しいことをしていると信じているのだ。そして集団心理と過剰な仲間意識によってブレーキが利かなくなる。おぞましいパワハラやセクハラはエスカレートする。


 もし、自己愛性ブラック経営者や上司が、従業員や部下を過労死や自殺に追い込んだとしたらどうなるか。

 彼らはこう考える。

『何で、何で逝っちゃうんだよ。何でボクを一人にするの。百時間くらいで死ぬとか訳わかんないよ。幾ら何でも弱すぎだろ。そうだ、弱いのが悪いんだ。自己管理が出来てなかったからだ。だいたい、社会人としての自覚がなさすぎだろ』

 これはストーカーとも通じる心理である。悪いのは相手であり自分ではない。『あいつが悪いんだ』。

 元々自己愛性PDは、自分が神の如くに正しいと思っている。自分の間違いを認めることは、彼らにとっては『死ね』と言われているに等しい。

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