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自己愛性ブラック~その原因とメカニズム~  作者: 朝木深水
第十九章 自己愛性ブラック
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その六 集積

 飲み会が、一体ブラック企業と何の関係があるのか。

 第二の男は、飲み会が好きだった。回数からすればそれほど多いという訳ではないのかもしれない。しかし週末に飲むと、必ず朝までになった。私の方が飲み会忌避派であるということを差し引いて考えても、それほど間違った印象とも思えない。何せ、北関東の元ヤン元ホストで元ボクサーなオラオラ的人間である。飲むのが嫌いで、ナンバーツーホストにはなれまい。そして居酒屋に就職して、その休日に自分の店に現れて飲んでいた。アルバイトの学生さんたちも引いていたように思える。


 第三の男は、私の送別会を開いてくれた。和民で。

 そこまでは良かった。問題はその後だ。

 家が反対方向であるにもかかわらず、わざわざ電車に乗って私に付いてきた。そして帰宅せずに、公園で一夜を明かすという謎めいた行動をした。実はあれが初めてではなく、櫻井君とも、同様な行動をしたことがあったらしい。それで櫻井君もドン引きだった訳だ。

 成見は、最初に前田さんと私の三人で飲んだ時に、お開きの号令がかかると、そこから食い下がり、更に宴を継続しようとした。前田さんの送別会兼忘年会のカラオケでも、前田さんが翌日に予定があるために帰宅することになったが、朝までオールをやりたがった。『オーーーーーーーーーーール。ウェエエエエエエエエエイ』。


 成見に関しては、ジム通いも重要である。筋トレ自体に、ナルシシズムを見出すことはそれほど難しいことではない。

 しかし、それだけではない。この場合、体を鍛えることのみならず、毎日ジムに通うということに重要な意味がある。

 毎日二時間の残業をして、その後でジムに通う。

 更に、私まで誘い込もうとする。毎日のようにしつこく、社交辞令などではなく、かなりマジで。もしかして、『オトモダチ入会キャンペーン、二千円キャッシュバック』のためかもしれない可能性もあるが、恐らく違うと思う。


 成見の場合は、気になる点がもう一つある。

 仕事が終わった後のもたもたである。

 他の連中は、終業のチャイムが鳴れば、『お疲れ』と言い残して、とっとと帰宅の途につく。これは私も同様だ。同僚と興が乗って話し込むこともたまにはあるだろう。しかし、成見の場合は理解の範囲を超えている。

 チャイムが鳴っても事務所で話し込む。やっとロッカーの前に来ると、そこから更に五分近くのろのろと準備に時間をかける。ヘルメットを放り込み、上着を引っ張り出して、キーをチャラチャラと鳴らし、スマホを確認し、やっと上着を着て、帰りましょうかと号令をかけて玄関へと向かう。

 毎日このような調子なので、段々と付き合うのが苦痛になってきた。しかし、惰性でやめることが出来なかった。

 この行動にもちゃんと意味があるということに気付いたのは、随分後になってからだった。

 残業を厭わず、他人も巻き込む。飲み会が好きで朝までオール指向。筋トレとしつこい勧誘。終わらない帰宅準備。


 これらの断片的な事実を個別に見れば、大したことではないのかもしれない。

 この場合は、それらの断片が集積した時に、初めて意味を成す。

 これらのやや困った振る舞いは、肥大化した自己愛や誇大感といったワードだけでは、説明しきれない。

 補足出来るとしたらそれは、他者との一体感を感じたままの状態、すなわち、私が命名したところの分離不全だけである。

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