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自己愛性ブラック~その原因とメカニズム~  作者: 朝木深水
第十八章 百時間
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その四 社員みたい

 部品の流れは、あまりよくなかった。午後から、或いは残業で、選別の応援に駆り出された。

 月末にあれだけ煽って処理して、結局は部品の供給が途絶え、空いた時間に選別をするとは無意味だった。


 土曜日も、選別で四時までになった。

 新海君は、我々が定時で帰った日も、成見と二人で選別をさせられたりしていた。

 やはり成見は、残業に付き合ってくれれば誰でもいいようだった。ダイレクトが終わったら、私だけ消えても問題はなさそうだった。


 成見は、今月から引っ越したらしかった。

 以前は隣の駅の近くに住んでいたらしい。それが、工場の近くに引っ越してきた。とは言え、車でも十分程かかる距離だ。新海君の自宅マンションの近くらしかった。そもそも、工場から駅まで徒歩で四十分ほどかかる。小迫さんは、毎日その道のりを歩いているという。

 土曜日にランチを食べながら、新海君に言ってみた。

「どうする。コンビニとかで会ったら」

 相変わらず、彼は何も言わなかった。

 引っ越しは自分でやったらしい。商売柄、そういったことには慣れているらしかった。

「冷蔵庫一人で抱えて運んだら死にそうになりましたよ」

 トラックを運転しながら言った。


 ガイドにラベルを貼り、入庫しようとしたところで一つ飛ばしているのに気付いた。

 長田さんは、入庫を全てチェックしているらしかった。今入庫すると、後で何か言われることは確実である。

 仕方なく、パレットを一番後ろに押し込み、養生用のビニールカバーをかけて隠蔽した。

 ところが、そういう時に限ってガイドが来ない。

 結局、長田さんに見つかった。

「朝木君、このガイドはどうしたの」

 またクレームになるとマズイので、今度は神妙な態度で対応した。

 後で、笹井さんと成見が揃って姿を現した。

「もし、こういうのあったら言って下さい。後で知らされると、ウチらも対応出来ないんで」

 成見が言った。

 そもそも言わなくてもいいように隠しておいたのだ。大体入庫したら問題だが、ラベル貼った段階で気付いたんだからいいだろ。褒めてもらいたいくらいだ。病院じゃあるまいし、ヒヤリハット報告の制度はなかった。


 運搬で、Rワイを実験Z棟に運び込んだ。

 ヤードで台車を押していると、松井さんが言った。

「何か、箱潰れてますよ」

 どいつもこいつも、うるせえなあ。ちょっと換えてやりゃあいいだろうが。面倒くさい。

 実は私も気付いていた。後で自分で適当に処理しようと思っていたのだが、甘かったようだ。

「これじゃあ、ダメですね」

 成見が台車を覗き込んで言った。

「部品には直接タッチしないけど、うちらにとっては、これが品質だから」

 『これが品質』。素晴らしい。『仕事じゃない』に加えて、また名言が飛び出したと思った。

 しかし、この得も言われぬ気色悪さは何なのか。

 運搬を終えて実験Z棟に戻ると、松井さんが言った。

「成見さん、何か社員みたいですね」

 社員みたい、ではなくて、もう社員なのだよ、松井クン。彼の脳内では、完全に自分は社員となっているのだ。

 松井さんは面白がっているような言い方だったが、実際のところ、何をどう感じているのかはよくわからない。本来はどう感じるのが正しいのか、それもわからない。賞賛するべきなのか、私の心掛けに問題があるのか、それとも私の印象が正しいのか、聞ける相手は誰もいなかった。

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