その十六 ポメラニアン
「忘年会で加藤さんが、給料上がるとか言ってたじゃないですか。あれ、あまり信用しない方がいいですよ」
確かに、そんなことを言ってはいた。しかし、元からそこまで期待なんぞしていなかった。
「自分らの給料も、長田さんがプレッシャーをかけてくれて上がったんですよ」
成見の長田さんラブは、相変わらずのようだった。
「何か、前加藤さんが、知り合いを紹介してくれとか言ってたじゃないですか」
成見が言った。確かに、加藤さんは以前そんなことを言っていた。
「一人知り合いで、ここで働きたいって奴がいるんですよ。それで、加藤さんに、条件とか案内みたいなのあったらくれって言ったんですよ。でも二週間くらい経ってるのに全然くれないんですよね。折角知り合いがいるのに、これじゃあ紹介してやろうと思っても出来ないですよね」
こいつは社員を目指して上の連中と仲良くしているようだった。或いはただ単に自己愛性PDのためか。加藤さんに対しても、サラミをねだるポメラニアンよろしく、尻尾を振り振りしているのだと思っていたが、彼の方は、元々本気で紹介してもらう気がないのか、それとも、既に成見の本性に気付いてさりげなく避け始めたのか、判断がつかない。前田さんや私が違和感を抱いているくらいなら、あの人が何も感じない訳がない。そこまでお目出度い人間でもないだろう。忘年会での加藤さんのことを思い出した。
加藤さんには、野心があるようだった。
今更自身で起業など出来ないだろうから、どこかの野心的な若者が起業したと思われる、派遣―アウトソーソング企業で成り上がるつもりなのであろう。ピンハネ王にでもなるつもりなのかもしれない。
そういった人々にとっては、会社の飲み会も重要な意味を持つのであろう。下っ端どもに発破をかけて、洗脳し、品定めをする。そもそも、部品落下事故がきっかけだったのかもしれないが、その辺の意図は実はよくわからない。いずれにしても、恐らく私は利用価値ゼロと判断されて飼い殺しにされることだろう。
しかし、何の下心もない人間どもにとって、職場の飲み会に何の意味があるのか。
何故人はそうまでして飲み会をしたいのか。
一体飲み会とは何なのか。
そして、飲み会と自己愛性ブラックとの間にどのような関係があるのか。
その答えを導き出すために、再び過去に遡らなくてはならない。
恐らく彼が、重要な示唆を与えてくれるだろう。
北関東の元ヤンにして元ボクサー、そして歌舞伎町の元ホスト。
第二の男である。
チワワの方が良かったかな