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社長が魔王になったなら  作者: 豊後要
3/3

3.魔法が使えるようになったなら

 歩き始めてすぐに、龍一は自分の体の変化を実感する。肌の色の時点で自覚できたと思っていたが、座っていた時には気付かなかった、更なる大きな変化が起こっていたのだ。


 まず身長。20cmは高くなっている。これだけ変われば、立ち上がった時点で目線が別物だとわかる。元々の身長も平均的で低くはなかったのだが、それよりも頭一つ分は高い。一瞬で変わったようなもので、今までとの身長差に戸惑う事も増えそうである。頭でも打たないかと心配するレベルだ。


 そして体格。これまた大きすぎる程の変化が起こっていた。元々は中肉中背、激しいトレーニングなどしていなかった。それなのに胸板は盛り上がり、腕は筋肉で三倍近くも膨れ上がっている。腿も同様に膨れ上がり、足の甲など五割増しではないだろうか。自分ではよく見えないが、腹筋もシックスパック、六つの部位がはっきり見えるだろう。


 簡単に言えば、世紀末覇者が出る格闘漫画のように筋骨隆々である。素手で殴っただけでも大きすぎるダメージを与えられるはずだ。


 これだけ全身が膨れ上がっていれば、当然今までの服は着られない。破れているのかと思えば、茜と同様に服も変わっていた。上半身は素肌の上に革っぽいジャケット。下は伸縮性のありそうなジーンズ。屈伸しても破れる様子は無かったが、伸縮性がある分、筋肉が強調されてもいる。靴はすね当ても兼ねられるような丈夫そうなブーツを履いていた。


「社長、どうかしましたか?」


 自分のあまりの変化に茫然としていると、茜が声をかけてくる。何でもないと返事をして、ふと気になったことを聞いてみる。


「長浜さん、こんな体になっているのによく私だとわかりましたね。体格すら全く違うというのに」


「そりゃわかりますよ。仕事中は毎日顔を合わせていましたし。社長も卒アルを見せてくれたじゃないですか。若返っていても面影がありますし、わかりますよ」


 今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。


「若返っている? 私がですか?」


「ええ。・・あ、そうか。流石にお顔までは自分でわかりませんよね。体型に応じて厳つくなっていますが、見せてくださった卒アルのちょうどその頃です。17、8歳位ですね」


 確かに体格がここまで変わっていれば、年齢も変わってくるものなのかもしれない。非現実的な事態の連続に、龍一の思考は段々と麻痺してきた。現実には起こり得ない事に対して、受け入れる覚悟が出来てきたのだろう。一々驚いていても始まらないという諦めにも似ているかもしれない。


「若くなったのは、まあ悪いことではないのでしょう。それよりこの泉の水が美味しいんですか?」


「あ、はい。美味しいというかあり得ない味というか。飲んでもらえばわかります」


 茜にしてはもったいぶったた言い方である。首をかしげながらも言われるままに飲むことにした。手で掬ってみるが、やはりただの水にしか見えず匂いもない。そもそも茜はこう言うことでからかうような性格でもない。


 飲んでみると確かに驚く味だった。と言っても刺激のある物ではなく、学生時代に慣れ親しんだ味。


「・・スポーツ飲料?」


「そうなんです。それにもう一つ」


 もう一つ? と聞き直す前に変化が起きた。胸を中心に、血が廻るように全身がカッと熱くなる。熱は頭まで回るとフワッと溶けた。その直後、何かを理解する。今までわからなかった『何か』である。


「これは?」


「多分、『魔力』みたいなモノだと思います。ここの水を飲んでから、私はこんなことが出来るようになりました」


茜はそう言って人差し指を立てると、その先に火を灯した。ライターも無いのにまるでそれである。


「『魔法』だと思います。私自身、信じられませんけど。さっきの何かを消費するようなイメージだったので、『魔力』だと考えました」


「私にも魔法が出来る、と?」


「はい。使い方は既に頭に入っていると思います。イメージ、想像力に寄るところが大きいようです」


 少し考えると、確かに使い方がわかる。そこで龍一は茜と同じように人差し指を立て、ライターの火を想像してみた。ボッと音がして出てきた火は、しかしどう見てもそれよりも太く大きい。中心が青みがかっている感じすらある。


「社長、これは・・」


「うん。ライターの火ではないね」


 はっきり言ってしまえばガスバーナーである。


「おかしい、確かにライターの火を想像したんですが」


「消費しようとする量が多かったのでは?」


 そのアドバイスに従い、もう少し小さな炎を想像する。が、今度は火が発生しない。元に戻せばまたガスバーナー。


「そうなると、発火させられる最小単位がこの火のようですね。社長の場合」


「そのようですね。効果が大きいのは良いですが、使い勝手は悪そうです」


 龍一はそこで言葉を切り、少し考えた。


「長浜さん、魔法まで使えたとなると、ここは現代日本ではないでしょう。そうなれば私たちの、上司と部下という関係など意味をなしません」


「確かにそうですね」


「そこで提案なのですが、これからは無礼講として砕けた言葉で話しませんか? どうやら私も若返っているようですし」


「ありがとうございます。では龍一さん、と呼ばせてもらいますね。ただ口調は変わらないと思います。今がデフォルトなので」


「うん、それでいいよ。よろしく頼むね、茜」


 見えないところで茜がガッツポーズしていた事には、最後まで気づかない龍一だった。

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