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社長が魔王になったなら  作者: 豊後要
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1. 強い光に包まれたなら

藤田産業株式会社。就労支援や農園、不動産事業まで幅広く取り扱う企業である。


代表取締役社長、藤田龍一(41歳独身)。中肉中背ではあるが最近は少しずつ腹が出始めており、何らかの運動をしなければと考えている。中学時代から剣道を習い、高校ではインターハイに出場。個人でベストエイトまで進んだ過去を持つ。実業団で三段まで位を上げたが、家業を継ぐことになり最近は竹刀を握っていない。


彼を見る大抵の人間が感じる第一印象は「穏やか」だろう。実際に温厚で怒鳴るようなことも滅多にない。経営手腕を見ても堅実そのもの。それでいて先を見通す感性が強く、危機を何度も乗り越えている。


そんな龍一は終業時間が過ぎたにも関わらず、いつものようにオフィスの二階に残っていた。明日訪問する関係会社の書類を纏めなければならなかったのだ。社長とはいえ中小企業のそれ。立派な椅子でふんぞり返るだけでは務まらない。第一、そうした者には今の時代、誰もついては来ないのだ。


「社長、お疲れ様です。少し休憩しませんか?」


「あぁ、そうですね。ありがとう、長浜さん」


見かねた訳ではないだろうが、そんな龍一に声をかける者がいた。長浜茜(24歳)。二年前に入社し、龍一の秘書的な立場にいる。秘書という役職として就いている訳ではないが、今では彼女が居なければ仕事が回らないほどに優秀である。


秘書という肩書きから想像されるような鋭い目付きでは、残念ながらない。本人はその事を気にしているようだが、そのたれ目がちな目付きは悪い方には向かわなかった。むしろ愛嬌があるとして多くの人間に受け入れられ、彼女自身にとってプラスとなっている。


体つきは太すぎず細すぎず、健康的な良いバランスである。それもそのはずで彼女は元陸上選手。中学高校と部活で長距離を走り、インターハイにも出場。長距離の決勝まで進んでいる。


性格は活発で朗らか。感情表現も豊かで、よく笑いよく怒りよく泣く。仕事ぶりは真面目で様々な事をそつなくこなすため、「一家に一台」等とからかわれることも多い。


「しかしいつも言ってますが、あなたまで私の残務に付き合う必要はないんですよ」


「はい。私もいつも返していますが、自分が好きでやっている事ですから。気にしないで下さい」


お互いが「いつも」と言っている通り、何度も繰り返されたやりとりである。龍一はこの分の残業代も給料に付けると言ったのだが、それも固辞されていた。自分で言っている通り自分が好きでやっている事で、彼女の中では仕事ではないということなのだろう。


直接聞いてはいないが、何とはなしに察している龍一も、苦笑するだけでそれ以上何も言わない。


「そうですか。それでも気にはなりますから、せめてコーヒー一本だけでも奢らせてください」


「やた! それはありがたく頂戴しますね」


軽くジャンプでもしそうな勢いで喜ぶ茜を見て、思わず笑みがもれる。娘と言える程歳は離れていないとはいえ、龍一の心情的には父親だ。仕事の多くを共にし、言葉もよく交わす。茜の家庭環境的にもその要素があり、龍一も彼女の父親的な関係を嫌がっていない。懐かれない方が不思議だろう。


オフィスビルに備え付けられている赤い自販機で飲み物を買う。龍一はブラックコーヒー、茜はミルクティーのペットボトル。何気なく買おうとしたときに茜に待ったをかけられ、スマホでポイントを貯めていたのには二重の意味で驚かせれる。そこまで時代が進んだのかという意味と、茜の逞しさに、である。


ベンチに腰掛け、とるに足らない世間話をする。ちょっとした休憩であることに合わせて、龍一と茜の二人しかいないので無礼講である。これもまた、二人居るときだけの特権だろう。


そうこうする内に二人の飲み物が空になる。休憩にはちょうど良い時間が過ぎたと考えて、茜に声をかけようと振り向いたとき、おかしな物を目にした。窓の外が眩いばかりに光っている。最初は自動車の窓ガラスの反射とも考えたが、それにしては光っている時間が長い。


「長浜さん、あれは何でしょうね?」


「あれとは?」


 龍一の疑問に答えようと同じ方向を見る茜。だが、確認は出来ても答える時間はなかった。その光が突然二人に向かって来たからだ。光はその名の通り光速で迫り、一気に二人を包み込む。


二人には成すすべがない。出来たことと言えば、眩しさに腕で目を覆うくらいである。しかしそれでも光は堪えきれないほどに強い。言うなればカメラのフラッシュがずっと続いているようなもの。当然のように顔を背け目を強く瞑る。





その後の事はわからなかった。

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