帰還して、その後
さて、そのまま飛んでいくこと数十分。通称「暗闇の山脈」と呼ばれる場所の奥地に俺たち堕天使族の集落がある。
そこには「闇の果実」と呼ばれる作物が自生しており、これを食べることで俺たちは魔力を補充しているのだ。
まあ、特殊アイテムの一つだろう。あんまり、おいしくないけど。
「それじゃ、メリアさんのことは族長に報告しといてくれ。必要経費は俺のやつ使っていいから」
「相変わらず太っ腹ですね。分かりました。あとはお任せを」
フブルと軽くやり取りをした後、ピロを連れて二人の家へと帰る。
「お兄、グラタン食べたい」
「あー、いいぞ。ただ、材料あったかなあ......」
「ピロがこっそり貯めといた。三回は作れる」
「いつの間に!? ったく、疲れているのはそのせいか?」
「違うもん! お兄が『三回もグラタン作るの面倒だなあ』って思ってることくらい分析眼で簡単に見抜けるもん!」
歩きながら、のんびりとした会話をする俺とピロ。
一か月前と比べると、だいぶ兄妹っぽくなったものだ。
「お兄、初めて会った時の事思い出してるの?」
「おいおい、無駄に分析眼使うなよ」
「そんくらい、お兄の表情で分かる」
「ははは。参ったな」
この妹との付き合いは極めて短い。しかし、互いを理解するには十分な密度だったと思う。
それでいいじゃないか。血が繋がっていなくても。
俺が戦う理由は、そこにあるんだから。
「よし、できたぞ」
「わーい!」
俺の持ってくるグラタンに歓喜の声をあげるピロ。
このエタナルドでは、現実と同様の工程で料理をすることができる。
それゆえ現実で料理してない者にとっては地獄なのだが、もとより得ることのできる食材に限りがあるので、数種類のメニューで回すのが通常。つまり、すぐ慣れるということだ。
「さて、いただきます」
「いただきまーす!」
食事中のピロは、彼女が最も年相応の態度を見せている。いつもは、特に戦闘時はあまりにもクールな分、この時の彼女は見ていて微笑ましい。
ピロはこのグラタンが大好物。エタナルドの中では難易度高めの料理なので、めったに俺は作らない。
それゆえ、ピロはグラタンが出るとすごく幸せそうな顔をするのだ。
「......なあ、ピロ」
「なあに?」
「あのメリアって人、もしかして俺たちの敵になるとかするのかな?」
実は、料理中にピロの特殊能力である「分析眼」、相手のステータスを瞬時に読み取る力が機能しなかったのかを考えていた。
その結果、彼女は俺たちの知らない力の働いている人物、すなわち「まだ知らない勢力」の一員ではないかと思い当たったのだ。
そしてゲームにおいて、初めに説明されなかった勢力というのは大抵敵である。しかも、ラスボス級。
若干飛躍しているが、そんな直感が頭をよぎったのだ。
「どうだろう。まだ情報が足りない」
ピロ、すぐに戦士の目になって応答。あー、食事終わってからの方が良かったかなあ。
ピロにとって至福の時間を台無しにしてしまった。反省......
「グラスさん。お時間ありますか?」
さてさて、ここでタイミングがいいのか悪いのか、やって来たのはフブルである。
「なんだ? 今は食事中なのだが」
「実は、メリアさんがお話があるそうです」
「え......」
「......」
タイミングが、良すぎる。あの人、超能力でも持っているのか!?
俺もピロも黙ってしまう。
「入れるか?」
「そう、だね」
小声で短く相談して、家の戸を開ける俺。
仕方ない、明日はグラタンの大盛りでも作るか。
ピロの性格のイメージは、一部に「ノゲノラ」の白が入ってます。ただ、白よりは子供っぽいですかね。
里見レイ