堕天使の女性
「てい!」
急降下しながら愛用のバスタードソードを振り下ろす。
目の前にいた頭領核の戦士が一刀両断され、その後すぐ塵となって消える。
この世界でいう「死亡」の表記だ。リアルに死体が出てきたら、ゲームの味がVRだと落ちるのだろう。
「逃がさない」
妹のピロが逃げ出す他の戦士たちを二本のハンターナイフで仕留めていく。
「ファースト・インパルス!」
そして、なぜか掛け声を出して手から火の玉を繰り出すフブル。
こうして、とある堕天使を襲ったNPC戦士団はあえなく全滅したのだった。
「さてと、フブル! 交渉は頼む」
剣を鞘に納め、俺は一息つく。ここから先は、あいつの仕事だ。
「了解です」
笑顔で返事するフブル。そのままはぐれ堕天使のほうへ向かう。どうやら、女性のようだ。珍しい。
「我々は、あなたと同じ堕天使族の者です。そのよしみで今回勝手に救援させていただきました。もしあなたがお仲間を欲しているのなら、我々の集落にいらっしゃいませんか?」
「......お願いします」
さて、あっさりと交渉は成立したようだ。こちらにしても、味方が増えてありがたい限り。
「どうも、俺の名はグラス。これからよろしく」
さて、仲間になったからには自己紹介。俺も彼女に歩み寄る。
「よろしく、お願いします。メリアです」
彼女も自己紹介してくれた。
「ピロ」
俺の背中に隠れながら、ピロも名を名乗る。こいつ、人見知りではないと思うんだが。
「私はフブルと申します。さて、自己紹介も済んだことですし、集落に戻りましょう。メリアさん、移動できますか?」
「はい、大丈夫です」
淡々と答えるメリアという女性。うーん。いまいちキャラを掴めないな。
まあ、いいや。そのうち分かってくるだろう。俺はそのとき、彼女がやけに控えめだったことは気に留めなかった。
集落への帰り道、俺の隣を飛ぶピロの様子が少々変だったのに気が付いた。
「どうした、ピロ?」
「......あの人、誰だかわからない」
「ど、どういうことだ?」
「お兄のことは見たらすぐ分かった。ほかの人のことも大体分かった。けど、あの女の人はいくら見ても何も分からない」
「えーと、つまりお前の分析眼が上手くいってないってことか」
妹の十八番が不調となると、心配だな。
「多分、大丈夫だと思うけど......」
そう言うが、やはり不安げなピロ。
「最近、お前には無理をさせたかもしれないな。今日はいくらでも甘えていいぞ」
「うん!」
ふう、ピロがようやく笑顔になった。
まあ、しばらく兄妹でのんびりってことも無かったし、ちょうどいいか。
こうして、俺たちは集落へと戻っていったのだった。
ピロとメリアがこの作品のヒロインとなります。
里見レイ