征伐と奇襲
「くたばりやがれ、小僧ー!」
ミスディールの剣筋はあまりにも分かりやすい。怒りに身を任せると、自然と体に染みついた動きをしてしまうものだ。
そして、片手剣使いの本能の軌道というのは俺の体に記憶されている。
「こっちの台詞だよ」
慣れたステップで奴の剣先をさらりとかわし、右回転で刃を奴の右肩にねじ込む。
「グオッ」
奴のくぐもった悲鳴が俺の耳元を通過する。
「......終わりだな」
ミスディールの右手から片手剣が離れたことを確認し、大きく上段に構え直して振りかぶる。
......第三統領もモブも、俺にとっては同じなんだよね。
「お見事ね、グラス君」
勝負がついた直後、メリアが近づいてくる。
「別に、何もダメージ受けてないぞ。ヒールは不要だ」
「そう、ならいいけど......」
こう言っておきながら、メリアは俺のそばを離れない。
うーん、気まずいな。何か話題はあるかな。
あ、そういえば。
「えーと、ピロは?」
戦いに集中して気が付かなかったが、妹の姿が見えない。一緒に来ていたと思ったのだが。
「グラス君がこの部屋に入った後、なんか慌てて外に出て行ったけど」
「じゃ、じゃあ一回戻るか。向こうの様子も気になるし」
「そうね。あなたがそう言うなら」
どうしてだろう。戦闘はもう終わったも同然なのだが、なんとなく緊張感が抜けない。
戦士の直感というべきなのだろう。大将を討ち取ってもまだ敵がいる気がするのだ。
そして、それが間違っていないことが証明される。
「お兄、下がって!」
ピロの切羽詰まった警告に脊髄から反射して後ずさる俺。
目の前を緑色のドロドロした液がついた刃物が横切る。
「伏兵か!?」
剣を構えながら警戒の声を上げる。先ほどのは恐らく毒がついていたのだろう。
「ひーひっひー! 天使族第六統領ユーミラス、ここに見参! 堕天使たちよ、ここまでだー!」
「ユーミラス!? お前は天使族でも和睦派だったはず! しかも、このミスディール征伐戦ではほかの天使の足止め役まで引き受けてくれたのに! なぜ今になって堕天使を襲う!?」
「ったく、悪魔のくせに甘いなあ。いいかい、俺様が和睦派だったのはあんたらの力でミスディールを殺してほしかっただけさぁ。あいつが死んだ今、お前らは今まで通り倒すべき敵なんだよお!!!」
「お兄、あいつは猛毒で堕天使たちを次々と殺している! 早く逃げよう!!」
「グラスさん、ここは遠距離戦が専門の私にお任せを! ほかの仲間も私が何とかします。お逃げください!!!」
爆発音の中からフブルと数名の堕天使たちの声が聞こえる。彼らは戦う気満々なのだろう。
「け、けど俺だってまだ戦える......」
「グラス君こっち!!!」
反論する俺を強引に引っ張って、窓から飛び出すメリア。
そのあとに続きピロが追いかけてくる。
ユーミラスも迫ってくると思いきや、フブルの相手をすると決めたらしく爆発の中へと消えていった。
「お前ら、俺がなぜ逃げなきゃならないんだよ!?」
「グラス君には確実に生きてもらう。それが堕天使みんなの意見なの」
「フブルを信じて。あいつなら大丈夫」
世話焼きなのか心配性なのか。俺はなぜか皆から守られる存在のようだ。
能力としては俺が堕天使で一番だと思うのだがなあ。
完全に戦闘意欲を摘み取られた俺は、メリアとピロに引っ張られるがまま空を飛んで行った。
グラスの強さより、天使族の腹黒さのほうが目立ってしまいました。
グラスは堕天使族最強の戦士です!
里見レイ




