治療中です②
エロジジイのジイヤはテトラさんの治療を開始したいようだ。若い女性が変態ジジイの毒牙にかかるのは同じ男として許せない。シュナイダーさんが頭を抱えているところを見ると問題の多い爺さんなのだろう。
さてどうしようか。
「ほれ、部外者は退出せい。若い女性が服を脱ぐのじゃ、関係ない者にまで見せるのは酷じゃ」
確かにその通りだがテトラさんも困っているみたいだしな。
「あの、せっかくシエル様が一緒に治療をとおっしゃってくださいましたが、私はいつもの事ですので大丈夫です。弟の治療をしていただきありがとうございました」
深々と頭を下げてお礼を言っている。ジジイの方は聞く耳持たず腕まくりまでしている。
美波に目をやり合図する。同じ女性同士の方が話しやすいだろう。
「もしよろしければ同じ女性同士、私が問診しますのでそれから治療をするかを決めてもいいんじゃないかしら」
美波ならある程度病状や対処法はわかるから心配ないだろう。
「これ、素人娘が余計な口を出すでない。王宮一の治療師のわしが診てやるんじゃ、その方が安心であろう」
傲慢なやつだ、なんかムカつく。俺の治療はできなかったくせに偉そうな。
「ジイヤさーん、ミナミさんもユースケさんもー、私と同じ薬屋さんよー。しかもねー、私より詳しいこともあるのよー。それにー、ユースケさんの治療ができていないわよー」
「そうですわね、たしかにユースケ様たちの医療に対する知識などは私たちよりも高いかと思いますわ」
そんなに医療知識は出してないぞ。フローラめ適当なこと言ってるな。まあエロジジイの暴走を止めたい気持ちもあるんだろうがな。しかしその喋り方はなんとかならないか、違和感がありすぎて誰だかわからないぞ。
「シュナイダー、あなたもそう思いますよね」
「は、はい。フローラ様、たしかにユースケさんたちのちしきは、われわれよりもたかいかとおもわれます」
「なんじゃと? シュナイダー、お前までこやつらの味方をするのか? この前怪我を治してやった恩を忘れおってからに」
それでシュナイダーさん肩身がせまい思いをしていたのか。しかし台詞が棒読みだぞ、もう少し演技力をつけような。
「そこまでいうならやってみるがいい、あとで手に負えませんとか言っても知らんぞ」
よし美波頑張れよ。
「先生、一応横についてもらってもいいかしら? 先生の方が相談件数も多いから見落としが少なくなるわ」
「テトラさんがいいなら俺は構わないが、なるべく1人でやれよ。失敗を経験することも大事だ。人間なんだから間違いは起きることもあるけど、それをどう次につなげるかも大事なことだぞ」
本当なら失敗は許されない。命に関わる仕事だからな。例え1,000件の中の1回のミスでもその患者さんからすれば100%のミスだ。
「テトラさん、私に任せてくれるかしら?」
美波は真剣だ。下心満載のエロジジイとは比べようもない。テトラさんも少し考えた後頷いてくれた。
「本当によろしいのでしょうか? なんだか申し訳なくて」
「治療費の心配ならいらないぞ。シエルさんが連れてきたんだからフローラが払ってくれる」
フローラは不服そうだが喋るとボロが出るので悔しそうに黙っている。まあ特に請求するつもりはないから安心しろ。
「それではジイヤさんとシュナイダーさんは退出してください」
「まてこら、なぜわしまで追い出すのじゃ。おかしいだろうが……離せー離すのじゃー!!」
エロジジイも抵抗していたが、シュナイダーさんとフローラに掴まれて強制退出となった。
「ところでシエラはどうしたんだ?」
「シエラちゃんはねー、ドッコラちゃんとおかし食べてるわよー。私もそっちに行くから後よろしくねー」
王様と菓子食ってるってどんな存在だよ。
「瑠香ちゃん、悪いんだけど痛み止めのクリームがあるから塗ってくれない?」
「店長、自分で塗ってくださ……無理ですね。今回だけですよ」
「ところでテトラさんはどんな具合なんだ?」
「へっ?」
「いや、体調が悪くて来たんだろ? 何か聞いてないのか?」
「そういえば聞いてないですね。すみません」
「じゃあそういうことで美波先生よろしくー。瑠香ちゃんもっと優しく塗ってくれ、痛い。」
美波とテトラさんはカーテンで仕切られた場所に入っていく。
なぜかペンタ君がじっとこっちを睨んでいる。なんか悪いことしたか?
「なあ、お兄さんの方が先生なんだろ? あのお姉ちゃんに任せて平気なのか?」
「ん? 美波か? しっかり勉強しているからな、本だけ読んでいても実際の患者さんは本の通りの症状ばかりじゃないからな。お姉さんの病気の確認と美波のスキルアップを一緒にしたいんだよ。最後に俺が確認するからさ、大事なお姉さんだと思うけど心配しないで見ていてよ」
ペンタ君も納得してくれたようだし、俺の処置も自分で済んだ事だし美波の様子でもみるか。
「ところでペンタ君、お姉さんの症状は君から見てどんな感じだ? 家族の話も参考になるから教えてくれ」
本人が気づいてない事もいつも一緒にいる家族だから気づくことがある。あとで美波にも伝えないとな。
「えーと、少し前からフラフラしていたよ。最近忙しかったから疲れているかと思ったんだ」
貧血か?
「お仕事とかはしてるのかい?」
「色々やってるよ。俺らはスラムの出身だから固定の仕事はなかなか無いんだ。日雇いで俺のために働いてくれているんだ……」
疲労も有っと。
「兄ちゃん達も働いてるけど似たようなもんで、なんとか食事はできてるけど母ちゃんの病気の治療ができないんだ。薬は高いし、栄養のあるもの食べさせたいんだけどたくさんは買えないんだ。俺も働きたいんだけど姉ちゃんが俺には教育を受けさせたいって……食事だって自分はお腹すいてないって俺に食べさせようとするんだ」
瑠香ちゃん、ハンカチくれ。テレビで見るのと実際に聞くのじゃわけが違う。目頭が熱くなって来た。
「店長、涙脆いですね。でも私もなんだか涙が溢れて来ます」
なんとかしてやりたいが、貧困対策は国の問題もあるからな。一家族助けても根本的な解決にはならない。
「それで、他には何かあるかい?」
「昨日からすごくお腹を痛がっているんだ。珍しくうずくまってた。こんなこと今までなかったから心配で、それでお金を稼ぐ方法をスラムのおじさんに聞いたら竜車に飛び込めって」
おい、それはまずいだろ。もしかしてトラブルってこれか?
「瑠香ちゃん、もしかして……」
「店長、その件は確かに悪いことですがシエルさんに怒られて反省しているので多めに見てください」
ペンタ君顔色が悪いぞ。シエルさん怖かったのか? 子供に怒るような事はしなさそうだけどな。
「ごめんなさい。竜車に飛び込めって言ったおじさんみたいにはなりたくないのでもうしません」
「店長、これ以上の詮索はしたらダメです」
シエルさんが何かしたんだろうけど、だいたい想像がつくな。聞くのはやめよう。合掌。
「まあ確かにいつもと違う腹痛で心配なのは分かるがそれだけで竜車に飛び込むようなことにはならんだろ」
「そうなんだ、朝起きたら姉ちゃんすごい汗で苦しそうにしていたんだ。大丈夫って言ってたけど布団に血がついていたんだ、見ないでって言われたんだけどきっと重い病気を隠していてそれで、それで……」
吐血したのか? 子供の言う腹痛は範囲が広いからな。他の可能性もあるか。
「腹痛は昨日からで間違い無いのか? もっと前から何か症状はなかったか?」
「先週は元気に仕事していたよ。そういえば先月もお腹を痛がっていたかもしれない」
おい、それってもしかして。瑠香ちゃんを見ると同じ結論になっているようだ。
「シャル、いるんだろ。出て来てくれ」
天井の板が動いたかと思うとシャルが飛び降りて来た。やはりいたか、適当に言っても当たるもんだな。
「ユースケ殿、なぜわかったのだ? やはりシエル様のようにはいかないか」
「何してたんだ?」
「フローラ様からジイヤが暴走したら止めるように仰せつかっている。まあ早々に退出されたのでこの後の展開を報告するためにいたのだが」
「すまんがペンタ君を連れ出してくれ。ペンタ君、お姉さんが心配かもしれないが多分俺の持ってる薬で楽になるはずだから心配しなくていいぞ。シエラと一緒に菓子でも食べててくれ」
まあ年齢的に知っていてもいいかもしれないが今回はやめておこう。シャルに呼ばれて来たメイドさんがペンタ君を連れ出してくれた。扉が閉まるのを確認すると瑠香ちゃんが声をかけてくる。
「店長は出ないんですか?」
「そうしようかと思ったんだけど一つ試したいことがあってな」
カーテンの向こう側では美波が問診しているが結論はおなじだろう。向こうも終わったようで美波が出てくる。
「テトラさん、先生も出てた方がいいかしら?」
「ミナミ様の先輩なんですよね。でしたら私は構いません」
テトラさんも少し恥ずかしそうにしているが、気にしないように振る舞わないといけない。
「美波、結論を聞いてもいいか?」
「はい、おそらく生理痛です。少し症状は重いようですが」
「他には?」
「筋腫や内膜症も考えられますが検査などはできないので痛み止めで様子をみたいと思います」
「まあそんなところだな。改善がなければ受診してくださいが通常だが、この世界ではそれが当てはまらないしな。外科的な治療が必要なら残念だがお手上げだ」
さて、薬は痛み止めが手持ちにあるのでとりあえず飲んでもらうか。
目と舌の症状を診せてもらうと血虚と瘀血の傾向がありそうだ。当帰芍薬散か四物湯でもあればいいが持ってないしな。冠心二号方でも使ってみるか。ついでだし芍薬甘草湯も足しておくか。
待機していたメイドさんにカップとお湯を持って来てもらい顆粒を溶かしてかき混ぜる。漢方の顆粒製剤は便利だよな。
「テトラさん、とりあえず手持ちで用意できる薬を準備したので飲んでみて。痛みは楽になるはずだから」
漢方特有の匂いに若干戸惑っているようだがこればかりは仕方がない。犬だから匂いに敏感なのか? 慣れてくれば気にならないんだけどね。
「あの、本当に飲んでもよろしいのでしょうか? お気遣い頂いて恐縮なのですが、治療費をお支払いするのは難しいので」
「気にしなくて大丈夫よ。先生も極悪人じゃないから飲んだ後に請求されるようなことはないわよ」
美波、俺の扱いひどくないか?
「大丈夫ですよ、それに飲まないならそれは捨てるしかないので飲んでもらった方が助かります」
テトラさんもようやく納得したのか口をつける。においが気になるようだがそのまま一気に飲み干した。
「このような薬は初めてです。失礼ですが独特の香りから味も苦いのかと思いましたがとても飲みやすかったです」
「漢方薬って言うんだけど、体質に合っていると意外と飲みやすく感じるんだよ。飲みやすかったなら効果も出やすいんじゃないかな」
と言っても飲んだ途端に全快するなんてことはないから、どうなるかはこの後の経過を見ないといけないけどな。
テトラさんもいつもより酷い月経痛で心配だったのだろう。美波に相談して原因がわかったようで少し安心した顔になっている。
さて、無事にことも済んだしテトラさんには一つ協力をしてもらおうか。
み:先生、おかしいわ。
ゆ:何がだ?
み:私がテトラさんの問診をしていましたよね?
ゆ:そうだけど、何か問題でもあったのか?
み:なんで先生とペンタ君の会話で話が進行していくのかしら?
る:そうですね。私も美波さんの出番が増えるんじゃないかと思っていましたけど。
ゆ:俺らが薬を投薬するときに本人から話を聞くだろ。それと場合によっては家族からも話を聞くだろ?
み:そうね。たしかに本人が話さない重要な情報が隠れている時もあるわね。
ゆ:あとは医師に遠慮して診察の時に嘘つく人もいるだろ。
み:疑義照会の必要があるのに医師に迷惑かけるからやめてくれとか言われることもあるわね。
ゆ:医薬品の適正使用のために、色々な角度から情報収集する必要があるわけだ。
る:それなら納得です。なんか珍しく真面目な話ですね。
ゆ:美波とテトラさんが話しているのを邪魔しているわけでもないし、すぐに話が終わってしまうのを回避するためでもないぞ。
る:その一言がなければ薬剤師さんのお仕事の重要性が少しだけ伝わるのに残念です。
み:まあ今回は家族の話も重要って事で大目に見てあげるわ。
る:それに男の人にはわからないですもんね。
ゆ:自慢じゃないがわからない。体調が悪そうにしていれば心配だがな。
み:でも痛み止めだけかと思ったら、漢方も使うのね。
ゆ:意外と効果があるらしいぞ。ひどい人も続けていると徐々に体質改善して、痛み止めの使用回数が減ることもあるな。
る:そうなんですか? じゃあ今度美波さんに相談しますね。
み:先生じゃなくていいの?
る:店長はちょっと……
それではまた




