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リコール ~ re:call ~  作者: 鈴花 夢路
第十一章 カウントダウン
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古い日記

人形型貯金箱、昔からあったみたいです。

 満腹感が心地よいのは、母乳を飲み、ただただ眠ることの許されていた赤ん坊の頃を、

無意識に思い出しているせいらしい。

どこかの怪しいスピリチュアルカウンセラーがテレビで語っていた事をぼんやり思い出す。


『うにゃ・・・食事できるようになると眠くなるシステムなのかなぁ・・・?』

・・・真偽のほどは定かではないが、目の前でお腹を押さえて眠そうに床に転がった生霊を見て、

微笑ましく思える程の余裕が俺には生まれていた。


 俺の人生初の出来事の一つ、女の子に泣かれるという事件をやり過ごした後、

少し淀んだ部屋の空気を変えるのに、おでんはかなり良い仕事をしたようだ。


『それで、どういう経緯で神社から泥だらけの人形を掘り起こしたりしたの?』

衣装ケースにしまってあった毛布を引っ張り出して、朱莉に渡しながら俺は尋ねる。

『隣町の方にさ、古い神社があるでしょ?木が沢山生えてて、

井戸とかある薄暗い感じの。』

『え?待って、そもそも生霊が神社入って何ともないの?』

神聖な結界が張り巡らされていそうな神社をイメージして、思わず口を挟んでしまう。

『分かんない・・・神様は見えなかったから大丈夫だったのかなー。でもね、猫の妖怪?幽霊?は

居たんだよ!』


(・・・あぁ、もう何でもアリなのかな。)


『その猫が掘れって言った場所から出てきた人形が貯金箱だったから拾って来たってのか・・・?』

『そうだよ!声はニャーなのにね、頭の中に直接語りかけて来るんだよ!凄くない?』


(あぁ本当に何でもアリなんだな・・・。)


 広げた広告チラシにとりあえず置いてある、泥だらけの人形は、陶器のような質感で

兵隊の形をしている。底に堅く外れない様に栓がしてあり、中のお宝?は

完全に密封されているようだった。


『猫さんがね、大切な人が埋めたけど、自分の手(前脚)では開かないから、私に開けてほしい。

お金が入ってたらあげるけど、他の物がもし入ってたら、また神社まで見せにきてくれないかー?

だってー。』

『それで朝から大騒ぎしてたのかよ。』


 俺の小言に朱莉は少し反省の態度を示しつつも、わくわくする期待感に打ち勝てない様子で、

金槌を再び握ろうとしていた。

『うん・・・ごめんね。早く開けてお礼を見せたかったから。よし!やるぞぉ!』


『元の持ち主の知り合いからの依頼って事なら、割っても大丈夫かもな。あ、俺がやるから貸して。』

霊体とやらが金槌で親指を打ったとして、果たして怪我をするのだろうか?

良くわからないが、とりあえず危なっかしい持ち方で意気込む朱莉からは、

重そうな金槌を預からせてもらおう。


 コツコツ・・・ゴン!パリン。

呪いやら何やら不安に思いながら緊張していたが、驚くほどあっけなく貯金箱の人形は割れて中身が散らばった。


『これって・・・。』

 出てきたのは数枚の古い便箋と、ミサンガ状の厚みのある紐と小さな鈴だった。

『どう考えてもお金ではないよね・・・。』

期待が外れてあからさまに残念そうな朱莉は正座のまま俯いて呟いている。

『御礼のお金なんてもう良いから・・・。取り敢えず手紙返しに行った方が良いよな。

ちょっと支度するから待ってて。』


 夜勤は22時からなので、15時くらいまでに神社から戻れば十分に昼寝は出来そうだ。

そう思った俺はシャワーを浴びようと廊下の左側にある風呂場へ向かう。


『え!ちょっと待って!それって一緒に神社まで行ってくれるって事?』

横を通る時、急に立ち上がった朱莉は、俺の服の袖をつかみながら驚いた表情で尋ねる。


『え?普通にそういう意味だけど。』

カップルが腕を絡めて歩くときの様な体勢のままじっと朱莉に見つめられ、

俺はひどく混乱していた。

何も言えず、意図も解らないまま視線を逸らす。


『誠士くんって、優しい人だね。』

そっと手を放しながら、朱莉は言う。


『当たり前みたいに他人を助けて、御礼も要らないって言う。これから仕事があるのに私が持って来ちゃった手紙を返すの、手伝うのが普通みたいに思ってる・・・。

こんな優しい人に出会えるなんてさ、私、生霊にしてはめちゃくちゃラッキーじゃないかなっ♪』


 雷に打たれた様な衝撃だった。

思えば、このしょうもないこじらせた性格は、指名手配犯のような目つきの悪さをひたすら

バカにされ、人付き合いが苦手になってしまったのが始まりだ。

誰かに好意的な態度で接してもらった記憶はほとんどない。

そんな俺が、出会って2日目の女の子に優しいなどと評価されるとは・・・。


『ラッキーなら良かったよ・・・。』

圧倒されて、訳の分からない返事になってしまう。

朱莉はご機嫌な鼻歌を織り交ぜながら、お風呂ごゆっくりー!と言って笑った。

朝シャンは気持ちいいですよね!

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