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リコール ~ re:call ~  作者: 鈴花 夢路
第七章 再会
42/89

サマナー

新章です

 異世界を冒険した様な群馬の旅が終わり、世田谷のボロアパートには平和な日常が戻っていた。

母親の様な存在を無くした俺たちには、得るものも沢山あったはずなのだが・・・朱莉あかりは、

暇な昼間に遊びに行く相手を失ったことが相当ショックだったのか、

パソコンでバラエティー番組の動画を眺めながら、何もせず一日を過ごしていた。

俺はというと、樫井さんの両親と芳子さんの家族から貰った、死ぬほど大量の食品をどうにか消費しようと考えを巡らせたり、バイト先と病院と警察署を行ったり来たりして忙しく過ごすばかりで、朱莉の気持ちにまで手が回らなくなっていた。


 とある日の夕食後、片付けをしながら朱莉の方を見ると、何やらパソコンの中の

芸人とノリ突っ込みを始めた所だった。『いやーそれアカンわー!ははっ・・・』

変な関西弁が寒々しい上に、完全にスベっている。

そして、たった今食事が終わったばかりなのに四角いスチール缶の蓋を開けると、

海老煎餅を漁り始めた。

見た目は生霊なので変わる事はないが、行動は完全にババ・・・中年である。


(いや、お前がアカンやつだわ・・・。)


 俺は携帯の電話帳をスクロールし、救世主に助けを求めるメールをした。



――― 4月24日 土曜日 雨の降りそうな薄曇りの朝


何度か長い坂道を下り、一軒家が建ち並ぶ閑静な住宅街へやって来ても、背中にしがみついている朱莉のテンションは上がらない。

「・・・誠士くんのお友達のお家行っても、私はお邪魔なだけじゃないかなぁ。」

「そんな事気にしないで良いよ。ほら、もう着いたし!」

俺は大きな家の敷地内の駐車スペースに自転車を停め、玄関のチャイムを鳴らす。

朱莉は緊張した様子で、俺の後についてきた。


「いらっしゃーい!わぁー朱莉ちゃん!久しぶりだねぇー!」

玄関から飛び出してきたのは、家の中なのにピンク色のフォーマルドレスに身を包んだ、ふわふわの茶髪が揺れるハーフのような美女。

朱莉の中年化を阻止する救世主・・・もとい俺が朱莉の落ち込み様を相談していた、生還者リターナーの杏花さんだ。

杏花さんは近所の目など一度も気にした事はないのか、堂々と誰も居ない筈の空中に向かって、あれこれ話し掛けている。

「・・・と、とりあえずお邪魔して良いですかね?」

俺が促すと、杏花さんは『ごめんごめん!どーぞどーぞ!』と家の中へ案内してくれた。


廊下に並んだたくさんの占い道具や、広いリビングやキッチンを『これがカリスマ占い師の豪邸かぁ!』と歓声を上げながら見学しまくっていた朱莉は・・・

すっかり元気になった様子で、杏花さんと楽しそうにおしゃべりしている。

そのうちに、興味津々で見回していた壁際の天井まで届きそうな大きな本棚から、『恋愛の悩みズバッと解決☆星占い』という本を引っ張り出した。

そしてフカフカのソファーに座ると、夢中で怪しげなその本を読みふけり始める。

杏花さんはカモミールの香りがする紅茶をれて、ダイニングテーブルに並べた。

朱莉の分はソファー脇のサイドテーブルへ置く。

「松宮さん、お怪我は大丈夫ですか?・・・樫井さんに聞いたときは心臓止まるかと思いましたよぉー!」


「俺は大丈夫ですよ。朱莉は御影が居なくなって、かなり落ち込んでますけど。

これからも、たまに話相手になってやってくれませんか?」

俺が紅茶を飲みながらそうお願いすると、テーブルの向かいの杏花さんは『もちろんです!家も近いし沢山遊びましょう!』と言ってニッコリ笑った。


「そういえば、樫井さんとも会ったんですか?元気そうでした?

俺が迷惑かけたせいで、色々と仕事増やしちゃったみたいで・・・。」


「先週話したときは・・・休暇中に事件に首を突っ込んだからーとかなんとかで書類整理に追われてましたけど、水曜に会った時は・・・もう香苗さんの事件の会議に入るから忙しくなりそうだーとか言ってましたね!

本当は松宮さんの聴取にも関わりたかったみたいですけど、課が違うとかでなかなか会えなくて心配だーってボヤいてましたよー!」

杏花さんは何かを思い出す様に、斜め上を見つめてそう話した。


「香苗さんの事でも忙しいのに心配かけちゃったんですね・・・。

それは悪いことしましたね・・・。しばらく遊ぶ余裕もなさそうだなぁ。」

そんな俺の呟きに、『そうですね・・・また今度みんなで飲みたいですよね!』と答えた杏花さんは、

少し嬉しそうな表情だった。


 帰ってきて2週間もたってないが、杏花さんは何度も樫井さんと話す機会があったらしい。

付き合ってるんじゃないかな?と疑問に思ったが、どういう聞き方なら失礼じゃないのか、俺には良く分からないので・・・そっとしておく事にする。

考えを読まれない様に、『紅茶美味しいですねー』と目を見ないで相槌を打つ。


「話は変わるんですけど・・・松宮さん、そちらのショルダーバッグの中を・・・

見せてもらっていいですか?」

「え?あ、あぁ・・・お土産渡すの遅くなっちゃいましたね!いま出します。」

鞄に入れてた群馬のお土産(樫井家がくれた食べきれない食品類)の事を思い出し、俺はそう答えて鞄を開けようとした。

「い、いえ・・・違います!お土産の催促なんかじゃないですよー!

なんか、神様の気配がするんですけど・・・神社から石とか持って帰ったりしちゃいました??」


「・・・あります。事件の時助けてくれた神様たちが、石に変わってしまったので・・・お守りとして持ってます。」

俺はそう答えて、鞄から虹色の石を取り出してテーブルに乗せる。

心配そうな顔の朱莉も、ソファーに本を置いて近寄ってきた。


「掛巻もかしこき稲荷大神の大前に・・・かしこみかしこみもうす」

杏花さんはまぶたを閉じ、長い祝詞のりとささやいた。


「うっわー・・・せっかく隠れてたのに誠士の周りは本物ばっかりね!ウカ!」

「あ、アメ・・・この人すごいんだのぉー・・・。ぼ、僕こわいのぉ・・・。」

あまりの驚きで椅子から落ちそうになるのを俺は必死で堪える。

テーブルの上には、真っ白い装束にプラチナの髪色の美しい子供達・・・本来の姿は凶暴な白狐の姉弟、アメとウカが姿を現していた。


「松宮さん・・・勇者だとは思っていましたが・・・。まさかの召喚士サマナー!!

すごい!さすがです!羨ましいーーー!!」


(ちょっと何言ってるか分かりませんけど・・・)


杏花さんは色々な専門用語をブツブツ語り、鼻血を出す勢いで興奮している。

朱莉は平然と『わー久しぶりー!』と言って笑顔で手を振っていた。


「えっ・・・君たちは、御影を浄化するのに力を使い果たして消滅したんじゃなかったの?」


「何?そのご都合主義な美談ー。いかにも人間って感じね!ウカ!」

アメは大混乱している俺の質問を、鼻で笑って一蹴した。


「なるほどー!ツン姉に僕っ娘の姉妹ですか?・・・いや!まさかの男の娘!?

これはポイント高い!!」

「アメー!僕怖いのぉー・・・だから山に居ようって言ったのぉー!

何で誠士さんが気になるからって、勝手について来ちゃったのぉー?」

ウカは杏花さんからなるべく離れようと、俺の後に隠れた。

長い髪の赤いメッシュ部分を握り締めて、ブルブル震えている。

「べっ、別に誠士が気になるなんて言ってないわよ!

朱莉が元に戻れるまでにキズ物にならないか心配だったから・・・。」

アメは朱莉の隣に舞い降りて、なにやらモジモジしていた。

朱莉は『えー!なにそれ!?』と言い、顔を真っ赤にして動揺している様だ。


「な、なんですか!その可愛らしい語尾はぁー!しかも姉はツンデレでしたか!

ブフッ・・・さ、最高かよ!」

――ピンポーン・・・

杏花さんが鼻血を噴き出したのと、来客を知らせるチャイムがなったのは・・・

ほぼ同時だった。

ホラーな顔でそのまま出て行こうとする杏花さんを、玄関ホールで止めてハンカチを渡した俺は、家主の代わりに扉を開けた。


そこに立っていた背の高いスーツの男性は、俺の顔と鼻血まみれの杏花さんの顔を見比べて驚愕の表情を浮かべる。


「・・・樫井さん。お久しぶりです。」


「・・・松宮君。元気になりすぎちゃったのかな・・・?」


また面倒な説明をしなくては、せっかく培った友情は泡の様に消えそうな状況だ。

俺はとりあえず訪問客を中に招き、杏花さんに『早く鼻血止めて全部説明して下さいよ!』と叫ぶように懇願した。

ドタバタ編からスタート

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