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リコール ~ re:call ~  作者: 鈴花 夢路
第六章 出会いと別れ
37/89

アメとウカ

冒険編スタート

 言葉というのはちょっとしたニュアンスひとつで、全く違う受け取られ方に

なってしまうものだ。

会話が得意でない者は、そのセンスに自信が持てない事を、理由の一つに挙げることも多い。

怖いくらいテンションの高い老人イタコに、生霊と暮らしている経緯をきちんと説明しきれる自信が持てなかった俺は、樫井さんに代役をお願いした。


「ばぁちゃんー、信じてくんない?朱莉たちゃーのうー危せぐねーのよ!

えーかげん、はぁーけえるんべぇー!」


「わーがったべよぉ・・・」

樫井さんが何とか訝しがる芳子さんを説得してくれ、来た道をみんなでゆっくりと車まで戻って行く。

「松宮君、ちょっとばあちゃん達と車乗って待ってて!」

林の出口付近で急に樫井さんはきびすを返し、携帯をポケットから出しながら走ってまた森へ入る。

いつになく真剣な様子だったので、『仕事の電話かもねー』と朱莉と話しながら車に戻った。


車で帰宅する道すがらも芳子さんは御影と朱莉に質問しまくり、事情を知ると『そりゃーえれぇーおやげねぇこってべなぁ』と言って同情する様な素振りを見せる。

そうして無事にお隣の節子さん宅へと、芳子さんは送り届けられていった。

俺と朱莉と御影は、樫井さんに案内され実家の中へ通される。


「お帰りー良太郎!ご苦労さんでしたー!今お茶出すから座ってなぁー。」

樫井さんの綺麗なお母さんは、小走りでおもてなしの準備をしてくれている。

20畳程もある広い和室には、片側に6~8人は座れそうな長い座卓が置かれており、

俺はどこに座ったら良いか分からずに突っ立っていた。

樫井さんは荷物を部屋の隅に並べながら、俺に『そこ座ってー』と促す。


「わりぃな母ちゃん!俺この後、ちょっくら藤岡警察署行ってくるべ!

松宮君た・・・松宮君ね、ネジ屋で働いてた人に会いたいんだと!

時間あったら案内してやってー!」

「ごめんねー松宮君!夕飯までには帰ってくっから、気ー使わないでゆっくりしててねー!」

樫井さんはそう言うと、大きなキャリーケースから急いでスーツを取り出した。

すぐにその場で着替えようとしたが、朱莉の存在を急に思い出したのか、スーツを持ったまま部屋の外へ出ていく。


「ごめんねー松宮君。なんかじっとしてない子でーー!

・・・おとーさんも芳子さん家で長話してまーだ戻らんのよ。」

お母さんはそう言って3つ用意したお茶を座卓に置き、俺の向かい側へ座る。

お煎餅も出されたが、イタコばあちゃん騒動で昼食を食べ損ねた朱莉が、じーっと見てくるので手を出さずにお茶だけ頂く。

「樫井さんは優秀な刑事さんですからねー!仕事熱心で憧れます。

今日も一緒に連れて来てくれて・・・本当に助かってます。明日はご家族で桜山へ行かれるんですよね?予定あるのに泊まらせて頂けるなんて。何かすみません!」


「気にしなくていいのよぉーー!・・・毎年の恒例行事なのー。」

「松宮君は東京生まれですよね?なんで冴木スプリングにお知り合いが・・・?」

お母さんはチラッと部屋奥の仏壇を見て、すぐに話題を俺に振った。

玄関の方では『いってきまーす!』と叫ぶ声と、車のエンジン音が聞こえる。


「祖父の古い知り合いの方にお会いしたくて・・・。富田 さちさんと言います。

未婚で群馬へ来たみたいなので、現在の姓は分からないんですけど。

昔の冴木精巧機品の頃に働きに来たようです。星野さんという地主さんの所に住み込みで工場に勤務していた様なのですが・・・。」

「えーー?星野さん!?」

俺が話し終えるのを待たずに、樫井さんの母は女子高生の悲鳴の様な高音ソプラノで、

驚嘆の叫びを上げた。

『!?』

朱莉の隣で脚を伸ばしていた御影が、フワフワの毛並みを逆立てて飛び起きる。

薄緑の目を細め、母親の口の動きを見逃すまいと凝視していた。

朱莉も不安そうな顔で話を見守りながら、御影の背を撫でる。


「こーんな偶然あるのかしらねー?さっき松宮君たちが行ってた浅葱山・・・

あそこが星野さんの土地よ?工場は山の反対側にあるの。コンコンさんをずっと管理していたお婆ちゃんね、お名前が確か【星野 幸】さんだったわー!」


「わぁー凄い!ミカゲちゃん!幸さん見つかったね!」

(・・・誠士!)

(あぁ・・・分かってる。こんな偶然はありえない!天文学的な確率だ。)


「お母さん!すみません!星野幸さんと連絡が取れる方知りませんか・・・?」


「幸さんねー・・・あっ!2年前位から老人ホーム入ってる気がする!?

でもごめんなさいねー・・・施設の名前までは覚えてないの。」


「そうですか・・・でも、この情報だけでも大変助かります。

探しやすくなりました!本当にありがとうございました。」

俺はお母さんに感謝を告げると、これからどうすべきか脳内で考えを巡らせる。


(誠士!・・・幸は日記を付ける癖がある。山の管理小屋などに痕跡を残してるやもしれん・・・。)

慌てた様子の御影のテレパシーが割込み、キーーンと耳鳴りがした。


「・・・浅葱山って今は誰が管理しているんですか?山小屋とかってあります?」


「おばあちゃんが入所する前に噂で聞いただけの話だけど・・・『自然保護の会(NPO法人)』へ

提供してるって言ってたわー!山小屋は祠の奥にあるわよー?」


(それだ!現管理者なら山小屋に団体の連絡先がきっとある!)


「ねーー!どうしたの?幸さんの居場所分からなくなっちゃったの??」

蚊帳の外の状態になっている朱莉は、あごに拳を当てて『うーん?うーん?』と

唸るように必死に考えていた。


「ありがとうございます。ちょっと山小屋まで行ってみます!

歩いても15分位だったので・・・。」


「あらそうー?あっ!じゃあーおやつの【おいなりさん】持っていきなー!

2個くらい余らして、ついでにお供えしてきてくれる?」

お母さんはそう言うと、部屋の外へ走っていった。


「おいなりさんーーー!?」

朱莉の目の輝きが尋常ではない。

ニッコリ笑顔を向けられた俺は、自分の取り分がかなり少なくなるのを覚悟した。


 キャベツ畑の畦道あぜみちを急ぎ足で山へ向かう。

曇り空が割れ、明るい日差しが戻ってくる。

遠くに見える山並みは桜色と新緑が入り乱れ、絵葉書にありそうな絶景だった。

車も人も殆ど通らないのを良いことに、朱莉はフワフワ浮きながらフライングして

1人でいなり寿司を食べている。

少し苦しそうに頬張る横顔は見ようによっては・・・いや、全くセクシーさは感じられない。

しかし、なぜかずっと見ていたくなるものだった。



 うっそうとした森を抜け、祠のある広場へと近づく。

少し開けた土地は日当たりが良くなってきて、小さな野草の花も背を伸ばす様に、

懸命に咲いている。

ここを過ぎた先にあるらしい山小屋を目指し、俺達は足早に歩を進めた。

祠の前は先ほどと何も変わらない光景・・・の筈だった。


「おーー!やっぱり戻って来たのー!アメ!」

「だーから言ったでしょー!?ウカ。アイツらは只の人間じゃないってー!」

――—真っ白い子供が2人いる。

人間で無いことは一目瞭然だ。

彼等は何か早口で話し合いながら、朱莉と同じ様に地面から1.5m位の高さに浮かんでいたのだから。


1人は小さな祠の屋根に、力学を全く無視した体勢で斜めに腰掛け、もう1人はその目の前で膝を抱えて浮かんでいる。

そして俺達の方を2人同時に勢いよく振り向く。

彼らは、驚いて後退る2人と一匹を完全に馬鹿にしたような笑顔を見せると、

『話よりまずは、お供え物するのが礼儀でしょー?』と声を揃えた。


『・・・。』

完全にキャパオーバーになった脳の回線が焼き切れた。

俺はそれを必死で繋ぎ直すために沈黙する。

朱莉と御影は2人で顔を見合わせて唖然としていた。


少し傾いた太陽の光が木漏れ日となって祠を照らす。

神秘的な風景のもりの中には、『クスクス・・・キャハハ!』と笑い合う、

子供達の声が響いていた。

いなりずし好き

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