第2章【Levitation Kingdom~流星の愛を君に~】その5
いつだって
飛んで行ける
流星の愛を君に──
足を地に着け歩いていては、見上げても見上げても発見できない。空の上に、雲の上に。この、雲海に浮かぶ黄金城は。
月の光を浴びて金色に輝く本物の巨大な城。この世の理を覆し、翼も無しで浮遊を続ける黄金の塊。現実と神秘の融合体。
「セラフィーヌ、投下するゴーレムの数はどうなっている?」
しかもこれを造り上げたのは、たった一人の存在を消された魔導師。不可能を可能にした森羅万象。『月の魔導師、デスベル=ウィンロード』。
バルコニーで手すりに肘を掛けて目を瞑り、夜風に長い白髪をなびかせる。年齢で言えばまだ29になったばかりだが、妹の死を契機に髪のメラニン色素は全て抜け切ってしまった。
──ギガントゴーレムが1、デスゴーレムが2、ブロックゴーレムが10、そして使い捨てのストーンゴーレムが653。ぜ~んぶ待機状態だぜ。
その魔導師の肩で羽を休めるのは一匹の黒蝶。激しい気流の変化にも飛ばされる事無く、テレパスで直接脳内に語り掛ける。
蝶羽族の幼き王女、『セラフィーヌ=シャフター』。『ピピット=シャフター』と言うもう一つの魂を持ち、片方の魂が本体に入っている時はこうして片方は蝶に魂を移す。
「そんなものか……よし、後は決行日まで好きにしてろ。俺は寝る」
──お、おいデスベル!? 寝る前にスパーリングの相手しろって!! お前に技を教えて貰いたくて着いて来たんだぞっ!!
今は本体でデスベルに言われた通り『ゴーレムの種』を作っているピピットも、今は蝶でデスベルの肩に休まるセラフィーヌも、どちらも目的が有って力を貸している。
セラフィーヌの場合は自身のパワーアップ。様々な魔法や技を教えて貰い強くなるのが目的……なのだが、ここしばらくは新たな技術を習得しておらず、そして身体も動かせずにイライラを募らせていた。
「ああ、起きたら満足するまで付き合ってやるさ」
しかし魔導師にしてみれば、別に力は貸してくれと頼んだ覚えはない。勝手に着いて来たから、それならと仕事を与えたまで。
元々は一人でやるつもりだったし、一人で充分だったが、ピピットには恩が有るのも確かで……せめてもの礼に、『デスベルの行く末を見たい』と言う目的を達成させている途中なだけ。
──約束だぞデスベル?
約束だぞデスベル? を最後にテレパスが消え、肩から蝶の気配も消える。
後は宣言通り、意識を沈めて眠りに付く。立ったまま、手すりに寄り掛かったまま、夜風に吹かれてこれまでの道程を甦らせた。
「ユニ……お前の無念、お兄ちゃんが晴らしてやるからな」