噂の出処
―コンコン
「薬草師長!アマンダです」
「入れ」
「失礼致します」
「おー、どうした?」
ダレン様への謝罪の取り付けを薬草師長に頼む決意をしたのは昨日、なのになかなか言い出せず、昼休憩を過ぎてから意を決して、薬草師長室の扉を開いた
「折り入ってご相談が」
「相談?まぁかけろ」
薬草師長は来客用のソファーに座らせるように促し、薬草師長は向かいに座った
「はい、そのーあのですね、えーっと」
「なんだ!早く言え」
「実は、その、ダレン様についてなのですが」
「ダレンとのことか?」
「はい。大変厚かましいのは分かっています!ですが、ダレン様との間に立って頂きたいのですが・・・」
「間に立つ? ああ!あの話か?」
「まさか!もうお聞きに?」
「モンティス家から相談があってな、その時に聞いた」
なんですとー!?そんな丁度いいタイミングでダレン様のご実家に!
ツいているんだかツいてないんだか
「薬草師長、お願いできますか?」
「アマンダがいいと、言うならば問題ない、お前は俺の大切な部下の一人だ、そんな頭を下げなくていい」
「薬草師長ぉ~!!」
「だが、いいのか?」
「もちろんです!!!ご迷惑お掛けします」
薬草師長に間に立ってもらうなんて、卑怯だけど背に腹は変えられない
この際、藁だろうが紙縒りだろうが縋ってみせる!!
「なら今日ダレンに話をしておく」
「はい!!ありがとうございます!薬草師長!!」
「そんな嬉しいか?」
「当然です!!」
薬草師長はわっはっはーと笑ったが、私は断られたらどうしようかとハラハラしていたので、いい返事を貰えて舞い上がった
その後、通常の業務をこなし、そろそろ定時に差し掛かった頃にサラが訪ねてきた
「ごめんね!もう就業近くなのに、どうしても話があって」
「平気よ、サラのほうが忙しいのに、わざわざありがとう」
私とサラは詰所から出て、物陰に入った
サラは王妃様付きの侍女なので物凄く忙しい身なのだ
「昨日、違う噂を流すって話したじゃない、あれなんだけど」
「どうかした?そんなすぐには広まらないでしょ」
「違うのよ、後宮から出る噂っていうのはだいたい半日もすれば王宮全体に流れるくらい早いはずなのよ」
「さすが、女の園ね」
「でもおかしいの、広めようとしてもピタリと何処かで止まってしまうの」
「え?なぜ 何ていう噂を流そうとしたの?」
「単純よ!アマンダが、ダレン様の初恋の人によく似ていて、追いかけたけどやっぱり人違いでしたー!ってやつ」
「まぁ、悪くないわね」
「でしょ?少なからずダレン様絡みのストーリーがないと広がらないから、わざわざ初恋の人を絡めたのよー」
「なぜ広まらないのかしら」
「そうなのよ!王族の方々は手をうったりするけど、アマンダに手を加えようとするなんて考えられないわ」
「んー」
「それでね、ここからが本題!」
サラはちょいちょいと手招きした
私はゴクリと喉を鳴らし耳を近づけた
「不名誉な噂があったでしょ、最初の」
「ええ身篭ったとか」
「あの噂の出処が分かったの」
「どこ!!!」
「シーーー!声が大きい!」
すかさず手を口に当てて、小さくごめんと言うとサラは周りを確認した
「騎士団だったの」
「え?」
騎士団?なぜ?男の園から?
「本当に?騎士団からなの?」
「ええ、ねーアマンダ・・・」
「なっなに?」
「あなた、何か作戦に巻き込まれてない?」
作戦?全く思い当たらないけど、騎士団から不名誉な噂をおいそれと流すなんて、有り得ないし、もしかしたら本当に巻き込まれているのだろうか
「分からない・・・」
「アマンダ、心配よ。くれぐれも気をつけて」
「うん、サラ。ありがとう」
「私そろそろ行かないと」
「ありがとう、サラ迷惑かけてごめんなさい」
「いいのよ、話せてよかったわ、またねアマンダ」
「ええ、またねサラ」
私は重い足取りで、詰所に戻ると、マシューが涙目でこちらを見てきた
嫌な予感がした
「ごめんアマンダ~水撒きの当番だった~」
「もう就業になるのに・・・すぐ取り掛かりましょ」
「札貰ったの忘れてて~」
「私もよくやるわ、お互い様ね」
おどけてみせると、マシューは瞳をより一層ウルウルさせた
マシューから札の片割れを受け取り、二人で薬草畑に向かった