できれば『無関係者』を希望したかったんだが!
初投稿です。
暇つぶしにでもなれば幸いです。
「……は?」
その日、重大な王命を携えて、半年振りに来た学院で、俺は『自分の目と耳を疑う』ということを実体験とすることとなった。
「これ…現実、だよ…な…?」
今現在、目の前で行われてる事柄に、頬を引き攣らせつつ、背後に立っていた俺の幼なじみ兼側近候補を振り返れば、ヤツはひっじょーに皮肉めいた笑みを浮かべて、肩を竦めて言い放つ。
「残念ながら、正真正銘の『現実』ですよ、殿下」
「………だよなぁ……」
はぁ、と特大の溜息を落とすついでに、肩からも大きく力を抜いた。
いや、何となく悪い予感はしてたよ?
今は授業の時間のはずなんだけど、一応と思って、アイツの所在地を確かめてみたら「講堂だ」って言われたからさ。
何でそんなトコに、って聞いたら、アイツが全校生徒を緊急招集しやがったって言うし。
もう、背中に嫌な汗が流れても仕方ない感じじゃね?
でもさ、いくら尊敬なんか欠片もできそうもないアホ兄貴でも、一応分別があるよなー。
だって、仮にもこの国の王太子だもんなー。
―――― そんな風に考えてた過去の俺に、「超絶甘い!」と、声を大にして言いたい!
お前のアホ兄貴は、予想より遥かに突き抜けた大馬鹿野郎だぞ!と。
だってアイツ、俺がたどり着いた時、講堂の舞台上から、妙に馴れ馴れしそうな女を隣に侍らせてる状態で、舞台下にいる自分の婚約者である公爵令嬢に向かって、こう言い放ってやがったんだ。
『私は、貴様との婚約を破棄することを、ここに宣言する!』
………アレが自分の双子の兄であることに、絶望した瞬間だったよね。
出来れば、人目も気にせず、その場に崩れ落ちたかったぐらいだよ!
何でアイツ、学院内で公開婚約破棄なんてしてやがんの。
しかもその理由が、隣の女を虐めたあげく殺そうとしたから?
そんでもって、その行動に品位を感じられないから王妃にはふさわしくない?
証拠はあるのかと問われたのに対して、その性格悪そうな女の、涙付きの証言あるのだからそれで十分だろう?
ナニソレふざけてんの?
100万歩くらい譲って、婚約破棄は良しとしよう。
でも、それを衆人環視でやる必要が何処にあんの?
それに証拠も何も出せねぇ ―― 多分、調査なんて一切してないんだろうなぁ ―― のに、公爵令嬢を断罪とか、マジありえねーだろ。
「アイツ、本っ気で頭大丈夫か…?」
ボソリ、と零した言葉に、幼馴染は、何を今更、と器用に片方の眉だけを跳ね上げる。
その言動は、俺の心を容赦なく抉ってくれた。
「うわぁ……アレが俺の片割れなんて、信じたくねー。恥ずか死ねる……」
片手で自分の顔を隠しながら、ヤダヤダ、と頑是無い子供のように、俺は首を左右する。
「昔から、色々な意味で残念な所がある方でしたが、なんて言うか、一段と下方修正されているご様子ですねぇ。いやぁ、愉快愉快」
「いや、笑うトコじゃねーからなソレ」
「オマケに、側近達も随分と使えないシロモノになってしまっているご様子で。…深刻ですね?」
さらっと、不敬罪にあたるだろうことを述べる幼なじみにツッコむ ―――― え、否定はしないのか、って? だって否定できる要素がないしな! ―――― が、華麗にスルースキルを発動してくれやがった。
ま、コイツのこんな態度はいつものことだから、俺もいちいちそこを指摘したりしないけどさ。
それより、続けられた言葉のほうが重要だし。
そう、この笑えない三文芝居の役者は、兄貴とその浮気相手と、婚約破棄を宣言された公爵令嬢だけではなかった。
アホ兄貴と女の背後には、兄貴の側近候補3人がいて、令嬢を威嚇するかのように睨みつけているのだ。
……あ、睨むだけじゃ飽き足らず、子供みたいな言いがかりで責め立て始めやがったな。
兄貴を止める素振りを一切見せてなかったら、そうだろうなぁとは思っていたが、やはり3人も残念っぷりが天元突破しているようだ。
「…なぁ、アイツら全員、頭ん中、脳みその代わりに、ゼリーかなんかを詰めなおしたんじゃねーの? もしくは、頭を振ったらカラコロと音がするぐらいに脳みそが退化してるとか」
「ああ、そうかもしれませんねぇ」
半ば本気で呟いた言葉に、同じくらい本気っぽい声音で同意を返した男は、壇上にいる連中を冷たい目で睥睨した。
「……宰相の次男に騎士団長の長男、筆頭魔導士の所の秘蔵っ子。そして、貴方の兄君ですか。…よくもまぁ、権力者の関係者ばっかりをこうも誑しこんだものですね。しかも、見事に見目麗しい方々ばかり、ときている。純朴そうな顔をして、なかなか強かなお嬢さんのようだ。もしあのまま、この学院に残っていたら、私達もあの舞台に上っていたのかもしれませんねぇ」
あはは、と愉快そうな笑い声を上げてはいても、変わらず冷めた瞳の幼なじみの顔は、「見目麗しい」と称した ―――― ま、皮肉も若干入ってるだろうが ―――― 壇上にいるヤツらと十二分に張れるほどに整っており、当然の如く、権力者の関係者だったりする。
そして、『殿下』と呼ばれ、現在進行形で、絶賛縁切りをしたくて仕方がない双子の兄を持つ俺の容姿も、まあ言うに及ばずってものだ。
それを鑑みれば、俺達も、あの脳内で大きな花畑を咲き誇らしてるらしいお嬢ちゃんのターゲットに成り得た、と言うのはあながち間違ってないように思える。
……考えて、身震いした。
「うえー、ナニソレ。考えたくもねーんだけど。あんなのの取り巻きとか、ないわマジで」
「ですよね。あんな、廉価版の娼婦みたいな小娘に惑わされるなんて、恥にしかなりませんしねぇ」
その『恥にしかならない』ことを、現在やらかしてるヤツらがいるよなー。
あんな目立つ場所で、これ以上はないドヤ顔でさー。
立派な黒歴史を建設中すぎて、見てるこっちが穴掘って入りたいくらいだよ。
もしかして、自分が『アレ』だったかもしれない、とか ―――――― …うん、絶対無理!
本っ気で、恥ずか死ねるッ!
「さ、殿下。そろそろ王命を果たしにいきましょう」
仮定の未来に、もう一度身を震わせれば、冷徹な声が俺を促す。
それを受けて、俺はある意味で惨劇になってる光景を視界に入れ、そして、 こんな状況でも、凛と伸ばされた気高い後姿を見つめ ―――― 深く頷いた。
「……そうだな。早いところ、こんな茶番劇を終わらせて、彼女を助けてあげないとな」
「はい」
肯定の言葉に背中を押され、俺は騒ぎの渦中に向かって、一歩踏み出した。
この馬鹿げたお芝居の幕を引くために ――――― 。
Fin
希望はあくまで希望。
主人公の身分的にも立ち位置的にも、タイトルは無理難題だと思われる(笑)
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!