ブリーフィングと少女の願い
結局、あれは夢だったのかもしれない。
誰にも相談せず、自分の中にだけ留めておいた。
お父様は、最近になって忙しそうだった。
数年前、政治の世界で失敗してから、少しだけ焦った感じがあったが、最近は焦り方が特に酷かった。
お父様は、外出が無い日の朝食だけは、実家に居る全員で取っていたが、それすら上の空で難しそうな顔をしている。
「どうか、したのですか?」
「ん……、なんでもない」
気晴らしに書斎に行くと、あの少年が居たと思しき場所だけ、埃が少し払われていた。
やっぱり、誰か居たのだろうとは確信を持ったが、それが誰かに告げ口する気にはなれなかった。
後々、これが大きな問題になったとしても、もうすぐ嫁ぐ私には関係ないと、どこか醒めてしまった私が居た。
「本当は、結婚なんてしたくない」
貴族の女性は、政略結婚の道具である。
少なくとも、低位の貴族以外では、それが当たり前の認識となっている。
稀に例外はいれど家の為にと、誰もが折り合いを着けている。
いっそ、この現実を壊してくれればいいのにと、そう、心の中で呟いてしまった。
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クーデターを企む勢力は、合計3つ。
その内の一つを、私の所属する第二特殊作戦室が担当することになっている。
今回はレイの他に、3名の第二特殊作戦室のメンバーが加わった作戦会議だった。
「エミリー姉さん、オレはこっち担当でいいんですね?」
「ええ、お願い」
「グレイ、テトラの二人は、このふたつの貴族、その当主を殺して」
「オーケー」
「承知した」
「レイは、先日の貴族、その当主」
「了解」
『エミリー姉さん』と呼ぶのは、19歳少年のミライ。
歳ではミライの方が上と聞いているが、本人は「その方がしっくり来る」と、ずっとこの呼び方を貫いてくる。
対するグレイは23歳の青年で屈強な体格をしており、隣に居るテトラは13歳の少女、背は幼児のように小さかったりする。
レイが会うのは、全員、これが初めてだと思う。
「凄惨に、見せしめに、出来る限り衆目が有る所でやりなさい。それが、皇子様からのご注文らしい」
「分かった」
13歳のテトラが無邪気に笑いながら、了承の意を伝えてくる。
そして、全員が同じような表情をしていた。
「不思議そうに、どうしたの?レイだって、口元が笑っているじゃない」
「え?」
そこで私は、パチンと、手を叩いた。
全員の視線は、私の両手に向けられた。
「全員、任務は承知したね。では、日が落ちる前には決行して。以上、解散!」
今は日が昇る前、早朝の出来事だった。
そこで、私達はクーデター阻止の為に、何人もの人間を手に掛ける任務に出た。