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桜花乱舞

「フゲラプ!」

 珍妙な声とともに、手が離れた。


 動けない私の目には、驚愕の表情のリベリー侯爵しかみえない。

 動けないのも恐怖だが、瞬きすらできないのが地味に辛い。

 目が乾いてきた。


「私の妹に手を出さないでいただきたいです」


 隣から、お姉様の声が聞こえる。


「貴様! 何故ノアプテの魔眼を受けて動ける!?」


 侯爵が叫んだ。


「魔眼の対策など、いくらでもありますけど、予め魔力で防壁を貼るのが一番簡単ですわね」


 言ったお姉様の顔が目の前に現れた。


「解くのも簡単」


 お姉様の顔が近付いて……

 唇に何かが触れた。



 え?



 何か柔らかいモノが口の中に入ってくる。

 ソレは口の中で動いて……て、これもしかしてお姉様の舌!?

 今、私お姉様とキ……キ…


 混乱している私を無視して口の中を舐めまわされる。

 私は力が抜けて椅子からずり落ち、床に座り込んだ。

 お姉様の唇が離れる。

 あ……もっと……じゃなくて!


「お、お姉様! い、いきなりななななにをををを!!!」

「あら、キスで呪いを解くのは常識でしょう?」

「キ、キス……! わ、私、はじめてだったんですよ!?」

「あら、うれしい。ごちそうさま」


 嬉しそうに微笑むお姉様。

 そりゃぁ、私だって嫌じゃないけど、もっと雰囲気とか時と場所を選んでほしい。

 それに、いきなり舌を入れるとか……




 ……時と場所?




「たしかに、魔眼の呪い以上の精神的衝撃を受ければ、呪いは解ける」


 倒れていたノアプテ先生……ノアプテが起き上がる。


「あら、種明かしなんて無粋」


 お姉様が私を守りつつ、2人から距離をとる。


「接吻ひとつで解けるような呪いではない! 貴様、どんな技を使った!?」

「それh」「やーーーーーーめーーーーーーてーーーーーー」


 詳しく言われたら死ねる。


「お前たち、来い!」


 ノアプテの呼びかけに、メイドや執事が駆けつける。

 壁を突き破って。



 ダメだ。

 私は魔術の成績は下。剣術も並。

 お姉様は魔術も剣術も素晴らしい成績だけれど、壁を突き破って登場するような相手……

 しかも10人以上に勝てるわけがない。

 ついでに、吸血鬼まで。

 私たちは武器も持っていないのに。


 勝てるわけがない。


「大丈夫」


 お姉様が、震える私の頭を左手で撫でてくれる。

 右手は前に突き出す。


「来たれ、桜花」


 言葉と共にお姉様の右手に剣が握られる。

 薄紅色の、細い、片刃の剣。

 見たことのないデザイン。けれど、お姉様のように美しい剣。


「魔剣か!」


 侯爵が驚きの声を上げる。


「聖剣桜花。以後お見知りおきを」


 言って聖剣を構える。

 でも、そのまま剣を振ったら、刃とは逆側が当たるのでは?

 そんな疑問を持つ間もなく、お姉様が正面に魔術を放ち、壁を吹き飛ばした。

 開けた穴から庭が見える。


「逃がさないよ!」


 ノアプテが叫ぶと、メイドや執事が穴の前に陣取った。


「ありがとう」


 お姉様が微笑み、敵陣に突っ込む。

 そうか、一か所に集めたんだ。

 いや、そんなことをしても勝てない。勝てるわけがない。


 普通なら。


 お姉様は普通じゃなかった。

 素早く、舞うような動きで次々と相手を斬り倒していく。


 否。よくみれば、斬ってはいない。

 全て剣の刃を当てず、殴り倒していた。


 後で聞いたところによると、峰打ちというらしかった。

 操られているだけであろう、彼等に対する配慮。流石です。


 メイドと執事を打倒し、残るは侯爵と吸血鬼のみが残った。


「学生にしては、やるじゃない。でも、不死の血族はそこで倒れている塵とは違うわよ」


 忌々しげにノアプテが吐き捨てる。


「そうね、本気を出さないと」


 お姉様も剣の刃を返した。

 次は、斬る。



 二つの影が交差する。

 1度、2度。

 私も、侯爵も動けない。

 どうやら侯爵にも戦闘能力は無さそうだ。


 3度。


 お姉様は数か所に傷を負っている。けど、深い傷はない。

 あの程度なら、私の治癒魔術でも完治できる。


 問題は、吸血鬼。

 こちらは無傷。


 でも、お姉様の攻撃は当たっている。

 絶対に斬っている。

 でも、なんともない。


「それなりにやるようだけれど」


 悪魔が勝ち誇って言う。


「不死の血族は傷つかない。死なない。

 ああ、日の光には多少弱いわね。日焼けすると後が怖いわ。

 でも、その程度。あなたに……いえ、誰にも私は殺せない」


 絶望的な言葉が紡がれる。


「飽きてきたし、貴女があんな大穴開けちゃったから、そろそろ騎士団が来ちゃう。

 それは面倒だから、死んで」


 その言葉を聞きながら、お姉様が何かを取り出した。

 小さな、小瓶。

 その中身の液体で、剣を濡らす。


「なぁに、それ? 毒? 効かないわよ!」



 お姉様に悪魔の爪が迫り、腕が舞った。



「ギィィィィィィィィィィィィヴャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」



 耳をつんざく絶叫。

 その主は、ノアプテ。



「キレタ……切れたぁ……ナンデ……何でぇ!?」



 ありえないモノを見るように、お姉様を。その剣を凝視する。


「不死の血族は傷つかない。死なない。老いない。病もない」


 お姉様が一歩踏み出す。

 同じだけ下がるノアプテ。


「でも、より高位の血族の血を使えば、貴女達を滅ぼせる」


 そう言って、瓶をノアプテに投げつける。


「ギャァァァ!!!」


 割れた瓶から零れた液体が、吸血鬼の肌を焼く。


「貴女への裁定は、その血の持ち主より承っています。有罪。死刑」


 剣を突きつける。


「何で……お前がそんな事を……」

「彼は私の家庭教師でして。元、ですが」


 ノアプテの目が恐怖に見開かれる。


「血の主が家庭教師だと!?

 血族を滅ぼす方法も教えられたというのか!?

 それに、私の魔眼をこれほど受けても何ともないなんて……

 お前は、いったい、何者なんだ!?」


「王立ノブル学園2年。バーナル・ルーシー」


 お姉様が首を断つと同時に、吸血鬼の体は灰となり、消えた。




「終わったわ」


 振り返ったお姉様がいつもの笑顔で、優しくて。

 私は麻痺していて恐怖がこみあげてきて。

 抱きついて泣いた。


 騒ぎを聞きつけた騎士団の人たちが来ても。



 寮に帰っても。



 ベッドに入ってからも。



 私が泣き疲れて眠るまで。



 ずっと抱きしめて、頭を撫でてくれていた。


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