表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

エルティナの日常

「ただいま戻りました」

「あらティナ。お帰りなさい」


 寮の自室に帰ると、ルーシー様がティータイムを楽しんでいた。


 ルーシー様。私のルームメイト。

 否。お姉様。


 黄金の絹に喩えられる御髪。

 少し憂いを秘めた瞳。

 女の自分でも見惚れてしまう。

 お茶を飲む仕草すら、一枚の絵画のようだ。

 そんなルーシー様が自分のお姉様だなんて、未だに信じられない。

 何せ、学園内にファンクラブまであるような方なのだ。

 男子生徒はもちろん、女子生徒も会員らしい。

 私も会員になろうとしたのだけれど、お姉様に止められた。


 貴女は私の「妹」なのだから、そんなものには入らなくて良いのよ。


 ですって!

 ああでも、会員の方が持ってるお姉様グッズはちょっと欲しい……


 おっと、見惚れている場合ではない。

「お姉様、クッキーを買ってきました。お茶請けにどうぞ」

「ありがとう。これを買いにわざわざ街に行ってきたの?」

「いえ、父に手紙を出すので、そのついでに」

「それでこんな素敵なお土産がいただけるなんて、伯爵には感謝しないといけませんね。さ、一緒に食べましょう」

「はい!」

 お姉様とのティータイム。

 何て至福のひととき!


「王都には慣れたかしら?」

「はい! でも、人が多いのは慣れませんね。油断したら呑まれてしまいます」

 主要なお店の場所は覚えたけれど、慣れないのは人の多さ!

 故郷ではお祭りの日でもあんなに人はいない。

 お姉様にそう伝えると、

「王都も普段はもう少し静かなのよ。でも、今年の誕生祭は特別だから」

「王女様の戴冠式もあるんですよね」


 この国には現在王様が居ない。

 王女様が国王代理で、側近がその補佐をしている。

 何でそんな事になっているかというと、10年前の火災で王様とお妃様が亡くなっているから。

 王女様もその火災に巻き込まれたけど、生き延びた。

 その時に顔に火傷を負い、人前に出る時は常に仮面をつけている。

 その王女様も今年で18歳。成人して国王の座に就く事になっている。

 来月の誕生祭は女王戴冠祭も兼ねている。

 お父様も、臣下として戴冠式には出席するはずだ。


「そういえば、来週には神学のテストがあるのでしょう? 調子はいかが?」


 う゛……


「だーめーですぅ~」

 私はガックリ項垂れる。

「あらあら、私が教えている時はちゃんと理解できていると思うのだけれど、何がそんなに苦手なのかしら?」

「いやー、私ちょっとノアプテ先生が苦手で……なーんか、ゾワゾワ! ってして授業に集中できないんですよ」

 何ていうか、こう、精神的に受け付けない。

「今年から学園の先生になった方よね? 何が合わないのかしら?」

「それが分かったら苦労はしないですよー」

 頭を抱える私。

「なんか、リベリー侯爵の愛人だとかそういう噂のせいなのかなぁ?」

「リベリー侯爵の愛人?」

 お姉様が眉をひそめて問い返してきた。

「あ、いえ、侯爵家の食客として王都に滞在しているらしいのです。その関係で、そんな噂があるのではないかと……」

 マズイ。こういった話題はお姉様はお嫌いなのだろうか?

「そんな噂があったのね……ところで、ベステス伯爵はそういった方はいらっしゃるの?」

「お父様に? 居ませんよ。愛人なんて。モテ要素ありませんし」

 最近はお腹周りを気にしているようなヒトだ。

「そう? お若い頃は獅子のベステスなどと呼ばれていたのでしょう?」

 おお、その呼び名、お父様本人以外から初めて聞いた。てっきり自称「獅子(笑)」かと思っていた。

「買いかぶりですよ」


 こんな風に、お姉様とおしゃべりするのが、私の日常。

 でも今思えば、お姉様はこの日から準備していたのかも知れない。



 あの悪魔への対策を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ