シロって呼んでね。
冷たい滴が、頬に跳ねて滑り落ちていく感触で目が覚めた。
私のお腹の辺りには、丸まってくっついて眠る、チビがいた。
「コンビニーズ」
チビを気遣い小さな声でお店を出す。
雨足が強くなってきた。
チビを抱えて駆け込む。
ふーっ。
ずぶ濡れになるところだったよ。
チビはそれでも起きないで、ムニャムニャ言っている。
可愛すぎるぞー。コイツメーっ。
この間にパジャマを洗っておこう。。
タオルと下着やTシャツの着替えを用意する。
温かいお湯で、体をふく。
新しい下着に着替え、T シャツを切って作ったスパッツもどきを履く
ジャブジャブと、一枚しかないパジャマを洗濯する。
パジャマを干して、一息つくと、チビが起きてきた。
足元にまとわりついてくる。
「チビちゃ~ん。起きたの?ご飯にする?お風呂にする?それとも、ワ・タ・シ?」
ハイハイ。
お約束。お約束。
ご飯より先に、お風呂にしよう。
「先に、キレイキレイしてから、ミルク飲もうね」
お利口なチビは、クーンクーン言いながらも抵抗しない。
されるがままだ。
ウイヤツメ。
ヨイではないか~。
ヨイではないか~。
一人芝居をしながら、チビを洗いあげていく。洗面台に溜めたお湯が、みるみる濁っていく。
「ちびって……白だったんだね」
よく洗ってタオルで拭きあげると、茶色く斑だったちびの毛並みが、真っ白でフワフワになる。
ふふ。
チビくん、男の子だったのね。
「さぁ。めしあがれ」
少し温めたミルクと、容器にくずした塩むすびを入れる。
チロチロと、ミルクをなめる。
「これから、どうしますかねぇ~。チビちゃんを連れて行きたいけど。ママの所へ帰してあげないとね。心配してるよね~。きっと。」
名残惜しけれど、ここは私がぐっと涙を堪えて、身を引こうではありませんかぁ~。
よっ。ベベン。
「湖の周りにいるかなぁ?ママを探しに行こうねー。テレパシーで察知してあげるからネ」
チビが、じっと私の顔を見る。
どうした、チビ。
大丈夫だよ。
「ふんわりテレパシー!」
「ママはいないもん!」
……?チビ?
突然チビの声が聞こえた。
「ママはいないもん。お姉ちゃんと一緒にいるもん」
「え?ママはいないの?お姉ちゃんって私のこと?」
ハイ!ズキュン!来ました。
お姉ちゃん一発で討ち死にです。
「そう。美味しいミルクくれるお姉ちゃん大好きなの。ママいなくなって一人ぼっちになってフラフラしてたの。そしたらお姉ちゃんが、美味しいのくれたの」
く~。
あざとくても、好きだーっ。
大好きだーっ。
「ママは何処に行ったの?」
「知らないの。大きいのが来たの。ママが隠れてなさいって。でも、ママが帰って来ないの。怖かったの。お腹すいたの。お姉ちゃん好きなの。会えて嬉しいの」
「チビ……」
私は、戦ってチビを守ったであろう母犬を思って、チビをぎゅーっと抱き締めた。
痛くない?
絞めすぎてない?
「じゃあ。お姉ちゃんと一緒に行こう。私も一人だからチビがいてくれると嬉しいよ。チビ……って。チビもいいけど、これからどんどん大きくなるだろうし、違う名前の方がいいかな。ママには、何て呼ばれていたの?」
「わからないの……」
「そうか……うーん」
シロ。
「白くてフワフワの毛並みだから、シロ!当たり前すぎるかな?」
「シロ?ボク、シロなの?うれしいよ。」
ブンブンと尻尾が左右に動き出す。
「ふふ。気に入ってくれて良かった。シロ。私はスズキモモです。モモって呼んでね。これからよろしくね。」
「よろしくです。モモちゃん」
うっ。鼻血が……。
私はようやく旅のお供を見つけて、寂しんぼうから、抜け出せた。
一人と一匹がさ迷う旅は、これから始まるのだ。
やっと、始まります。
一人と一匹。お供を増やしていきたいです。