狼が来た
一晩、森で過ごした。
不本意ながら。
タオルで頬被りをして、タオル靴を履いて、タオルマントをひっかけた私の姿。
逞し過ぎて涙がでるよ。
タオルを剥いでみる。
昨夜豆ができて潰れている箇所もあったのに、消毒して「体力バカー」を唱えると、ぐんぐん回復していった。
綺麗に治癒しているね。
完治している足の指を撫でる。
偉いよ、私の体!
ガンバレ細胞たち!
「怪力娘」「体力バカー」「ふわテレ」を装備する。
ピピピピピー
キケン、ウルフ、キケン、20km先ウルフ×2
突然脳内に流れる。
これが、所謂テレパシー?
以心伝心ライディーンじゃなくて、察知できる力ってこと?
初対面がキケンな狼?
会いたくないよ~。
だって女の子だもん。
噛まれたら痛いもん。
絶対!
ピピピー
ウルフ、キケン、ウルフ×2
脳内を流れる。
うぅ~。
わかってるよ。
ウルフでしょ。
もっとライトな生き物じゃダメなの?
ほら、最初は小動物系から。
徐々に慣れていかないと。
順番は大切だよ。
愚痴っている間に、現れましたよ。
前方目測30メートル先。
その名もウルフく~ん。
デカっ!
面構え悪っ。
癒し系ゼロの悪顔だね。
いっそ清々しいよ。
茶と銀色の悪ヅラトリオが私を、じっと睨んでいる。
こんな時に、どうして私を隠してくれない木々たちよ。
狼くんたちが、睨んでいるではないか。
私の姿が、丸見えでしょうが。
あんたたち、絶対動いているでしょ。
さっきまで私の目の前を、覆い繁っていたでしょ。
歩きにくくさせてたでしょ。
それがどうして、ササーッとキレイに狼くんまでの、道が開けてるのよ。
可笑しいでしょーが。
森も敵なのか?
私の敵なのか?
フッ。
そうであるならば、仕方がない。
戦いたくはないが、私は怪力娘。
二匹相手にブイブイ言わせられなくても、目にモノを見せるくらいは……出来るはず。
よしっ!
モモ、いきまーっす。
「ムキムキ怪力娘ーっ!」
ありったけの声で叫びながら、一番近くの大木(直径1m位)を唸りながら引っこ抜き、乙女とは思えぬ形相でウルフくんたちの方へ放り投げる。
「おりゃあーっ!」
乙女の魂を受けてみよーっ。
キャンキャンキャーキャーン……。
狼の声があっという間に遠ざかっていく。
見た?見た?見た?
ウルフくんたちのひきつったお顔。
逃げ足のすこぶる速さ。
フッ。
勝ったな私。
髪の毛をかきあげようとして、頬被りをしている事に気づく。
フッ。
まぁいいさ。
戦わずして勝つ!
良かったよ。怪力娘で。
サーチしてみたが、狼の気配は感じない。
データも流れて来ない。
逃げ足速造だね。
でも、20kmの距離で引っ掛かって、今データが出てこないのは、ウルフくんがよっぽど俊足なのか、敵意あるものしか察知しないのか……?
ふむ。
その辺りが、ふわ?のふわたる由縁?
限界なの?
怪しい森よ!
あんたたちの本性はわかったからね!
もう遠慮はしないからね!
バンバン、コンビニ出しちゃうからね。
チクショウメ。