さよならは別れの言葉じゃなくて……。
ジュウとヨミさんは、テーブルを挟んで長い間見合っていた。
「そろそろ、お茶のお代わりどうかしら?」
ヨウウさんが何杯目かのお茶を注ぐ。
「オレは、行くから!」
ジュウがきっぱりと言いきる。
「モモさんに付いて回って楽しいか?それからどうする?彼女に守ってもらうのか?」
「モモとミーナはオレが守る!」
ヨミさんが、首を横にふる。
「お前は何もわかっちゃいない。口で言うのは簡単だが現実は違うんだ!」
ジュウは唇を噛み締める。
「これはチャンスだと思う。村にいたら旅に出る機会なんてないよ。オレは、今のホホロを見てみたい。アステリアもドミニクもセントリアも。」
「……」
「いいんじゃない?」
「ヨウウ!お前!」
「だって、白竜様とワヒーラのシロちゃんとモモちゃんが一緒なのよ。正直ジュウは迷惑をかけると思うけど、こんな豪華なパーティないわよ。確かにチャンスだわ」
「かーちゃん!」
味方を得た、ジュウの顔が輝く。
「ミーナちゃんの面倒をみること。自分のことは自分ですること。出来る?」
「もちろん!出来るさ!」
ジュウが大きく頷く。
「何でも食べてお腹を壊さない。ちゃんと無事に村まで帰ってくること。約束出来る?」
「や、約束する!」
ヨウウさんが優しい笑顔でヨミさんとジュウを交互に見つめる。
「わかったよ……。ジュウ、大陸を見てこい!男になれ!」
ヨミさんの力強い声にジュウは、力一杯頷いた。
こうして、ジュウの旅立ちは許された。
「食べることは重要だからね。ミーナは欠かせないよ」
朝晩の食事でミーナちゃんにすっかり餌付けされているホトちゃんが、タダノさんを無理矢理説得して、ミーナちゃんの旅立ちも決まった。
「白竜のオレサマが一緒に居るんだぞ!森に帰る時に連れて帰ってやる。大船に乗れ!」
ホトちゃんのその言葉で、タダノさんも落ちたみたいだけど。
獅子王様は、戻って来るのは次の変異の三百年後迄に……って言っていたよね。
うん。秘密にしておこう。
ちゃんと連れて帰るよタダノさん。
私だって村のみんなにまた会いたいもん。
それからジュウは剣や槍を整備し、稽古をつけてもらい、私とミーナちゃんはヨウウさんたちに手伝われて旅支度を始めた。
乾燥したククの実や果物、干肉、作務衣風の上下服、ワンピース、サンダル、布……必要なものは数限りない。
それを最小限に選別していく。
ミーナちゃんの家で皮袋に荷物を詰めていると、アジ婆さんが訪ねてきた。
「これを持って行きなさい」
青い石の周囲に金の細工が施してあるネックレスを手渡された。
「これはホロロ国の宮廷魔力者の証。役に立つこともあるだろう」
私は慌ててアジ婆さんの手に戻す。
そんな大切なものは戴けない。
「私はもう、ホロロ国の地を踏むことは無いだろう。だが、国の行く末も、残された者たちの行く末も、ずっと気にかけていた。私はタタ村で朽ち果てる覚悟だ。せめてこのネックレスを一緒に連れて行ってもらえないかい?」
アジ婆さんが私の手にしっかりとネックレスを握らせる。
手には熱が込められていた。
「これは私の願いなんだよ」
私は自然とアジ婆さんと抱き合っていた。
「宮廷魔力者のセダレと言う女がいる。私と同じ水魔力持ちだ。何かあれば、彼女を頼るがいい」
アジ婆さんの小さな体が私を包み込む。
「ホロロ国を見てきますね。セダレさんにも会って、アジ婆さんに報告しに帰って来ますね」
胸の奥がツーンとなってたまらなくなる。
私たちの出発の日は、もうすぐそこだった。




