シロの覚醒
「モモさん、果てない森に本当に行くのかね?どうしても行くのなら明日にしたらどうかね?」
アジ婆さんやジュウやミーナちゃんや教官たちに見送られながらも、引き留められる。
「早く様子が知りたいし、まだ暗くなる前だから大丈夫です。行ってきます」
力強く出発の挨拶をしているのに、半べそのジュウとミーナちゃんが情けない声を出す。
「……モモ~」
「モモさ~ん」
「大丈夫だから。帰ったら一緒にひとっ風呂浴びに行こう。ジュウも一緒に入る?」
「入んねーよ!」
「ふふ。じゃあ、ちょっくら行ってくるわ。シロ行くよ」
「モモちゃんOKで~す」
あばよ!のポーズで村のみんなと別れた。
「シロ、走るからリュックに入って」
「りょうかいで~す」
シロを背に、森まで駆け出す。
果てない森に着くまでに、獣人の気配はもう感じない。
逃げてったのかな?
私が森を渡った時も、ウルフくん以外サーチ出来なかったからね。
森の動物たちは、居ても害無く過ごしていると、引っ掛からないみたいなんだよね。
果てぬ森もスプリンターモモちゃんなら、あっという間に着くことが出来た。
「さぁ、シロ。森に入るよ。覚悟はいい?」
「シロはモモちゃんと一緒!」
そうして私たちは、再び怪しい森の中に足を踏み入れた。
「こんにちはー。ししおーさん。はじめましてー。モモでーす」
「シロでーす」
アホの子みたいに叫びながら、歩く。
「ししおーさん。何かありましたか?お困りじゃないですか?」
相変わらずクネクネと伸びて来たり、通行を邪魔する枝や木々たちを振り払いながら、獅子王様に呼びかける。
だってもう、お伺いする相手は獅子王様しか居ないでしょ。
あ!しまった!
お供えものを忘れた。
アジ婆さんは初めて森を訪れた時、貢ぎ物を持ってきたって言ってたよね。
今あるのは……いちご飴の残りとタオルとお水?ぐらいしか入ってないよ。
コンビニーズする?
何か必要かな?
ピピピピピ
ウルフ、キケンなウルフ×5 1キロ先
思案していると、データーが入ってきた。
ウルフって、あの悪ヅラウルフくんかな?
しかも、五匹も。
この数は危険かも知れない。
ムキムキ怪力娘でやり過ごそうと思っていたけれど……。
戸惑っている私は、現れた狼たちに一瞬の間に囲まれる。
……ヤバイ。
ヤツラは私の周りを、低い姿勢で徘徊しながら威嚇する。
そこに居るのはウルフくんではない、獰猛な牙を持つ野生の狼だ。
私は震える手で、何とか大木を掴み取る。
持ち上げた大木を、狼が近付かないように振り回す。
全身が冷えてきた。
……怖い。怖いよ。
右手から茶色狼が飛び掛かってくる。
大木を振り回すバランスが崩れる。
背後から灰色狼が、私の左腕に噛みつく。
痛みに全身が痺れる。
鮮血が流れ落ちる。
膝がガクガクして、力が入らない。
どうしよう。
戦意喪失している私の腹部を、茶色狼の牙が掠め取る。
傷つけられる痛みと恐怖に、私は膝をついてしまった。
どうしよう。怖いよ。
自分の力を過信していた。
どうしよう……。
震えが止まらない私の背中から、シロが飛び出してきた。
「ボクのモモちゃんを虐めるなー!」
小さい体で私の前に立ち、狼たちに立ち向かおうとする。
ダメだよシロ。危ない!
10分の1の大きさにも満たないシロに、狼たちが、笑ったような気がした。
「モモちゃんを虐めるヤツは許さない!絶対にボクが許さないーーーーーっ!」
シロの絶叫が森に響き渡る。
小さいシロの体が光っている。
光を発しながら、体がどんどん大きく変化していく。
白い鬣が揺れて2メートルもあろう大きな体躯に姿を変える。
毛を逆立たせて低い声で唸る。
私を傷つけた茶色狼と灰色狼の首筋に噛みつき、その体を放り投げる。
這いつくばらせた二匹の体の上に立ち、雄叫びをあげる。
オオオオゥーー!
王者の風格だ。
残った狼たちの目が怯えている。
睨み付けるシロに、頭を垂れる。
腹を見せて服従のポーズをとる。
「次は許さない!二度とモモちゃんに近寄るな!」
シロの雄叫びに、あっという間に狼たちは、森の奥へと消えて行った。
そう言えば、あんたたち逃げ足速造だったよね。
シロが血が止まらない私の腕と脇腹を、ペロペロと舐めてくる。
「モモちゃん、痛いでしょ?かわいそう」
「ありがとう、シロ。大きくなったね。変化するのがシロの力だったんだね」
「モモちゃんがヤられちゃうと思ったら、全身が熱くなってこんなになったんだ」
「仔犬のシロじゃないね。狼だよね。白くてこんなに立派な体躯、伝説の狼ワヒーラじゃない?」
「ワヒーラ?ボクはシロだよ。大きなボクは嫌い?」
大きな体で首を傾げるその姿は、小さいシロのままだ。
「大好きだよ」
大きなシロに抱きついた。
凄いねシロ。
伝説のワヒーラに変化したね。
「そのまま、引き返すがよい!」
森の奥から重厚な声が聞こえてきた。
これは、獅子王様の声?
「もう一度言う、そのまま、引き返すがよい!」
獅子王様の声が聞こえてくる森の方向を見つめると、スポットライトが当たったようにそこだけが明るく発光し、うっすらと霧がかかった視界の中、木漏れ日が揺れていた。
読んで頂いてありがとうございます。可愛いだけじゃないシロくんです。




