竜の森
ロッキングチェアに揺られて、お茶を飲んでいたアジ婆さんが、膝掛けを畳んで佇まいを正した。
「ウエスリア大陸には、二つの壮大な森がある。グリーンランドにある妖精の森。そして、ピレーネ山脈の麓にある果てない森。どちらもお互い役割を持っておる。モモさんは、ピレーネ山脈にいたんだね」
「多分そうだと思います。岩山が連なって、寒くて険しい山並みでした」
フム、アジ婆さんが頷く。
「モモ、竜には会わなかったか?あのお山には、火竜と白竜がいるんだ」
ジュウが勢い食い付いてくる。
なんですとー。
ザ・ファンタジーじゃないか。
竜?会いたいよ。会ってみたいよ。
「竜はいなかったけど……」
そういえば、気配も感じなかったな。
サーチにも引っ掛からなかったし。
「ちぇっ。どっか別の場所に移動されたのかなぁ。全然姿見ねぇよ。前は遠くでも飛んでたんだぜ。でかくて、スゲーカッコいいんだ!」
男の子だねぇ。
興奮して話すジュウに、そういえば、真珠色の鱗のようなモノを、拾ったことを思い出す。
ガザガサとリュックの中を探る。
お。コレコレ。
「いや。白竜様と火竜様はピレーネの山におるはずよ。その為の果てない森なのだ。あのお山には……」
失礼ながら、私はアジ婆さんの話を遮る。
「あの~。お話しを聞いてて思ったのですが、これはもしかして、竜の鱗じゃないかと。ホラ、白くてピカピカしてるし」
テーブルの上に、真珠色のを並べていく。
「モモちゃん、それなぁに?キレイなのー。ピカピカなのー」
シロが興奮したように、私の膝に飛び乗って来た。
「ふふっ。キレイでしょー。シロにも一枚あげるね。良かったら皆さんもどうぞ?」
「……」
一枚づつ差し出したのに、四人共固まってしまっている。
どうしたの?キレイでしょ?
もしもーし。もしもーし。
「コレは、白竜の鱗か?」
「スゲー。竜の鱗だ!」
「間違いないねぇ。白竜様の鱗のようだね。これは山にあったのかい?」
「はい。沢山落ちてましたねぇ。全部は拾って来なかったんですけど」
アジ婆さんが、暫し考え込む。
「どうやら、三百年目が近づいているのかもしれないね」
三百年目?
「果てない森には、セージュの樹が生えている。その樹になる実が、三百年毎に生まれ変わる白竜様のお力になる。白竜様のための宝果だ。その実を、獅子王様が守られておる。森を動かし、誰も入らぬように守られておるのじゃ」
なんですとー!
そんな神秘的な任務を抱えた森だったなんて……。
私に意地悪をする、性悪な森だと思っていたよ。
それに、獅子王様?
なにその、男前のネーミング。
是非とも会ってみたいよ。
「宝果を手に入れんと森に入った愚か者もおるが。戻って来た者はおらん。モモさんは、その森を抜けてきたんよのぅ」
確かにそうだけど。
それは、優しい声さんに導かれただけの気もするし。
そんな事で、勇者認定されてしまったら……困るよ。
困りんこだよ。
「まぁ、何も無いですけど、鱗でもどうぞどうぞ」
日本人丸出しで、おすすめしてみる。
「白竜の鱗は持つ者に幸せをもたらすと言われている。伝説の御守りじゃ」
アジ婆さんは、ゆっくりと白竜の鱗を手に取った。
優しくそっと、鱗を撫でる。
真珠色の光がアジ婆さんを照らして輝いていた。




